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「コーヒーと燕」デザインはモノの心を育むふるまい


清々しい空気と金物を包む街、燕三条

早朝の慌しい東京駅から上越新幹線「E7系とき309号」に乗り込み2時間ほどの移動。
群馬県を抜け、車窓には緑の濃い八海山と、どこまでも広く続く田園風景が見えている。
目的の駅に着き広い改札を抜けると巨大なステンレス製らしいナイフとフォークが出迎えてくれた。
PR隊長らしいスワローズのつば九郎がいて思わずニヤリとする。
駅に併設されているコワーキングスペースは、大量のネジやナットが展示され、ライン作業のレーンに取り囲まれた近未来工場の趣き。
また、燕三条Wingという物産センターでは、燕市、三条市で製造されている様々なカナモノ製品がずらりと並んでいた。
そう、ここは越後平野と信濃川を有する金属加工と果物の街、燕三条である。
しばらくすると前乗りしていたISID Brightの関島社長が出迎えてくれた。
本当はもう1人デザイナーの国方さんと同行する予定だったのだか体調不良により初出張叶わず。次回に必ずリベンジしよう。
外に出ると昨晩の大雨で景色はまだ白んだモヤがかかったようだったが、山間から吹き抜ける初夏の風が清々しかった。

どうしてここにいるのか

今回、私が燕三条に訪れた理由は、担当しているコーヒー豆のパッケージデザインのためだ。
ここには障害者雇用総合コンサルティングのスタートライン株式会社が運営する「ロースタリー型 障害者雇用支援 サービス BYSN」がある。

ISIDのグループ会社であるISID Bright(2024年1月1日付で「株式会社電通総研ブライト」に変更)では、このBYSNで働く社員を雇用し、コーヒー豆の焙煎やハンドピックなどの業務を行っている。
UXDCとしてパッケージデザインの依頼を受け、その現場への取材やインタビューを目的とした出張だった。

ISID Brightの役割とVI

ISID Brightという会社の役割は「障がいを持つみなさんの一人ひとりの個性を活かせる「働きの場」の創出」すること。
またホログラムを用いたビジュアルアイディンティティにはこのような意味が込められている。

Bright=ブライトは「明るく輝く」という意味があります。 輝き方も、輝かせ方も一人ひとり違っていていい。 ロゴマークに使用している色は違った角度から見ると、違った輝きを放つホログラムをイメージしています。 ある時は弱く、ある時は微かに、でも、確かに輝いている・・・ 柔らかく、しなやかに、この会社で働く一人ひとりが自分の輝き方、輝かせ方を見つけてほしい そんな思いを込めています。(代表取締役社長 関島 勝巳)

ISIDブライト|ISIDBright

全てが違う輝き方であり、大きさや形、色が違うことを「個性」として捉え、それを活かさる職場を創出するというそのコンセプトに共感した。
関島社長と議論を重ね、ブライトとしての新しいコーヒーブランド「Bright Roastery」と、そのブランドが展開するオリジナルブレンド3種類のコーヒー豆パッケージデザインを制作することになった。

コーヒー豆と手「Bright Roastery」

スタートラインのBYSN社内はこのようなインテリア。
1階がカフェ兼試飲場で2〜3階に焙煎室と作業室、食事スペースや事務室等が入ったビル丸ごとが焙煎に関するスペースとなっている。

焙煎機ルーム
カフェスペース
ハンドドリップテーブル

実際の焙煎所は壁一面が白で統一され、清潔かつ無駄のない整然とした空間だった。
焙煎機は契約会社ことに割り振られ、様々な企業が自社のノベルティや贈答用にここでコーヒー豆を焙煎している。
その一連の業務を雇用されたスタッフのみなさんが行っているのだ。

作業をしてくれたスタッフのみなさんも、後ろで撮影させてもらいながら(少し緊張もあったかも)洗練された効率的な動きで焙煎機を稼働させている。本当に手慣れたものだった。

