見出し画像

「渋谷区チーム」の組成。渋谷が実現する、スポーツと地域の新しい関係性。:『スポーツの価値再考』#009【前編】

2020年、『スラムダンク勝利学』の著者・辻秀一とラクロス協会理事・安西渉が、各界のゲストとともにスポーツと社会の関係を掘り下げていく全10回の対談。スポーツは本当に不要不急か――この問いから、「スポーツの価値再考」プロジェクトは始まりました。

第9回の対談相手は、渋谷区長の長谷部健さん。部活動に励んでいた学生時代から行政に携わる現在まで、長谷部さんの人生はスポーツなしでは語れないといいます。そんな長谷部さんが語る、スポーツと地域の「新しい関係性」とは。

学校が地域コミュニティのハブになる。「渋谷区チーム」という新しい部活動の形。

辻:今回は渋谷区長の長谷部さんにご参加いただきました。学生時代は部活動を通してスポーツに触れ、現在は行政の立場でスポーツの新しいあり方を構想されていらっしゃいます。スポーツには多種多様な課題がありますが、渋谷区という地域特有の課題はあるのでしょうか?

長谷部:渋谷区は区立学校の生徒が少ないんですね。区内の子どもの多くは中学受験、高校受験をして区外の私立学校に進学する。特に中学生は、だいたい半分くらいは区外に出ます。となると、区立中学校でチームスポーツが成り立たなくなってしまうんですね。

辻:野球やサッカーだと20人以上はいないと紅白戦すらできないですもんね。

長谷部:紅白戦どころか一つのチームすら作れない学校がほとんどです。そもそも野球部が作れないし、作れたとしても9人集められないという状態なんですね。

辻:その現状に対して、区としてはどういった取り組みを?

長谷部:今構想しているのは「渋谷区チーム」の組成です。一つの学校で作れないなら、複数の学校が集まればいいという発想です。もちろん大会出場のルールなど制度的な課題は伴いますが、まずは子供たちが好きなスポーツに思い切り取り組める場を提供したいです。

辻:少子化が進む今、素晴らしい取り組みですね!他の区でも応用できそうな取り組みだと思います。

長谷部:「渋谷区チーム」というあり方は、先端的な取り組みにチャレンジしてきた「渋谷」という区がもつカルチャーともフィットしていると思います。
このあり方は、野球やサッカーといった従来のスポーツだけでなく、eスポーツにも応用ができると考えています。IT企業が多い渋谷ならではの取り組みですが、IT企業のオフィスの一部を開放して、放課後そこに生徒が集まってeスポーツに取り組むといったこともできると思うんですよね。

長谷部区長 写真(公用)

辻:スポンサーシップなどを通じて民間企業との繋がりも生まれそうですね。「部活動」の新しいあり方だと思います。

長谷部:まだ構想段階ですが、将来的には部活動をする「場」も変えていこうと思っています。各学校のグラウンドや体育館を住民にオープンにしていきたいな、と。すべての学校にあらゆる設備があるわけではないので、お互いに役割分担できるようになると思います。たとえば、水泳したい子供たちは温水プールがある学校に、野球したい子供たちは大きなグラウンドがある学校に集合するといった既存の枠にとらわれず、オープンにしていきたい。そこに地域の住民も参加するようになれば、コーチになってくれる人も見つかり、地域コミュニティが活性化すると思います。

安西:なるほど、学校をオープンなインフラとして整えるというわけですね。

長谷部:学校が地域コミュニティの核となって、スポーツを通じて子どもからビジネスパーソン、お年寄りまで、あらゆる住民が繋がる社会を目指せると思っています。

安西:海外ではスポーツが地域コミュニティに根差し、スポーツを通じて繋がっているケースが見受けられます。日本でも渋谷を起点としてスポーツと地域の新しい関係性を構築できそうですね。

試合が育む「勝ちきる力」

辻:部活動の支援に積極的に取り組まれている背景に、長谷部さん自身の原体験のようなものはあるのでしょうか?

