小説28「昔話」

会社の先輩にパチンコに誘われたので行くことにした。集合時間を尋ねると明日の朝7時ドンキホーテの駐車場で、とのこと。本気だ。私は十分な軍資金を準備して向かった。

当日、先輩の車に乗せてもらい、そのまま県外へと遠征した。その道中、いろんな話をした。昔の、おおらかだった頃の仕事の話。これまた昔の、おおらかだったパチンコの話。
「コイン図柄があってね、それで当たっても確変なんだけど、そのコイン図柄でよく当たるんだよ」「出張先で時間が無いときほど爆連するんだよな。『花の慶次』で爆連してたときに、どうしても時間がなくって、その台若い女の子に譲ったんだ。換金して戻ってみたら、まだ出てた」「朝一に並んで、よーいドンで店内に入ってさ、はじめてのパチンコ屋だったから、羽モノの島に着いちゃって、やられた~って思ったね」

昔の話ばっかりだった。昔話はどこか暖かい。そういう話を聞くのはとても好きなので、本心から楽しんで聞いていた。

唯一話題に上がった「現在」にまつわる話は、その先輩の一人息子についてのものだった。先輩はいわゆる「シングルファザー」。先輩の子どもが弓道をやりたがっていて、それには結構なお金がかかるとか、勉強が苦手でどこの高校にも行けそうに無いんだ、とかそんな話を聞いた。実は少し、障害があってね…そんなことも言っていた気がする。

そうこうしているうちに目的の巨大パチンコ店に到着した。我々はそそくさと車を降り、下品な騒音あふれる店内へ吸い込まれていった。

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