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【創作エッセイ】アイドルになれたら⑪

※作中に登場する団体や固有名詞等は、現実とは一切関係ありません。全て「うゆ」の夢をもとに書かれたフィクションです。


忘れない景色を、あなたと。


30分ほど走り、目的地でタクシーを後にする。

かつてユメロの所属事務所の社屋があったという住宅街の極小ビルの裏に、あずまやのある小高い丘があった。

ジヒョン「意外に知られてないんですけど、ここから見る夜景が綺麗でお気に入りなんです。デビュー前からシウさんたちとよく来てました」

草が伸びっぱなしの斜面に、踏みしめたであろう足場の形跡が残っている。

ジヒョン「ここを踏んで上がってください」

そう言って手を差し伸べられる。合法とはいえ推しと手を繋ぐことに混乱を覚え、心臓の鼓動が高まる。

躊躇っていると、強制的に握られて引っ張られた。

ジヒョン「ここ、滑りやすいんです。うゆさんに怪我させるのは嫌なので、握っててください」

あ…そうよね。怪我したらダメだし、そもそも意識しているのは私だけだ。
危うくジヒョンの思いやりをないがしろにするところだった。

うゆ「あ、ありがとうございます…」

そういうことか…と腑に落ちたと同時に、自意識過剰な自分を責めた。


なんとか登り切ると、視界が一面星で埋め尽くされた。

うゆ「わぁ…!綺麗!」

自分でもびっくりするくらい大きな声が出た。慌てて口元を抑えると、ジヒョンが満足げな表情でこちらを見ていた。

ジヒョン「すごくいいリアクションで嬉しいです。こっちに座ってゆっくり見ましょう」

そう言ってあずまやのベンチに案内される。

ジヒョン「うゆさんはラッキーですよ。今まで来た中で今日の星空が一番綺麗です」

うゆ「そうなんですか…なんだか光栄ですね」


その後しばらく星を眺めて写真を撮ったり、最近の仕事のことについて語り合った。

自分よりも長く活動しているジヒョンの言葉は、ひとつひとつに重みを感じて勉強になった。1歳差だけど、この瞬間だけは数歳年上に思えた。

ようやく話がひと段落したところで、持って来た紙袋を差し出す。

うゆ「そうだ。ジヒョンさん、これどうぞ」

ジヒョン「え!ありがとうございます!僕、これ大好きなんです!」

もちろんユハモニなので把握済み。以前日本にスケジュールで来た際に美味しすぎると絶賛していたペットボトルのレモンティー2本と、日本に来る度に大量に買って帰るというジャム入りのパイ菓子。
バチバチに踊るメインダンサーが甘党というのが沼要素でしかない。

本当は撮影の日に渡すはずだったけれども、袋を別にしていたせいでバナナ味のお土産しか渡せていなかった。本当に渡したかったのはこっち。

ジヒョン「美味しそう…」

うゆ「是非食べてください。夜空を見ながら食べたらきっと美味しいですよ」

ジヒョン「じゃあ一緒に食べましょう。2人で食べたほうが絶対に美味しいです」

そう言ってレモンティーを1本こちらに手渡した。

うゆ「え、私は日本に戻ったらいつでも買えるので大丈夫ですよ。是非宿舎で飲んでください」

ジヒョン「今うゆさんと一緒に飲みたいんです。これは僕からのお願いです」

パーカーから覗く三白眼が私をとらえた。その目は穏やかで澄んでおり、思わず凝視したくなる美しさだった。

うゆ「じゃあ…お言葉に甘えて」


うゆ「ジヒョンさんって、今までの会話の意味も全て理解されてるんですよね。尊敬します」

ジヒョン「それほどでもないですよ。日本語が、僕に変わるきっかけをくれたんです」

うゆ「変わるきっかけですか?」

ジヒョン「はい。元々僕は田舎で生まれ育ったので、練習生になるまでソウルがどんな場所なのかも知らなかったし、外国にも行ったことがなかったんです。それで初めての海外スケジュールで日本に行ったときに、日本のファンの皆さんが韓国語で一生懸命会話しようとしてくださったことに感動したんですよ。それで日本が大好きになって、今度は自分が日本語を勉強する番だって思って、今でも毎日新しい表現を勉強してます」

うゆ「…すごく素敵です。日本のファンの皆さんもすごく嬉しいと思いますよ」

ジヒョン「えへへ、そうだといいなぁ…」

うゆ「最近覚えた日本語って何ですか?」

ジヒョン「持ちつ持たれつ」

うゆ「あら、慣用句まで勉強してるんですね」

ジヒョン「そうなんです。面白い表現が多くて楽しいんですよね~」


その後も他愛のない温度感の会話を続け、夜が深まっていった。


キャプション

「U-MELLOD」(ユーメロディ)
由来:「君(U)に向けて(-)音楽(MELLOD)を届ける」という意味を持つ5人組ボーイズグループ。
どんなコンセプトも消化するため、天才アイドル集団という異名を持つ。
ファンダム名は「U-HALMONY」(ユーハーモニー、通称ユハモニ)。
・ジュンホ:95年生まれ。長男。メインラッパー。
・シウ:98年生まれ。リードボーカル。
・ジョンソク:99年生まれ。リーダー。メインボーカル。
・ジヒョン:00年生まれ。メインダンサー。
・チャンミ:01年生まれ。サブラッパー、ビジュアル担当。愛称はローズ。

「WellBee」(ウェルビー)
由来:「音楽を通じて”自分らしい豊かな生き方”(=ウェルビーイング)を実現する」「全てをこなすオールラウンダー集団になる(doing WELL + BEcomE)」の意味が込められた5人組のガールズグループ。
現実に少しだけ幻想が混ざったような世界観を得意としており、ダイナミックなダンスと繊細かつ緩急の効いた歌声に定評がある。
ファンダム名は「WeBelieve」(ウィービリー)。
・レミ:99年生まれ。長女兼リーダー。ビジュアル担当。リードダンサー。
・うゆ:01年生まれ。WellBeeの音楽PD。リードボーカル。
・ルイ:02年生まれの01Line(早生まれ)。メインダンサー兼サブラッパー。
・カヤ:04年生まれの03Line(早生まれ)。メインラッパー。
・ヒヨ:04年生まれ。マンネ。メインボーカル。

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