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【創作エッセイ】アイドルになれたら⑬

※作中に登場する団体や固有名詞等は、現実とは一切関係ありません。全て「うゆ」の夢をもとに書かれたフィクションです。



まだまだ知らない、何も。



ホテルに戻り、ぐっすり眠った翌朝。窓から差す光と小鳥のさえずりで目を覚ました。

うゆ「…いい天気」

今日はもう日本に帰る日。あっという間の3泊4日だった。

本当は夕方まで観光して夜の飛行機に乗る予定だったが、まさかの翌日にアルバムの打ち合わせが入ってしまったために昼の便で帰ることになった。

3歳上のマネージャーが「韓服を着て景福宮を散策しましょう」とウキウキで意気込んでいただけに、出発直前に連絡を受けたときはひどくショックそうだった。

スマホの電源を入れると、そのマネージャーからメッセージが入っていた。

『9時半に迎えに行くので、それまでに荷物をまとめておいてください』

時刻は8時半。急いで身支度をしなければならない。昨夜の涙を悟られないように、目元のアイシングも。

『承知しました』

そう打ち込むと、光の速さで着替えてコンビニに氷を買いにすっ飛んでいった。


ロビーでマネージャーに合流した後に連れて行かれたのは、広告撮影用のスタイリングをしてもらったメイクサロンだった。

店長「〔うゆさん~!お久しぶりです!〕」

うゆ「〔こんにちは店長さん~このあいだはありがとうございました〕」

店長「〔いえいえ~もう帰っちゃうんですよね?最後に可愛くメイクさせてください!〕」

うゆ「〔え、いいんですか?ありがとうございます!〕」

店長「〔ちょうど昨日新しいコスメを入れたんですよ~是非こちらに掛けてください~♪〕」

そう言って案内された個室は、ふわりと優しいムスクの香りで満たされていた。

あの日のジヒョンを思い出す温かさに、思わず胸が高鳴る。


椅子に腰掛けて待機していると、店のドアが開く音がした。

カランコロン…♪

??「〔こんにちは~☆〕」

ピンクのストレートロングにクロップ丈の黒いちびT、グレーデニムスカートと白スニーカー。いわゆる韓国ギャル風な身なりだ。

店員「〔あ、オンニ~!お久しぶりです~!今日ちょうどオンニの新作を出す日なんですよ~!〕」

??「〔マジで?!ちょっと見てっていい?!〕」

ウキウキで会話しながら店の奥にはけていく2人を鏡越しに見送る。壁を隔てた廊下から、Baked Chou Chouのローズパフュームが強めに香った。

店長「〔相変わらずテンション高いわね…〕」

うゆ「〔店長さん…あの方はどちら様ですか?〕」

店長「〔ビューティークリエイターのチャリちゃんですよ~「SIX-NANALLY(シックスナナリ)」っていうコスメブランドのプロデューサーなんです〕」

うゆ「〔へぇ…すごい…〕」

呆然とする私の前に新品のコスメが並べられる。パッケージは水晶玉のような煌めきと透明感を放っている。

うゆ「〔これらが、チャリさんのコスメですか?〕」

店長「〔そうですよ~綺麗でしょ~?〕」

ダイヤモンドを砕いたようなグリッターシャドウ、微細なパール感のハイライト、絶妙なニュアンスカラーのマットアイシャドウ、水飴のように艶のあるグロスまで、視界に入る世界が全て水面に光る太陽のように澄んでいた。

正直チャリさんの印象とはかなりかけ離れている。人は見かけによらないって本当みたい。

うゆ「〔…本当、水晶玉みたいで素敵ですね〕」

そう言うと、店長がピタッと手を止めてこちらを振り返った。

店長「〔素敵な表現…!やっぱり作詞家は感性が違いますね~!〕」


その後、1時間ほどかけてメイクとヘアセットが完了した。

目元は紺色のシャドウでグラデーションを作り、目尻に赤のアクセントを入れ、シルバーラメで艶と輝きを足した優雅な仕上がりになっている。チークとリップはセミツヤくらいの質感になっており、目じりの赤をそのまま薄めたような、内側から滲むような血色感を演出している。
たまたま着てきた紺色のノースリーブワンピースとのまとまりが最高だ。

髪は触覚部分を編み込みにしてピンでとめ、ストレート部分には艶出しスプレーをかけて丁寧にアイロンを通してもらった。

まるで私が来ることを見越していたかような完成度に、しばらく言葉が出なかった。
何よりチャリさんのコスメの質感が素晴らしく、全ての光を味方につけるくらい上品に輝いている。

うゆ「〔すごい…こんなに素敵なメイクは初めてです…!〕」

高まる気分をそのまま言葉にすると、店長は満面の笑みで喜んでくれた。

店長「〔喜んでいただけて良かったです…そうだ、チャリや~!ちょっとおいで!〕

大声で呼ばれたチャリさんが、パタパタと音を立てて現れた。バサバサのまつ毛から覗くシルバーのカラコンと、グラデーションの美しいピンクメイクとラインストーンが印象的だ。

