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「モード」を減らす工夫、あえて「モード」を加える工夫

紙飛行機画面を見つめる日々

昔なつかしのガラケー時代のメール機能を思い出してみてください。
ぼくが当時つかっていたガラケーのメール機能は、受信ボックス、送信済みボックス、メール新規作成などのメニューリストが最初に表示されていました。メニューから「メール新規作成」を選び、内容を入力して送信ボタンを押すと「メール送信中…」というメッセージとともに紙飛行機が飛んでいくアニメーションつきの画面が表示されました。

紙飛行機の画面が表示されているあいだ、ガラケーはほかの操作をほとんど受けつけない状態に変化します。紙飛行機画面の中にある「中止」ボタンを選択するか電源ボタンを押すかして送信をやめないかぎり、ぼくには紙飛行機を眺めることしかできません。
このように、「ひとつの処理や操作が完了するまでほかの操作ができないようにする仕組み」のことを、UI設計の用語で「モード」と呼びます。

メール機能でいえば、最初に表示されるメニューリストも、機能を選択するための一種のモードといえます。
新規メール作成画面で、前の画面に戻ろうとしたときに出てくる「このメールを保存しますか?」といった確認の画面も、やはりモードです。

モードをなくせば待ち時間や操作の手間が減る

現在のスマホのメールアプリでは、メールを送信しても「紙飛行機の画面」は出てきません。送信処理の最中でも、ほかのメールを確認したり別のメールを作成したりできるようになっています。
メニューリストが表示されていたトップ画面も、多くの人がいちばんよく見るであろう「受信ボックス」の一覧がはじめから表示されるように変わりました。いちいち受信ボックスを選ぶ操作が必要なくなり、すぐに新着メールを確認できます。
メール作成画面をそのまま閉じても「保存しますか?」のように聞かれたりはせず、かわりに自動的に下書きとして保存してくれるようになりました。

スマホのUIは、ガラケー時代に存在していたモードをなくしたり、モードを感じさせないような作りに進化したのです。
これによって、処理待ちや操作の手間といった操作上のストレスを大きく軽減できています。

あえてモードを加えることが安心感を生むケースも

メールアプリの「受信する」「保存する」といった機能は、どんどんシンプルになり、操作に対する画面上の反応も控えめになり、意識されない存在に変わってきています。
こうしたUI設計の工夫は操作経験を積むほど利用効率の高まるアプリを実現できる反面、利用経験の少ない人/利用頻度の少ない人たちにとっては、処理結果をはっきり把握できないことがかえって不安を生んでしまうケースもあります。

金融機関が一般ユーザー向けに提供する送金アプリを例に考えてみましょう。
このアプリは、高度な技術によって送金処理を一瞬で完了できるのが特長です。でも、UIでこれをそのまま表現してしまうと、「送金する」ボタンを押した直後に一瞬で完了画面が表示されてしまうことになるわけです。
これではユーザーは、自分が確かに操作した、送金手続きが完了した、という実感が得られず「これで本当に支払いが終わったの…?」と不安にかられてしまいます。

こんな状況では、たとえ内部的な処理が終わっていたとしても、UIではあえて処理中の演出を加えるとよいでしょう。
具体的には、「送金する」ボタンを押した後、コンマ数秒〜数秒程度で処理中の状態を示すアニメーションを表示させることで「自分の操作が正しく受け付けられたこと」と「処理が正しく行われていること」のフィードバックをユーザーに提供します。
はっきりしたフィードバックを与えることで「自分の操作が完了したんだ」という認識を持たせることができるようになります。

誰がどんな状況で使うモノかによって、適切なフィードバックを考えよう

では、上のようなUIを、一般のユーザーではなく「金融機関でお金の取引を専門にしているトレーダー」に業務で使ってもらうとしたらどうでしょうか。
0.1秒を争う取引をしている彼らからは、間違いなく「この無駄に長いアニメーションをなくしてくれ!」という意見が続出するはずです。

できるだけモードを減らそうとするのは、UI設計の基本です。
ですが、モノを使う人の属性、使われる環境、扱われる情報の性質を理解しておくことは、UIデザイナーにとってそれ以上に大切な前提条件です。
提供する相手やモノに応じた適切なフィードバックを検討することで、使いごこちのよいサービスを実現できるはずです。
tumblrより引用)

written by おぎわら
UIデザイナー。
ユーザビリティ評価とUI設計担当。家で猫さまと戯れるのが生きがいです。

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