#記事解説 一時的に結婚式などの大規模な家族行事を禁止(3/20 KUN.UZ)

少し前の記事にはなるが、家族に関する記事について少しメモ。

KUN.UZは英語ニュースも配信されているウズベキスタンの主要メディアである。ウズベキスタンは、独立後は社会主義から民主主義への体制転換をし、開放的な経済政策を漸進的に進めている。現在のミルジエーニョフ大統領が就任してから更に改革が進んでいると言われている。とはいえ、メディアは日本やアメリカと同じとは言えない。基本的には、中国や北朝鮮と同じと言って良い。「テレビだけを見ていると、なんの問題もない天国のような素晴らしい国に思える」と現地のウズ人は皮肉たっぷりに言っていたし、政府やメディアの発表は基本的に信用しないそうだ。

上記を前提に考えると、KUN.UZの特に英語でも配信されている内容というのは、国際社会に対するアピールの意味があるということを理解しなければならない。

3月20日のこの記事は、コロナウィルスに関するものである。ウズベキスタンでは、3月15日頃に最初の感染者について公表(フランスからの帰国者とのこと)、16日から教育や行政などあらゆる公的機関が閉鎖され、国際便がストップした。実はその以前から感染者については噂がされていたが、公的な発表の経緯は上記のとおりである。私が赴任していた大学も16日から閉鎖、渡航予定だった後任も赴任できなくなってしまった。この素早い対応は、予め公表から閉鎖までの流れを準備していたかもしれないが、やはり強いトップダウンの構造を持つウズベキスタンの大統領制が本領を発揮したということだろう。

さて、本記事の内容はというと、「ウズベキスタン(政府)は一時的に結婚式などの大規模な家族行事を禁止する」というものである。感染者公表後に立て続けに取られた施策の一つである。

「3月20日に、タシケントはウズベキスタンのコロナウィルスの蔓延を防止するための特別共和国委員会(special republican commission)の次回会議を主催した。その会議の中で、3月23日から、人々が一同に会する結婚式、葬式そのほかの大規模な家族行事は、一時的に禁止されることになると公表された。」

なお、「このルールは10人から15人の人々が参加する行事に適用される」ということだが、もちろん100人ならいいということではなく、10人以上は適用されますということだろう。ウズベキスタンの結婚式は、200人300人招待されるのは決して珍しくない。とにかく派手で、見栄を張って家計を無視して豪華な結婚式をしてしまい困窮するという事例が社会問題の一つであり、過去には法令で招待客の人数が制限されたようだ。しかし、これを無視する人がほとんどで、私も10人程度の小規模な結婚式なんてウズベキスタンで見たことがない。

さらに、「3月21日からは、チャイハナなどの飲食店も営業を停止され、家庭へのデリバリーのみ可能となる。すでに政府はマッサージ店、ナイトクラブそして子供の遊び場については営業停止としていた。」という。

これら一連の措置に関するニュースは、コロナウィルスという世界的な危機に対して、ウズベキスタン政府が的確な対応をスピーディに取っていることを対外的に示す意図があるだろう。ウズベキスタン政府は、独立後、特に国際社会の反応に非常に敏感に見える。世界銀行、国連、米国のUSAIDなど西側国際機関が現地事務所を置き、西側の論理によるモニタリングを続けている。独立後、社会主義しか知らなかった指導層が、今後どのように本当の自由主義経済へと移行していけばいいのか、人材育成から始めなければならない状況で、西側の意見を無視できるはずはない。その中で、国際機関の批判をかわすために、様々なアピールをし続けなければいけない。コロナウィルスに関しても、政府が国民のために迅速に動いている姿は積極的に見せていかなければならないだろう。

その動きの中で、真っ先に家族の行事を禁止するというのは、ウズベキスタンらしい。旅先などで参加した人はわかると思うが、兄弟は10人以上いることもおかしくなく、親族のつながりが何よりも重視されるウズベキスタンにおいて、親族が一同に会するイベントは濃厚接触の嵐である。ハグ・キスが挨拶の文化で、飲食やダンスを老若男女が集合して行うのである。

国家の危機であるコロナウィルス対応で、ウズベキスタンという国の本質がよく見えるように思う。民主的な自由主義経済へ向かっていると思われたウズベキスタン、経済への強権発動っぷり、国民への支援物資の配給などなど、結局本質は社会主義的なのであった。日本は意思決定が遅すぎるところもあるけど、人権や経済へは諸外国と比較しても優れた対応をしていると思う。今回のコロナウィルス禍をきっかけに、国家のあり方について考え直してしまう。



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