チャリ「〔はぁい店長~☆…待って、WellBeeのうゆちゃん?〕」

うゆ「〔あ、はい。はじめまして…〕」

チャリ「〔マジで?!超~会いたかったんだけど!!嬉し~!!あ、私95だから全然オンニって呼んじゃって☆〕」

うゆ「〔はい…オンニ?〕」

チャリ「〔そそ☆ウチさ、元々ここで働いてたんだよね。だから芸能関係のメイクもいっぱいしてきたんだけど、日本の子に会うのは初めてかも〕」

うゆ「〔そうなんですか…オンニはどなたのメイクを担当されたんですか?〕」

チャリ「〔えーっとね、ガルクラ系のグループとか多かったかな。あとはデビュー初期のユメロとか〕」

うゆ「〔えっ、ユメロ先輩も?〕」

チャリ「〔そうだよ~まぁあのときは私も新人だったけどね~〕」

店長「〔つい数日前にね、うゆさんとジヒョナが広告撮影用のメイクをしに来たのよ〕」

チャリ「〔え、マジで?!ジヒョナ来てたんだ!懐かし~!!〕」

店長「〔デビューステージのメイクしたの、チャリだったよね?〕」

チャリ「〔そうそう!あの時はまだ赤ちゃんみたいだったな~特にグロスが嫌で渋い顔してた(笑)〕」

店長「〔そうだったわね~(笑)〕」

チャリ「〔だからさ、ウチ、グロスには超こだわって作ったんだよ?べたつかずに綺麗に見えるようにね~〕」


その後、しばらくコスメのこだわりポイントについてチャリさん直々にお話いただいた。ものづくりも曲作りも、実物として形に残るかどうかの違いはあれど、情熱のベクトルの勢いは近いものを感じた。

マネージャー「うゆさんすみません、そろそろ出発の時間です…」

うゆ「あ、承知しました。〔オンニ、店長さん、私そろそろ出発しないといけないので…〕」

店長「〔あら、本当だわ。長らく引き留めてごめんなさいね。また韓国に来たら遊びに来てください〕」

そう言ってショップカードを渡してくれた。

うゆ「〔また絶対に来ます。お世話になりました〕」

チャリ「〔もう行っちゃうなんて寂しい…あ、ねぇ連絡先交換しよ!〕」

うゆ「〔あ、はい、是非〕」

光の速さで交換すると、会計を終えたマネージャーが荷物をタクシーに詰め込んでいた。

うゆ「〔ありがとうございました!〕」


この後は無我夢中で国際線チェックインカウンターをくぐり抜け、途中でマネージャーにカフェドリンクを奢り、ブランドショップに引きずり込んだそうだが全く記憶がない。
気づけば、ずっと欲しかったというフラグメントケースを見つけてテンションが上がったマネージャーにクレジットカードを差し出していた。

マネージャー「本当にありがとうございます…!ってかうゆさん、あんなに走ったのに全くメイク崩れしてないですね?」

うゆ「確かに…チャリオンニのコスメ恐るべし…」


このときたまたま空港に居合わせたオタクによって写真を拡散され、ヘアメイクの美しさがネットの話題をさらっていったのは少し後のお話。



キャプション

「U-MELLOD」(ユーメロディ)
由来:「君(U)に向けて(-)音楽(MELLOD)を届ける」という意味を持つ5人組ボーイズグループ。
どんなコンセプトも消化するため、天才アイドル集団という異名を持つ。
ファンダム名は「U-HALMONY」(ユーハーモニー、通称ユハモニ)。
・ジュンホ:95年生まれ。長男。メインラッパー。
・シウ:98年生まれ。リードボーカル。
・ジョンソク:99年生まれ。リーダー。メインボーカル。
・ジヒョン:00年生まれ。メインダンサー。
・チャンミ:01年生まれ。サブラッパー、ビジュアル担当。愛称はローズ。

「WellBee」(ウェルビー)
由来:「音楽を通じて”自分らしい豊かな生き方”(=ウェルビーイング)を実現する」「全てをこなすオールラウンダー集団になる(doing WELL + BEcomE)」の意味が込められた5人組のガールズグループ。
現実に少しだけ幻想が混ざったような世界観を得意としており、ダイナミックなダンスと繊細かつ緩急の効いた歌声に定評がある。
ファンダム名は「WeBelieve」(ウィービリー)。
・レミ:99年生まれ。長女兼リーダー。ビジュアル担当。リードダンサー。
・うゆ:01年生まれ。WellBeeの音楽PD。リードボーカル。
・ルイ:02年生まれの01Line(早生まれ)。メインダンサー兼サブラッパー。
・カヤ:04年生まれの03Line(早生まれ)。メインラッパー。
・ヒヨ:04年生まれ。マンネ。メインボーカル。

「SIX-NANALLY」(シックスナナリ)
メイクアップアーティスト出身の人気ビューティークリエイター・チャリがプロデュースするコスメブランド。第六感(勘・インスピレーションなど、鋭く物事の本質をつかむ心の働き)を信じて、自由に遊ぶように(날라리:遊び人、のように)メイクを楽しんでほしいという意味が込められている。透明感のあるパッケージと上品でアンニュイな色使い、ラメやパールの配合にこだわりを感じられるとコスメオタクの間でも絶大な人気を集めている。

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