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人々の決断の真意を探りながら読む小説―三浦綾子『天北原野』―

先日読書会があり、その記録は以下の記事にまとめられている。毎度のことながら、この労力に恐れ入る。今回は私が紹介した小説について取り上げよう。

当初はこの本を紹介するつもりはなかった。だが同時に、とあるグループLINE(読書会のメンバーも一部含まれている)でこんな風な話題がポロっと出て、それが頭に残っていた
「読書で共感できる・できないが、面白い本かどうかの基準(の1つ)になりつつある(らしい)」
・・・ならば、その基準では手に取ることがなさそうな本を取り上げようではないか、という発想から、紹介する本を急遽変更したのだ。

以下、物語の概要をざっと記そう。ネタバレにならない程度に。

北海道の北部にある小さな漁村ハマベツで代用教員をしている孝介、そして、孝介と結婚を誓い合った貴乃(きの)。その貴乃に恋心を寄せる完治。完治の策略(この言葉が適切とは思えないが、いったんここはこのままにしておく)によって、孝介一家は左遷&離別の憂き目に合う。貴乃も完治の強引な行動の結果、漢字の妻となってしまう(当時ならまだ許される行為の範疇なのかもしれないが、現代だったら、即アウト)。

何事もなければそのまま結婚して幸せな家庭をハマベツで築いていたはずの2人を引き裂く完治の行為。完治の「わがまま」な行為によって、運命の歯車を狂わされた人々が道北・樺太の地で生き抜く過程を描いた物語である。

孝介や貴乃ら登場人物の行動や決断に共感するできる部分はある。しかし、少なくともそうでない部分もかなりあった。「孝介さん、その決断よくできるな…」「貴乃さん、ここはどんなことがあっても譲ってはダメでしょうよ」などと言いたくなる局面は少なからず存在する。

だからこそ、その共感できない行動や決断に対して、その真意を探りたくなる。環境の過酷さ、運命の歯車の残酷さに直面しながらも、生きていくため、家族や周囲の人を守るために行われる数々の決断。その真意を探りながら読み進めていくことにこそ、この小説の面白みがあるのだろう。

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