焙煎機の操作パネル
焼き上がったコーヒー豆
焙煎度合いを調整するスタッフ

みなさんが行っているコーヒー豆の選別と焙煎工程は、簡単にまとめると以下のような流れになる。

  1. 焙煎機の暖気

  2. ハンドピック

  3. ロースト

  4. アフターピック

  5. ミル挽き

  6. ドリップパック詰め

  7. シーラー熱圧着

どの工程もスムーズに、且つ丁寧に作業されており、細やかに動くその手はとても美しいものだった。
こちらから声をかけながら軽く談笑もしつつ、リラックスした雰囲気でもくもくと業務を行う姿に凛々しさすら感じた。
みなさんのきめ細やかな作業を経て、ひとつひとつのコーヒーが運ばれ、様々な人の手元へ届いていく旅路を想像していた。
またパッケージの形状やシール貼りなど、これから制作していく成果物に大きな制約や条件はなく、みなさんが十二分に対応してくれることを知れたことは大きな発見だった。

グラインダーで豆を挽く
サンプルを確認しながら粗悪な生豆をハンドピックする
ドリップパック用に計測し袋詰めする

最後に焙煎してもらったコーヒーを、BYSNの方にハンドドリップしていただき、みんなで語らいながらいただいた。
少し酸味の強い味わいに「すっぱいね」と笑い合いながら飲んだことがとても印象に残っている。
「Bright Roastery」というブランドはみなさんの温かな手によって生み出され、たくさんの方のほっと一息つく瞬間へと飛び立っていく、そんなイメージを創造できないかと考えながら帰りの新幹線に乗り込んだ。

Brightに込めた「輝き」という個性

燕三条での取材と撮影を終え、まずデザイナーの国方さんと考えたのは、個性ある輝きをどう表現するかだった。
「個性豊かな輝き」から星を題材に考えるアイデアを国方さんが出してくれたので、シンプルに様々な形の星を描き起こしてみることを行い、それをモチーフに意味ある形や図柄へと展開、試行錯誤を繰り返した。

様々な星のイラストを試作
星のイラストから具体的な図形の具現化

パッケージに利用するビジュアルデザインは、コンセプトに沿ってアイデアは出てきたが、実際に出来上がったパッケージへの袋詰めやシール貼り、梱包、シーラーによる熱溶着など、作業していただく社員の安全性や操作感に対応するユーザービリティはどう考えるか?これが課題だった。
それならやはり現地で取材、確認して実際に作業される方のリサーチを行うことで課題解決しようと今に至るのである。

デザインはモノの心を育むふるまい

燕三条で感じたことを言語化し、ロゴのイメージを具現化していく。
実際に細やかな作業をされるみなさんの手。
その手から生まれた商品が多くのユーザーへと届いていく様。
それらを意識しながら作ったアイデアを最終的に2案に絞った。

ロゴ01案「燕が運ぶコーヒー豆」
ロゴ02案「美しい手から生まれる燕三条のコーヒー」

01案は、燕が世界中の様々な種類のコーヒー豆を運びいれ、それをみなさんが丁寧に焙煎し、さらに様々な方の元へ飛び立っていくイメージ。
02案は、みなさんの美しい手と燕三条の金物加工文化を融合させた「燕」という漢字に見立てたイメージ。
チームで検討し、パッケージと組み合わせて最終的にデザインが仕上がった。

仕上がったパッケージを貼り付け袋詰めしたサンプル

3種類の商品に対して、それぞれ星のイメージと時間帯によってオススメしたいテイストから「オーロラブレンド」「ステラブレンド」「ルナブレンド」というネーミングに決定した。
それぞれの具体的なデザインに対するアートワークは、また別のnoteで国方さんに紹介してもらう予定。
私としては、商品を生産している人、そこに静かに佇むストーリー、生み出されている風土など、実際に足を運び、語り合い、工程を直近で感じたからこそ創造できたデザインになったと感じている。
商品そのものに心はないかもしれないが、これを手にする方の心を温かくし、育むきっかけになれば本望だ。
ぜひ現地のみなさんと共に焙煎作業を行い、このパッケージに包まれたコーヒー豆が、ユーザーの手元へと羽ばたいていく姿を燕三条でみたいと思う。

written by たかみー
ISIDのデザイナーとしてシステムのUIデザインと体験設計を行なっています。プロダクトを作ること、売ることを通じて社会がハッピーになれる戦略を考えていきたいです。コーヒー豆焙煎が趣味。


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