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【ル・クロワッサン ド バカンス】回り道したから見えた景色【前編】

ル・クロワッサン ド バカンスの店内。種類豊富なクロワッサンがずらりと並びます。

2021年6月にクロワッサン専門店[ル・クロワッサン ド バカンス]をオープンしてから早8ヶ月ほど。

1号店からのお客様だけでなく、オープン直後から新しいお客様にも数多く足を運んでいただきました。このご時世の中で、本当にありがたいことです。

ただ、このコロナ禍。私たちの想像を超える数のお客様が来てくださり、当初は入店の際の人数制限や個数制限をしていました。めちゃくちゃ嬉しい反面、心苦しくもあり。。。

1号店からこの姉妹店へ移り、店を仕切ることになったパン職人・追中 隆が当時を振り返ったこの言葉が印象的でした。

「オープンからしばらくは、1人5個までと制限があったし、製造側もとにかくバタバタで・・・。本当に満足してもらえてたのかなって不安でした」

少し余裕が生まれた今。改めて、このクロワッサン専門店についてもお話させていただければと考えています。

なぜクロワッサンに特化することになったのか? 
パンを焼く職人はどんな人間なのか?
1号店との違いは?
クロワッサンのこだわりは?
・・・etc


今月・来月は、バカンス姉妹店のそんなあれこれに迫ります。前編として、追中シェフのインタビューからお届けします!

(1号店の職人・村本の記事もぜひ!)


パティシエを目指して、広島から大阪へ


追中の出身は広島・呉市。「元々はパティシエになりたくて、大阪の製菓専門学校に通っていました。工業高校出身で、作ることはなんでも好きなんです。パティシエを目指していたのは、自分にとって特別だったケーキの作り手になってみたかったからです」

「田舎だし、家でケーキを食べるのは誕生日とクリスマスぐらい。自分にとってケーキは特別なものだったんですよね」

パティシエ志望だったにもかかわらず、パン職人の道へ進路変更したのは専門学校を卒業する2〜3ヶ月前だったとか。

「大阪に来てみると、今度はケーキを食べる機会が増えて。『都会ではケーキって日常のものなんだ!』って気づいたんです(笑)。そしたら特別なものというよりも、逆にもっとみんなが毎日食べるものに携わる方が面白いんじゃないのか?と思い始めて、パン職人になろうと決めました」

卒業ギリギリで始めた就活。就職先は、村本の前職場と同じ、大阪・肥後橋にある[ブランジュリー タカギ]。追中の方が数年先に入社した先輩です。

「どうせなら関西圏で屈指の厳しい店に行った方が成長が早いなと思って、タカギへ。当時めちゃくちゃスタッフがいたんですけど、なぜか採用してもらって(笑)。人数が多かったので、僕はなかなか生地に触ることもできなくて、下積み時代が長かったですね。僕より後に入って来た子は割と早くから生地を触っていたので、羨ましかったです」

振り返るとめちゃくちゃ厳しかったという修業時代。当時は〝そういうもんなんだ〟としてすべて受け止めてきたそうですが、パン職人として、そして「人に食べてもらうものを作る」という基本的な姿勢を叩き込まれたと言います。

その後、アルバイトとして入って来たのが、現在1号店でパンを焼く村本でした。「確か当時、優馬は髪が金髪で。『うわ、絶対こいつとは合わへんわ!』って思いました(笑)。でも一緒に働いてみると見た目に反して仕事に真面目で。神戸に出て来てからは、よくパン作りのことでケンカもしてますね」

パン職人からサラリーマンに

店で製造責任者を任されていた矢先、体を壊してしまったという追中。実はパン職人を辞めて、サラリーマンになった時期がありました。

「半年間くらいニートして、会いたい人にたくさん会いました。もうパン屋を続ける気も無くしていたので、いい仕事があればそのうちそっちへ行こうかなと。そこで携帯電話の営業をすることになったんですけど、なかなかうまくいかなくて。貯金も使い果たしちゃったし、『これやばいなぁ・・・』と。世間から淘汰されてるような漠然とした不安を抱えてました(笑)

その後、知り合いのつながりで建築関係の仕事へ進むも、しっくりこない。「やばい、建築も無理か・・・」と思ったタイミングで、大阪の駅で偶然にも村本と出会います。

「内装の仕事をしている時は大阪にいたんですけど、不思議と神戸のマンションやホテルに携わることが多くて。今思えば、神戸に来る運命だったのかなぁと思います(笑)」

「パン屋を辞めてから2年後ぐらいですかね。後ろ姿を見て、あれ?優馬やんと。今まであれだけ近くにいても全然会わなかったのに。『何してんの?』『いや、別に・・・』みたいな会話をして、その後初めて一緒にご飯に行ったんです」

