人生2度目の金縛りにあった話(後編)

この記事は「人生2度目の金縛りにあった話」の後編になる。

前編をまだ読んでない人は、今すぐ読んできてほしい。より一層不気味さが伝わると思う。

気持ち悪い汗と、騒がしい心音で目が覚める。

両手にはまだヤツの髪の油っぽさが媚びれついているような気がした。

深く息を吸うと周りが少し静かになったように思えた。

しばらくボーっとしながら夢のことを思い出していた。

なぜメンバーが地元と高校の友人だったのか。

なぜ小学校でサッカーをやっていたのか。

なぜ夜なのに電気が一つもついていなかったのか。

”ヤツの正体は何だったのか”

考えることが多すぎる。

すると唐突な耳鳴りに襲われた。

しかもいつもの耳鳴りのように「キーン」という音ではなかった。

「ザァァーーーザァァーーーザァァーーー」

その音は、テレビの砂嵐そのものだった。

頭の後ろで小さく鳴っている。

厄介なのが、気を抜くと音が大きくなるのだ。

何かに威嚇されているような気分だった。

しばらくして、自分で音量を調節できることに気が付いた。

なぜそんなことができたのか。恐怖心から聞こえた幻聴だったからだろうか。

意識すればそれなりに音を小さくしたり大きくしたりすることができた。

あんな気持ち悪い夢を見た後だったからか、私は考えることとこの騒音の対処に追われしばらく放心状態だった。

「ピーピーピーピーピーピーピー、ピーピーピーピーピーピーピー」

ストーブがきらきら星で時間の延長を催促し始めた。

その瞬間、、、

「ザア”ア”ア”ザア”ア”ア”ザア”ア”ア”!!!!!!!!!!」

すべての音が砂嵐によってかき消された。うるさい。周りの音が何も聞こえない。

ストーブの音さえ響かなかった。すぐ後ろにあるはずなのに。

体が固まった。

金縛りだ。

目はやはり開いている。しかし体は動かせない。指の一本すらも動かすことができなかった。

自分の体かどうかすら疑いたくなるほどに。

しかし、私は冷静だった。なぜなら”2回目”だからだ。前回のようにキレれば起きることはできる。

「なぁに、慌てなさんなの精神よ」

案外気持ちに余裕があった。

後ろに人が立っていると気づくまでは。

私の背中に向かってきらきら星を歌っているストーブの横に黒い影がポツンとあった。人かもしれない。いや人じゃないのかも。

そう考えたらもう恐怖心の増幅は止まらない。

下から見上げているせいか、背は高いように思えた。黒くて、、、長い髪、、、

「まさかそんなわけないだろ、、、」

しかし、ヤツの顔が頭をよぎったのは紛れもない事実だった。

すると影がヤツに変化していっているように見えた。影が白い布で全体を覆われていく。

髪が私の足に触れそうなくらいまで伸びてきているように見えた。

「やばい!やばい!早く起きなきゃ!目を覚まさなきゃ!キレなきゃ!!!」

しかし、ストレスも何もない状況から故意的にキレるのはとても難しい。実際にやってみたが気持ちが空回りしているようだった。まるで薄っぺらい大根役者の演技を真似ているような。

どんなにあがいても前回のように上手くことが進まない。

悩みに悩んでみたがキレる以外に方法がないことに絶望した。それ以外の案が出てこないほど自分が追い詰められているこの状況も怖かった。

とりあえずできる限りのことは何でもやろう精神で再度感情のコントロールを試みる。

「むかつく人間のことを考えよう。。。」

いた。昔バイトしてたすき家のバイトリーダー。

「あのク〇野郎頭弱いんだよ」

「なんやねん紙に書かないとわかりませんて」

「耳垢詰まってんじゃねぇのか?」

少し()汚い言葉が出てきてしまったが仕方ない。緊急事態だ。やむを得ない。

左手に多少の感覚が戻った。

「がんばれ俺!ゴールはもう目の前だぞ!!!」

そう言い聞かせながら左手にすべての神経を集中させた。

「バンッ!!!」

「イッタ!!!」

左手の薬指の骨がテーブルに直撃したらしい。自然と叫んでしまった。

また気持ち悪い汗をかいている。

ハッとしてゆっくり後ろを振り返る。

何もいなかった。

じんわりと伝わる痛みを噛みしめながら一息ついて、、、今度は深呼吸をしてやっと気持ちが落ち着いた。

汗をかいてはいたが、さすがにシャワーを浴びに行く勇気は沸いてきてくれなかった。

いかがだっただろうか。これが人生2度目の金縛りにあった話である。初体験よりもはるかに恐ろしいものだった。夢の内容もきっと忘れることはないだろう。

(完)

少しでも背筋がひんやりとした方は、ぜひ他の投稿も覗いてみてほしい。

ひんやりとしなかった人も普通にみてほしい。

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