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映画備忘録5「ドラキュラ」

原題:Bram Stoker's Dracula

公開年:1992年

上映時間:127分



あらすじ

 15世紀半ば。トランシルヴァニア城の主であるドラクル伯爵が戦場から帰還すると、最愛の妻が自殺していた。彼女は夫が戦死したという虚偽の知らせを聞き、天国で結ばれることを信じて川に身を投げたのだ。しかし、神の掟により自死を選んだ者に神からの救済はなく、その魂は呪われると聞いた伯爵は怒り狂い、神に復讐を誓う。
 時は流れ、19世紀末。ジョナサン・ハーカー弁護士は前任者の不動産案件を引き継ぎ、ルーマニアにいるドラキュラ伯爵の元へ向かった。仕事を終えた彼は、突然伯爵から1ヶ月の滞在を強いられる。それは実質監禁といえるものだった。
 滞在を命じたドラキュラ伯爵が見つめる先にあるのはジョナサンの婚約者の写真。そこには彼が愛した妻と生き写しの女性が写っていた。伯爵は彼女に会うため、ロンドンへと向かう。



※以降ネタバレ含みます


①ダークで華やかな映像美

 舞台は19世紀末ロンドン(とルーマニアの古城)。丁度シャーロック・ホームズが活躍していた年代といえばわかりやすいかもしれない。ロンドンの往来では馬車が行き交い、華やかな衣装に身を包んだ中・上流階級の人々がいる一方、新聞売りをする汚れた身なりの子供たちがいたりする時代。
 この映画でまず特筆すべきは目を奪われるほどの映像美だ。衣装、建物、小道具、CG。計算され尽したそれらが画面を彩り、現実離れした絵画のようにすら見える。実際、どこで再生停止させてもめちゃくちゃ美しく映えるのだ。

 個人的に特に印象に残っているのは、ジョナサンの婚約者であるミナの親友、ルーシーの衣装である。繊細な色合いと細かな装飾のドレスが主な衣装である中、彼女は装飾など一切ないシンプルで真っ赤なドレス(正確にはドレスじゃないかもしれない)を身に着ける場面があるのだ。夢遊病に悩まされている彼女は、その日も無意識のうちに屋敷の外を彷徨い歩く。心配するミナの呼びかけに答える様子もなく赤いドレスの裾をひらつかせる姿は、人ならざるもののようで美しかった。
 ちなみにしばらく後になると、彼女は本当に人ならざるものになったりする。ドラキュラ伯爵に目をつけられた彼女は彼の眷属となるのだ。このとき彼女は一度死んでしまっていたので、所謂エンディングドレスという日本で言うところの死装束に身を包んでいる。このエンディングドレスというのがまた素晴らしく、白一色にもかかわらず非常に華やかなのだ。

「白って200色あんねん──」

 まさにその通りだと思った。アンミカ先生は偉大である。色合いはもちろん、ミリ単位で装飾が施されている気がするくらい繊細で、夢遊病で彷徨っていたときの衣装との対比も相まって美しい。


②ゲイリー・オールドマンの怪演

 次に挙げるとすればこれだ。ドラキュラ伯爵役のゲイリー・オールドマン。彼は劇中で最も姿かたちが変わるドラキュラ伯爵を見事に演じ切っている。
 まだ怪物になる前のドラクルとしての姿は勇ましい城主の姿と、5世紀もの間生き永らえた代償として人外じみた不気味に真っ白な相貌の吸血鬼との温度差だけでも凄まじい。さらにそこから、ロンドンで血を吸って若返った伯爵の本当に美しくハンサムでこんなん一目見たら惚れてしまうだろと納得してしまう優れた容姿。本当に同一人物か?と疑った。すごい。ヤマトナデシコ七変化。

 変幻自在なのは見た目だけではない。ジョナサンと対面しているときの伯爵は、潰れたカエルのようなしわがれ唸るような声を出し、ジョナサンの血がついたカミソリをこっそり舐めとる仕草がある。その後、その血に恍惚とした表情を一瞬見せたのもあり、シンプルに不気味だった。
 かと思えば、ロンドンではそんな不気味さなどなかったかのように、ミナに対してだけは真摯な振る舞いを見せる。少しずつ彼女と親交を深めようと努力する姿は健気なものだ。
 婚約者がいる女性を口説こうとする、いわば寝取りのような行為をとる伯爵だが、何故か憎みきれないところはこういった、ゲイリー・オールドマンの絶妙な演技と愛嬌によるものが大きいのかもしれない。


③オタクが好きなストーリー(クソデカ主語)

突然こんなこと言ってごめんね。でも本当です。

 何を言ってるんだと思うかもしれないがちょっと待ってくれ。そうだ、手元にドリンクを用意し、一息つく。よし、では本題だ。

 このドラキュラのストーリー、端的に言えば「愛する人が死んでしまい神からの救済もないようなのでならば神に復讐しようと怪物になって5世紀、愛する人の生き写しを見つけてしまったのでもう一度知り合いからやり直しゆくゆくは君と愛を育んでいきたい」みたいな内容である。所謂転生ネタだ。しかもこの場合は片方のみが生まれ変わり、もう片方は気の遠くなる時間を生き延びてきた存在である。
 まず、片方が怪物になってでも生き延びたというのが良い。その身が人から外れても妻を救済しない神などこっちから願い下げだと言わんばかりの強靭な精神力。そうして内面すら怪物に染まり始めてもなお、愛する人の前では人の心を見せてしまうほどの健気さ。伯爵はミナが彼を愛し、同じ吸血鬼となることを望んだのにも関わらず「君に呪いはかけられない」とむしろ拒絶したのだ。愛じゃん。ミナの親友との対応の違いが如実に出ている。
 私としてはあのシーンで伯爵はさっさとミナを連れて逃避行しろとすら願った。俗に言うメリーバッドエンドだ。ふたりが幸せならそれでいい。被害者は増えるしジョナサンは未亡人(?)になるが。

 しかし、物語はそうはいかなかった。なんやかんやあり伯爵はミナによって殺される。しかし捉えようによっては、彼は愛する人によって死という名の安らぎを得たのだ。この終わり方も悪くない。好きだ。私が望んだのがメリーバッドエンドなら、これはトゥルーエンドだろう。
 もし、伯爵が逃避行を選んだら?もし、ミナが彼を殺せなかったら?そういったルート分岐の想像も広がる、面白い内容だった。


総評

 個人的に好きな映画だと思った。元々ティム・バートン監督のスリーピーホロウが好きなのもあって、ゴシックホラーは大好物なのだ。ところどころ説明不足かな?て点もあったけど、雰囲気を楽しんでいる人間なのであまり気にならなかった。動く絵画を眺めている気分。

 この作品にも若かりしキアヌ・リーブスが出ており、彼は今回巻き込まれている形でほぼずっと可哀想な目にあっている。健康体で黒髪だった彼が、吸血鬼の城に閉じ込められて3人の女性たちからいかがわしい行為を強要された挙句髪がシルバーになってたのは最高だった。あと、最後に伯爵とミナの運命をふたりに委ねたところも「お前…散々振り回されたのにいいんか…!?」てなってしまった。妻は前世の夫の方にいってしまったのに、寛容すぎる。


注意点

 際どい描写が結構多い。R15かギリギリR18くらいだと思う。キアヌの乳首は舐められるし割としっかり性行為描写もある。おっぱいは当然のように丸見え。苦手な人は注意した方がいい。


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