見出し画像

#55 地下宮殿。そして我、記憶を買う。🇹🇷

5/29 イスタンブール最終日!イスタンブール地下宮殿、トルコ絨毯購入

今日はカッパドキアに向かう日だが、午後八時の出発までは少し時間がある。以前から面白いと噂のイスタンブール地下宮殿を見学に行った。入場料は300TL(1995円)だ。結構並んではいたが、5分ほどで入ることが出来た。ここは映画:ダビンチコードのクライマックスシーンで使われた場所というのは知っていたのでそれを含めて楽しみにしていた。
中はかなり広かった。本来は貯水槽の役割だったためか、涼しく程よい湿気があり、数々の柱には水滴が付いている。整列された柱はロードオブザリング(指輪物語)に出てきた、ドワーフが築いた地下宮殿「カザド・ドゥム」にそっくりで、それに水を張ったという具合だ。水の上に芸術品が浮いていて面白い。

奥行きがかなりある

一番奥まで歩みを進めると、メデューサの頭が逆さまになった柱の基盤が不気味に鎮座していた。たくさんの写真を露出を上げて撮影すると、とても神秘的に撮れた。スマホのカメラはどこまで進化するのだろうか。

逆さメデューサ

昨日は大統領選挙で店は一切閉店してたので食べれなかったチキンケバブサンドを2個も頼んで、かなり満足した。

至るところにエルドアン大統領

ブルーモスクにお別れの挨拶を言うために向かっていると、「良い靴履いてるね」とトルコ人が寄って来た。「商人は人を靴で見抜く」というのは経験上知っていたから、彼の店に連れて行かれるんだろうなーと直感したが、モスクは現在お祈りの時間だから一般客は入れないということで、彼と話していると案の定店に連れて行かれた。しかもそこはイスタンブールの2日目に連れてこられた店と同じだった。夜にディナーに誘われたが行けなかったあの店だ。顔馴染みのおじさんといとこがいた。
少しするとドイツから来たという23歳の青年が横に座った。彼も自分同様、ここに連れてこられた一人だ。出されたお茶を飲みながら、若い頃に旅に出ることの醍醐味を二人で語ることができた。そうだ、人生とは旅なのだ。

しばらくすると、地下にあるトルコ絨毯の商品を見せられる。たくさんの絨毯を広げられて、どれが好みか聞かれる。自分は買う予定などは全くなかった。それでも彼は熱いパッションを持って私を口説く。
「このきめ細やかな模様と鮮やかな色彩を見て。トルコに来て絨毯を買わないなんて勿体無い。君は学生なんだろ?だからギリギリまで安くする。たった90$だ。友達には90$で買ったって絶対言わないでね。たった3回のディナー分だぜ。君の靴よりも圧倒的に安い。軽くて小さくなるから、君の旅の荷物にもならない。想像してみてくれ。君が結婚して子供が産まれたら子どもを寝かせられるし、そのあとは玄関に敷けばいい。君の家に友達がくる。この絨毯をみて、「おおーナイスな絨毯だ。どこで買ったの?」と尋ねる。君はイスタンブールのこの店だと答える。証明書もつけるよ。君がここに二度も来たのは何かの縁じゃないか」
彼の彼女から、彼のスマホに電話が何度もかかって来ていたが、彼は出ずに私を口説き続ける。私の後ろでは他の客が、650$の絨毯を即決で買って行った。

自分は考えを巡らせた。この先、旅を続けて家族や友達に何かお土産をと思ったときに、「トルコのお土産=トルコ絨毯」以上の分かりやすい方程式が成り立つ品物が他に何かあるだろうか。ギリシャ、エジプト、アフリカ、南米、北中米と、自分がこれから行く予定の国を思い起こしても、浮かんでくるものはなかったのだった。
そう考えた末、彼の口説きに、自分はついに折れた。
自分に絨毯の良し悪しは見分けられない。彼は高い値段を吹っ掛けているのかもしれない。そして、いくら軽いといっても荷物にはなるし、もしかすると、これからアフリカで強盗に遭って失うかもしれない。

かなり逡巡したが、将来このシーンを振り返ったとき、これも良い思い出として記憶に残るのではないだろうか。イスタンブールの思い出、延いてはこの世界一周旅の、楽しく充実した毎日の思い出を、玄関に敷いたこの絨毯を見るたびに記憶の配当としてもたらしてくれるのなら、むしろ90$は安いのではないかしら。そうだ、買ったのは絨毯ではない。「旅の記憶」なのだ。もし物と値段が釣り合っていなくても良いじゃないか。

思い切って記憶を購入!
鮮やか模様✨

絨毯の証明書をもらい、熱弁を振るってくれた彼と握手をした。
店を出た自分は清々しい気分だった。時間をかけたせいで、ブルーモスクではまたお祈りが始まってしまったので、中に入ることは結局出来なかったので、モスクの内庭から、『深夜特急』の主人公のように、例の芝居めかした調子で、
「それではこれにて」
と呟き、自分はたくさんの友達が出来た街、イスタンブールを後にしたのだった。

ブルーモスク「それではこれにて。」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?