長谷部:中学ではバレーボール、高校では柔道、大学ではオージーボールをやっていたのですが、部活動を通じて「勝ち筋を考える」姿勢が身につきましたね。勝ち負けという結果にこだわることも大切な要素ですが、試合中、どうしたら勝てるか、どうしたら劣勢を跳ね除けられるか、といったように、勝ちに持っていく流れの作り方、いわば「勝ちきる力」というのはスポーツを通じて学べる大切な姿勢だと思います。試合前の準備、モチベーションの整え方、ビハインドの時に気持ちで負けないメンタル、そういった要素は社会に出てからも間違いなく自分を支えてくれます。

画像2

辻:単に場所がない、人がいないという理由で、子どもたちがスポーツに触れられず、そういった経験を積めないのはもったいないですよね。

長谷部:部活動はとてつもなく厳しくて辛い時もありましたが、やはり楽しかったんですよね。スポーツを通じて得る経験は結果としてついてくるもので、当時は単純に楽しかったからスポーツをしていました。勝つから楽しい、仲間といるのが楽しい、そういった思いでがむしゃらに取り組んでいましたね。

辻:スポーツをやる上で勝ち負けという要素はやはり大きかったですか。

長谷部:中学生の頃の私にとっては、やはり勝つと楽しいので、結果に対する意識も強かったです。ただ、今となっては勝ち負けという結果にかかわらず、ただスポーツに触れるということが素敵だと感じています。朝にランニングするとか、仕事終わりに泳ぐといった行為には勝ち負けはないですよね。でもすごく爽快感がある。スポーツの価値は「スポーツをする」という行為自体に含まれていると思うようになりましたね。

プロフィール

長谷部健(はせべ けん)
渋谷区長
1972年東京都(渋谷区)生まれ。
渋谷区立の小学校、中学校を卒業し、大学在籍中にはオージーボール日本代表に選出。株式会社博報堂退職後、ゴミ問題に取り組むNPO法人green birdを設立。2003年、渋谷区議会議員に初当選し、2015年まで務める。2015年に渋谷区長選挙に立候補し当選し、現在2期目。「ちがいを ちからに 変える街。渋谷区」を未来像として掲げ、さまざまな政策に取り組む。
・HP:長谷部健公式サイト
・HP:渋谷区公式サイト「区長の部屋」
辻秀一(つじ しゅういち)
スポーツドクター/スポーツコンセプター
北大医学部卒、慶應病院内科研修、慶大スポーツ医学研究センターを経て独立。志は「ご機嫌ジャパン」と「スポーツは文化と言えるNippon」づくり。テーマは「QOLのため」。専門は応用スポーツ心理学に基づくフロー理論とスポーツ文化論。クライアントはビジネス、スポーツ、教育、音楽界など老若男女の個人や組織。一般社団法人Di-Sports研究所代表理事。著書に「スラムダンク勝利学」「プレイライフ・プレイスポーツ」など、発行は累計70万冊。
・HP:スポーツドクター 辻 秀一 公式サイト
・YouTube:スポーツドクター辻秀一
・Instagram:@shuichi_tsuji
・Twitter:@sportsdrtsuji
安西渉(あんざい わたる)
一般社団法人日本ラクロス協会理事/CSO(最高戦略責任者)
資本主義に埋もれないスポーツの価値と役割を追求し、様々なマーケティングプランを実行。大学から始めたラクロスを社会人含めて15年間プレーし、現在は大学ラクロス部のGM/コーチを10年間務める。
1979年生まれ。東京大学文学部にて哲学を専攻。在学中の2002年よりIT&モバイル系の学生ベンチャーに加わり、2014年からITサービスの開発会社の副社長を務める。
・note:@wataru_anzai
・Instagram:@wats009
〈サイン入り色紙プレゼントのご案内〉
この記事をTwitter、Facebook、Instagramのいずれかでシェアしてくださった方の中から抽選で3名の方に、長谷部健氏と辻秀一氏の直筆サイン入り色紙をプレゼントいたします。
応募期間は、5/27(木)から6/10(木)です。以下の応募手順をお読みになり、奮ってご応募ください。

▶Twitter
 ①プロジェクトの公式アカウント(@value_of_sports)をフォロー
 ②記事が投稿された公式アカウントのツイートを引用リツイート
 ③引用リツイートの際にハッシュタグ「#スポーツの価値再考」をつける
▶Facebook
 ①この記事のURL(リンク)をシェア
 ②ハッシュタグ「#スポーツの価値再考」をつける
▶Instagram
 ①プロジェクトの公式アカウント(@value_of_sports)をフォロー
 ②公式アカウントのこの記事を紹介した投稿を、ご自身のアカウントのストーリーズにてリポスト
 ③リポストの際にハッシュタグ「#スポーツの価値再考」をつける

※いずれの場合も、非公開アカウントではご応募になれませんのでご了承ください。
<お問い合わせはこちら>
▶公式Twitter @value_of_sports
▶公式Instagram @value_of_sports
▶事務局メールアドレス value.of.sports.2020@gmail.com

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?