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【創作エッセイ】アイドルになれたら⑯

※作中に登場する団体や固有名詞等は、現実とは一切関係ありません。全て「うゆ」の夢をもとに書かれたフィクションです。


どこまでも、君色。


あれから更に2週間が経過し、いよいよSHOUT OUT TV2時間スペシャルの放送当日となった。

現在時刻は午前11時。夜が明けるよりも早い時間からテレビ局に入り、リハを済ませて廊下を歩いていると、背後から聞き覚えのある声がした。

ジヒョン「うゆさん!」

ジヒョンだった。こちらはおそらくリハ前であろう、ラフなジャージにゼッケンをつけ、ノーセットの髪は青からプラムカラーに変わっていた。

うゆ「ジヒョンさん、お久しぶりです!」

ジヒョン「会いたかった~!」

駆けよって私を抱きしめた。彼のぬくもりは、あのときと変わらず安心感を与えてくれる。

うゆ「お元気そうで何よりです」

ジヒョン「うゆさんに会えて超元気になりました!あ、これお土産です!」

そう言うと、持っていた紙袋を差し出した。

うゆ「え、ありがとうございます!また後でゆっくり拝見しますね」

ジヒョン「きっと気に入ってもらえるはずなので楽しみにしててください」

うゆ「お、自信満々ですね?」

ジヒョン「そりゃあ、うゆさんを想って選んだので」

サラッと放った言葉に、またもや心臓が高鳴る。

うゆ「あの…」

ジョンソク「〔ジヒョナ~!そろそろ円陣組むぞ~!〕」

言葉を発そうとしたその瞬間、ユメロのリーダー・ジョンソクの声が聞こえた。ジヒョンの1個上で、メインボーカルらしくよく声が通る。

ジヒョン「〔すぐ行きま~す!〕じゃあ、収録が終わったらまた会いましょう!また連絡しますね!」

うゆ「はい、ではまた後ほど」

倒れそうなほど忙しいはずなのに、身震いするほど不安なはずなのに、そんな素振りを全く見せずにジヒョンは明るく手を振りながら去っていった。
華奢で美しい後ろ姿が、先程の温もりの名残惜しさを増幅させた。


楽屋に戻ると、カヤが何か言いたげにこちらを見てきた。

うゆ「ん?どうしたの?」

カヤ「その紙袋、誰からもらったんですか?」

うゆ「あぁ、前に一緒にお仕事させていただいた方からだよ」

嘘ではない。でも絶対にジヒョンだってバレたくない。カヤはグループの中でも勘がいい方なので更に厄介だ。

レミ「親切な方だね~」

ヒヨ「もしかしてお菓子とかですか?!」

マンネは完全にお菓子狙い。こっちはただただ微笑ましい。

うゆ「まだわかんない。開けてからのお楽しみでしょ」

そう言って、部屋の隅でそっと包みを開けた。

レミ「え、これって…」

カヤ「待って、薬菓じゃん!」

中にはヒヨの予想通り、種類豊富なお菓子が詰め込まれていた。しかもそれらのほとんどが餅。韓国伝統のお菓子だったのだ。

ヒヨ「美味しそう…!」

うゆ「なんか…斬新だな…」

カヤ「食べてもいいですか?!」

うゆ「いいけど、本番あるから食べ過ぎないようにね」

レミ「手、洗ってからね!」

グループのママからの忠告に、マンネ2人は大慌てで手洗い場に向かった。

なるほど、そういう系のお土産だったのか…。びっくりしながらも、全員が餅に夢中になっている隙に持ち場を離れ、残りの中身を確認する。
大きな袋の底に、どこかで見たような柄の長方形の箱が見えた。

急いで封を開けると、Baked Chou Chouのスカーフが入っていた。濃紺の生地にシルバーで星空と星座のモチーフが描かれている。

うゆ「…!」

ジヒョンもあの日のことを良い思い出として覚えてくれているということだろうか。あの丘で見た満天の星空のように散りばめられたシルバーにときめきを隠せない。
触れるのも惜しいのでまじまじと見つめることしかできないが、視覚の作用で濃紺に意識が引き込まれていく感覚に陥った。例えるなら、果てしない深海、デジャヴの海。

落ち着いた色味でかさばらず、多種多様な用途があるスカーフを選び、しかも私が憧れているハイブランドをチョイスするあたり、相当できる男だ。1枚あたり7万円は下らないので、ずっと焦がれて手を伸ばせずにいた。
ジヒョンは、常に私に新しい景色を見せてくれる。まるで現世のピーターパンだ。

自分も何か還元できないかと考えるけど、7万円のスカーフに長年臆していた経済力では全く釣り合わない。いや、レモンティーとジャムパイであれほど喜んでくれたジヒョンだから、金額は関係ないのだろうけれど…。

うゆ「…」

頭の中がジヒョンでいっぱいになる。ユメロが日本にいる間に、どうにかしてこの恩を返したい。どこで何をしたら、何を渡せばこの気持ちが伝わるだろうか。

ルイ「うゆ~餅なくなるよ~」

レミ「ちょっと、うゆの分が残ってないじゃん!食べ過ぎ!」

ルイの声もレミの叱責も、このときは全く聞こえなかった。自分でも異常だったと思う。



キャプション

「U-MELLOD」(ユーメロディ)
由来:「君(U)に向けて(-)音楽(MELLOD)を届ける」という意味を持つ5人組ボーイズグループ。
どんなコンセプトも消化するため、天才アイドル集団という異名を持つ。
ファンダム名は「U-HALMONY」(ユーハーモニー、通称ユハモニ)。
・ジュンホ:95年生まれ。長男。メインラッパー。
・シウ:98年生まれ。リードボーカル。
・ジョンソク:99年生まれ。リーダー。メインボーカル。
・ジヒョン:00年生まれ。メインダンサー。
・チャンミ:01年生まれ。サブラッパー、ビジュアル担当。愛称はローズ。

「WellBee」(ウェルビー)
由来:「音楽を通じて”自分らしい豊かな生き方”(=ウェルビーイング)を実現する」「全てをこなすオールラウンダー集団になる(doing WELL + BEcomE)」の意味が込められた5人組のガールズグループ。
現実に少しだけ幻想が混ざったような世界観を得意としており、ダイナミックなダンスと繊細かつ緩急の効いた歌声に定評がある。
ファンダム名は「WeBelieve」(ウィービリー)。
・レミ:99年生まれ。長女兼リーダー。ビジュアル担当。リードダンサー。
・うゆ:01年生まれ。WellBeeの音楽PD。リードボーカル。
・ルイ:02年生まれの01Line(早生まれ)。メインダンサー兼サブラッパー。
・カヤ:04年生まれの03Line(早生まれ)。メインラッパー。
・ヒヨ:04年生まれ。マンネ。メインボーカル。

「BakedChouChou」(ベイクドシュシュ)
100年以上続く欧州の高級ブランド。雫を模したジュエリーや、オーガンジー素材を使用したマーメイドコンセプトのアパレルを得意とする。看板商品である「人魚の涙」という名前の鞄は非常に入手困難であるため、「幻の涙」と呼ばれている。

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