【創作エッセイ】アイドルになれたら⑰

※作中に登場する団体や固有名詞等は、現実とは一切関係ありません。全て「うゆ」の夢をもとに書かれたフィクションです。

いざ、出陣。

MC「続いては、WellBeeの皆さんです！」

レミ「SHOUT OUT TVをご覧の皆さん、Listen to us！」

5人「WellBee is Coming！こんにちは、WellBeeです！」

大きな歓声が上がり、マイクを模した形のペンライトが青白く光る。制作時にとにかく明るくなるよう光量を最大にしてもらったため、他のアーティストやグループの光よりもひと際眩しく輝いている。どこにWeBelieveがいるかも一目瞭然だ。

MC「さて、今回初出演となりましたが、リーダーのレミさん、心境はいかがですか？」

レミ「はい、こんな素晴らしい舞台に私たちWellBeeが立たせていただけることに心から嬉しい気持ちでいっぱいです。今日は皆さんの目に、そして心に、しっかりと爪痕を残したいと思います！」

完璧な受け答えをするレミをボーっと眺めていると、MCの目がキラリとこちらを向いた。

MC「今回披露していただく『AROUND』と初披露曲の『秘密』、どちらもうゆさんが作詞作曲を手掛けたと聞いているんですが」

うゆ「あ、はい。そうです」

思ってもみなかったアドリブに、一瞬頭がフリーズした。レミの受け答えを見た後だけに、間抜けな喋りにならないか不安がよぎった。

MC「見どころ、聴きどころなど教えていただけますか？」

うゆ「はい、『AROUND』は時計ウサギをイメージした疾走感がポイントになっていまして、段々加速するビートに注目していただきたいです。『秘密』は、少しミステリアスな曲調と人形のような動きのダンスが見どころとなっています」

MC「ありがとうございます。それではスタンバイをお願いします！」

少しキョドりながらも必死の説明を終え、定位置につく。
WeBelieveのペンライトの光と、会場全体からの歓声に身震いする。

レミ「みんな、いくよ」

レミの声かけで士気を高め、目を閉じる。背中合わせの円形だが、お互いの肩が触れているので安心感を覚えた。

MC「それではWellBeeの皆さんで『AROUND』、そして初披露曲の『秘密』、2曲続けてどうぞ！」

イヤモニからカウントダウンが聴こえ始める。
夢の舞台が今、始まる。

『Listen to us, WellBee is Coming！！』

始まったら、もう、止められない。

『GO AROUND GO AROUND　裸足のまま　走り出した Runway
　止まれないリミットの中で　今　あの太陽が赤く染まっていく』

『食い止めろ　時計の針が正反対を向くまでに
　暴れ出した秒針で　舵をとれ』

きっと世間がイメージする「時計ウサギ」のイメージとは正反対の印象を与える曲になる、というかそうしたいと思って書いた曲。
常に急いでいて落ち着きが無く怖がりで、思わぬタイミングで度々出くわしてはアリスを冒険という名の試練に巻き込むのが彼の役回りだと考えている人が多い。しかし、本当は仕掛けがあらかじめ用意されていて、物語の進行をスムーズにするためのタイムキーパーとして起用されていたと考えてみたらどうだろう。

『GO AROUND GO AROUND　この夢が醒める前に
　GO AROUND GO AROUND　シナリオにない展開を作れ
　君は上書きできない　鮮やかなスカイブルー
　決して見失わない　鮮やかなスカイブルー』

ウサギの分際で命令形かよ、と自分でも思った。でもこのアンバランスな感じが逆に良い。誰もが迷い、時間を溶かす経験をするはずだから、この歌が背中を押せたら何よりも嬉しい。

曲が進むにつれて激しくなるダンスに意識を全ベットし、最高潮に達したところで音楽が途切れてノイズが流れる。それに合わせて全員がアシンメトリーなフォーメーションでその場に崩れ落ちる。

会場から悲鳴が上がる。それまで明るかった照明が一気に暗くなり、地響きのような雷鳴が流れる。

オルゴールの音色と共に、『秘密』の舞台が始まる。

『ここで出会えると思ったの　初めまして、見ない顔ね
　「君は誰？」なんてそんなこと　聞いても教えてあげないわ』

「秘密」の世界にいざなう西洋人形と、その世界の入口に迷い込んだ人間の物語。何でも知ってるけど何も教えない人形に、戸惑いながらもだんだん魅了されていく人間の立場が味わえる…はず。

『夜が深まると始まる　誰も知らない舞踏会
　戻りたい？　戻れない？　全てはあなた次第』

一方で、人形も人間に興味を持ち始めるのが個人的ミソ。

『あなたほど素直なコは初めてよ
　認めたくないけれど　気に入ったわ
　今夜はエスコートしてほしいの　このお城を抜け出して』

『ささやいてほしい？　この秘密
　夢中になっても知らないよ？』

でも最後まで何も言わないの。それは何故かって？人形は喋れないから。
わざと秘密にしているわけじゃなくて、口に出せないというハンデを抱えてる。だからこそ、興味を持ってくれる人間に惹かれて全てを委ねてしまいたくなるの。なんだかミステリアスの中に切なさを感じるでしょ？

最後にオルゴールがゆっくりと切れる音に合わせて5人が寄り添ってフィニッシュ。会場全体から割れんばかりの拍手と歓声が上がった。他のグループのファンも、アイドルに興味なさそうな風貌の人も、満足げな表情で拍手を送ってくれた。
この瞬間、アウェイだと思っていたのは自分たちだけで、この場は音楽を愛する心温かい人で溢れていることに気づいた。「パッションを交わせ！」のスローガンは、あながち間違いではないかも。

前方にいたWeBelieveに目を向けると、数人が涙を流していた。自分たちのパフォーマンスをこんなにも喜んでくれたことが何よりも嬉しくて、思わず自分もうるっとなってしまった。頑張ってよかった、パフォーマンスを届けられてよかったと心底思えた。

MC「WellBeeの皆さん、ありがとうございました！！」

大きな歓声と拍手に包まれて、大盛況の幕引きとなった。

キャプション

「U-MELLOD」（ユーメロディ）
由来：「君（U）に向けて（-）音楽（MELLOD）を届ける」という意味を持つ5人組ボーイズグループ。
どんなコンセプトも消化するため、天才アイドル集団という異名を持つ。
ファンダム名は「U-HALMONY」（ユーハーモニー、通称ユハモニ）。
・ジュンホ：95年生まれ。長男。メインラッパー。
・シウ：98年生まれ。リードボーカル。
・ジョンソク：99年生まれ。リーダー。メインボーカル。
・ジヒョン：00年生まれ。メインダンサー。
・チャンミ：01年生まれ。サブラッパー、ビジュアル担当。愛称はローズ。

「WellBee」（ウェルビー）
由来：「音楽を通じて”自分らしい豊かな生き方”（＝ウェルビーイング）を実現する」「全てをこなすオールラウンダー集団になる（doing WELL ＋ BEcomE）」の意味が込められた5人組のガールズグループ。
現実に少しだけ幻想が混ざったような世界観を得意としており、ダイナミックなダンスと繊細かつ緩急の効いた歌声に定評がある。
ファンダム名は「WeBelieve」（ウィービリー）。
・レミ：99年生まれ。長女兼リーダー。ビジュアル担当。リードダンサー。
・うゆ：01年生まれ。WellBeeの音楽PD。リードボーカル。
・ルイ：02年生まれの01Line（早生まれ）。メインダンサー兼サブラッパー。
・カヤ：04年生まれの03Line（早生まれ）。メインラッパー。
・ヒヨ：04年生まれ。マンネ。メインボーカル。