ちょうどその頃、村本は1号店の準備中。「『神戸でパン屋やるけどどう?』と誘われて。今思うと、もしかしたら誘うのに躊躇していたのかもしれないです。僕はパン屋を辞めた人間なのに、引き戻しちゃっていいんかな?と。その日は『どうしても職人が足りないならそっちに行くわ』と答えたけど、次の日には内装屋の社長に辞めますって伝えていました。僕もやっぱりパン屋に戻りたかったのかもしれないです。体の調子も良くなってきていたこともありますし

村本の話を聞いた時は、先の不安よりも「楽しそう」という気持ちが勝ったのだとか。
その後、社長の神尾と初めて顔を合わせた際も、ポジティブな気持ちだったと言います。「バカンスという店にはコンセプトがあることを聞いて、『面白いなぁ〜、僕にはない発想やなぁ』と思いました。今まではパン屋のことを『フランスパンが有名な店』とか『クロワッサンがおいしい店』みたいな視点でしか見たことがなかったから」

一方で神尾は、「一度サラリーマンになって、失敗したり道草食ったり、回り道したり。そういうどこか不器用な生き方にも親近感が湧いて、俺の心も動いた」「最初から言葉数は少ないけど、言葉に芯があったなと思う」と、当時の出会いを振り返ります。

そしてオープンした1号店では村本が店長に、追中はサブのポジションで働くことになりました。

真逆の個性から生まれたもの


1号店の誕生から4年後。バカンスは引き続き村本が、そして新たに誕生した[ル・クロワッサン ド バカンス]は追中が店を任されることになりました。

「虎視眈々と狙っていたチャンスが来た感じでしたし、成長につなげないといけないと思いました」

2号店にて。追中&村本コンビを隠し撮り。先輩後輩でもあり、良きライバルでもある二人。

性格も表現方法も真逆の二人。「パン作りに関してゴールは同じでもアプローチが違う。僕は間の工程を端折れなかったりするし、ずっと同じ作業を続けるのも苦じゃないけど、優馬はクリエイティブな部分でいろんな発想を出すのが得意だったりする。店の運営なんかも、先へ先へ進めるタイプ。だから二人でぶつかりながらバカンスでパンを作っていた時は、バランスが良かったんやと思います」

神尾が表現するには「感覚型(村本)&論理型(追中)」。さらに、追中は仕事も繊細で、スタッフへの気配りもできる良いお兄ちゃん的存在。それゆえ、バカンスメンバーの中心としてみんなを支えて欲しいという思いもあるそうです。

新たに店長として店を任されたことで、村本が持つクリエイティブさも吸収していきたいと話す追中。「毎日来てくれるお客さんに、毎日同じ味を提供できる正確さが自分らしさでもあるのかなと。どれぐらいお客さんに伝わってるかはまだわからないけど、自分らしさは無くさずにチャレンジしていきたいです」

クロワッサン専門店という業態自体、私たちもまだまだ模索している途中。まるで旅の途中のようなこの店と、回り道をしてここにたどり着いた追中自身が、今後を模索しようとしている姿が重なるように感じました。

目指すのは、一口目からおいしいパン


「オープンからまだ一年も経ってないんですよね、もう随分経った気がしますけど。当初はおいしいかどうかの声も自分に聞こえてこないぐらいにフル稼働していて、満足してもらえたのかどうか不安でした。でもSNSにはお客さんから優しいコメントがたくさん書き込まれていて、救われましたね」

自分たちのパン作りをじっくりお伝えできる機会がないまま、ここまで走ってきた2号店。

目指すパンって、どんなもの?


改めて質問を投げかけると、こう答えてくれました。

「一口目でおいしいパンを作ることは、常に掲げている課題ですね」

「最初から『うまっ!』て反応してもらえるような、そんな味わいの演出ができたらと思うんです」

「食べていてじわじわとおいしいパンもすごくいいけど、一口目から鮮烈だと、印象にすごく残るじゃないですか。『あそこのパンおいしかったよね』っていうパンは、みんなそうだと思うんです」

どちらかというと、1号店の[ベーカリー バカンス]は〝じわじわ系〟。「それでも印象に残る味だから、バカンスって本当においしいパンなんだと思いますね」

元々はパティシエ志望。その強みを生かして、「洋菓子にも近いけど、パンらしさも失わない。今後はそんなパンをもっと作れたら、自分らしさが出せるかなと思っています。だから、ショーケースの中に入っている生クリームなんかを使ったクロワッサンが売れると、個人的には嬉しいです(笑)。カスタードと生クリームを挟んだ『ア・ラ・クレーム』は、ミルフィーユをイメージして作ったりと、パンごとにいろんなストーリーがあります」

クロワッサン生地で仕上げたマリトッツォは、リッチな味わい。

一口目でおいしい。そんなクロワッサン作りのために、どんなことにこだわっているのでしょうか。そしてそもそも、私たちがなぜクロワッサン専門店をオープンしたのか。そんな話を、次回はお届けできればと思います。

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次回は4/1更新予定です!もうその頃には春ですね。平和な日常に近づいていますように。

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