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【ベーカリー バカンス】シンプルなパンは、複雑な生地から【後編】

もう2月。皆さん体調は崩されていませんか?
相変わらずの世の中ですが、こんな時こそおいしいパンを食べて、心だけでもバカンス気分で過ごしていただけたらうれしいです。
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さて、今月は前回に続く【後編】をお届けいたします。
(前回の記事はコチラ。パン職人・村本にググッと迫りました↓)

菓子パンやハードパンなどさまざまな生地を使ったパンが並ぶパン屋と違い、[ベーカリー バカンス]では、ベースとなるパン生地は看板商品であるバカンス食パンの2種のみ。
後編では、シンプルだからこそ奥深い、バカンスのパン作りの世界をちょっとだけ覗いてみました。

加水率100%、唯一無二のパン

バカンスも食パンも、どちらも水分量が多く独特の食感が特徴です。この記事を書いている私はパン職人ではありませんが、初めてバカンスを食べた時の印象は「なんか炊きたてのごはんみたい」でした。

ハード系の見た目なのに水分がたっぷりで噛むほどに甘く、でも表面にはおせんべいのように香ばしい風味があって、食べ疲れないやさしい後味で・・・と、今までのパンとは違うことはすぐにわかりました。

そして、後にも先にもこの食感や味わいは他で出会ったことがありません。一体何が違うの?と聞くと、

「バカンスと他のパン屋さんのパンの一番の違いは、やっぱり水分量が圧倒的に多いことですね」と村本。

バカンスも食パンも、小麦粉にお湯を入れてこねる湯種製法。熱湯でグルテンを破壊(アルファ化)することでモチモチした食感を作るやり方で、多くのパン屋が取り入れるオーソドックスな製法です。

ところが、粉に対する水分量に大きな違いが。「一般的には、粉に対する水分量は多くても70%くらい。でもうちでは粉と同量の水分を加えています。これは結構、異常かも。他店があまりやらないのは、やっぱり生地が扱いづらいから。自分が狙った形に成形しづらいんです」

バカンス。原材料は【小麦粉・水・塩・みりん・酒粕・米粉・イースト】
食パン。原材料は【小麦粉・水・塩・イースト】

さらに湯種生地に普通の小麦粉を混ぜることで、ちょうどいい歯切れやストレスのない口どけを生み出しています。

ちなみにバカンスで扱う国産小麦は5〜6種で、それらをブレンドしてパンを焼き上げています。乾燥した地域で作られる外国産の小麦粉と違い、国産の小麦は元々の水分量が多く、モチモチした食感になりやすいという特徴も。

「日本人は欧米人に比べて唾液の分泌量が少ないから、本場のボソボソしたハードパンは苦手。バカンスは、水分量の多いコメを主食にしている日本人でもおいしく食べられる、口どけのいいハードパンとして提案しています」

一つひとつ形が違う、不揃いな形のワケ


バカンスというパンは、いい意味で形が不揃い。

「丸だったらまん丸に成形する、みたいなことを〝生地をしめる〟と言ったりするんですが、バカンスに関してはしめすぎないっていうのが意外とキモだったりします。そこまでしてしまうとバカンスは食感が変わってしまうから。だから、あえてざっくりとした成形にしてます

日によっても違う膨らみ方。右に伸びたり上に伸びたり、パンによる個性があるのも愛らしい。

水分量が多いバカンスの生地は、やっぱりちょっと特殊。「バカンスは本当に複雑な生地なんです。練るのも、形成するのも、焼くのも難しい。ベテラン職人だったとしても、この生地に慣れてないと扱えないんちゃうかなと思います」

高加水のため、火入れに関しても水分をしっかり飛ばしてあげられるかが大切。「発酵に関しても何にしても、見極められるのが職人。 プロセスのどこかでカバーできるとかはなくて、工程の中でどこか一つでもズレたらうまくいかんくなる。発酵時間がちょっと短ければ成形した後にダレたりするし、キレイに練れても発酵の温度をミスれば膨らまなかったり。全部の工程がきちんとうまくいって初めて、おいしいパンになる」とのこと。

おいしいパンを作るために、今日も職人たちはひたすら生地と向き合っています。

感覚と理論のバランス


生地と向き合う姿勢、見極める目利き。それらはやはり、これまでに出会った師匠たちから教わったそう。

でも・・・

「前の店のシェフとは変な別れ方をしてしまって・・・。二度と会えない元カノみたいな感じっす(笑)」

そう茶化しながらも、「シェフには〝職人たるや〟を教えてもらったと思います。線じゃなくて点で仕事をしろっていうのが名言でした」と村本。

「成形はコレ、発酵はココ。焼き色はこの色からこの色じゃなくて〝この色〟っていうように。まさに、THE職人の仕事を叩き込んでくれました

そしてバカンスのレシピを共に考案してくれた[ヒヨリブロート]の塚本さんからは理論を学ぶことで、「超感覚人間だったけど、塚本さんに出会ってバランスが取れたかなと思います」と、今の自分を見つめます。

ちなみに、そんな自分の元で働きたいという人がいたら?と聞いてみました。

「初めて働くのがウチだったらどこでも通用するようになるかもしれないけど・・・でも逆に、最初にこんな変化球の店に来ると大変かも、とも思う。いきなりトルネードやから、まずストレートを投げれた方がいいかも(笑)。そして僕、人に教えるのがめちゃくちゃ苦手なんすよね・・・」と、意外(?)な返答が。

神戸の街に愛されるパン作り


実はバカンスのパンは、神戸のレストランや居酒屋などの飲食店でもお取り扱いいただいています。

街に愛されるパン屋っていうのが店の目指す姿なので、こうしてバカンスが広がるのはめちゃくちゃ嬉しい。オリーブオイルとかの油とも相性がいいから、料理人の人が店で使ってくれてるんじゃないかなと思います」

とにかくシンプルなのは食パンもしかり。「高級食パンがブームだった頃、時代に逆らって最もシンプルな食パンを作ったんで。時代とは真逆な食パンですよね(笑)」

バカンスが店を構えるのは神戸。「神戸はパンの街」と言われてきましたが、パン職人の村本自身の実感は、世間が思うそれとはちょっと違う様子。

「確かにパンが身近にある文化だけど、大阪みたいに尖った素材を使ったパンとかは神戸では受け入れられにくい気がしています。舌が肥えてるという意味では、大阪なのかも。神戸の文化は庶民的な大手パン屋さんが支えてきた部分が大きいと思う」

関西でも異なるパン文化。「神戸の街でパン屋をやるからには、神戸の街の人が好きなパンを作っていきたいです」と、やっぱりベースはあくまでこの街と人。バカンスがおにぎりのような国民食に近づくことを目指して、〝バカンス気分になれるパン〟を追求していきます。

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今回もお読みいただきありがとうございました!次回は3/1更新予定です。
いよいよ、次は2号店の[ル・クロワッサン・ド・バカンス]のパン職人・追中に話を聞き進めていきますよ〜!

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