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Googleなどが取り組む共通規格「Matter」の登場によってスマートホーム市場はどう変わるのか

スマートホーム業界待望の天下統一規格「Matter」 -
Google、Amazon、Apple、IKEAなどが取り組む新標準とは

国内・海外の企業が新たなプロダクトを発表する中で、実際に世の中に定着しているものとしていないものの差は何なのか?

また「選ばれるスマートホームプロダクト」を開発するために、必要なポイントはどこなのか?

日本におけるIoT事業開発の第一人者。自らコンサルティングサービスを提供しつつ、世界中のIoT関連企業と幅広いコネクションを持つ、 X-HEMISTRY・CEOの新貝文将氏をゲストに迎え、コミュニケーションロボット(BOCCO emo)はじめ「住む人を主役」に考えた企画・開発を続けるユカイ工学代表の青木と取締役の鈴木が、生活を豊かにするためのサービス開発の最前線をお伝えしたセミナーのレポートをお届けします。

こんな方におすすめのセミナーレポートです
・BtoB、BtoCプロダクトを扱っている事業会社の経営者
・新規事業開発に携わっている企画、マーケティング、開発マネージャ


◆スマートホームの良し悪しはソフトウェアが9割

鈴木:
日本とアメリカのスマートホーム市場の違いはなんでしょうか?

新貝:
日本と比べてアメリカは5年ほど、スマートホーム市場を先行しています。そこには様々な要因がありますが、一つはソフトウェアにあると考えています。

IoTやスマートホームというと、まずはモノが目につくのでハードウェアのイメージですが、実際はソフトウェアの塊なんですね。ロボットも結局中にソフトウェアがあり、その先にクラウドアプリケーションがあってと、とにかく80〜90%はソフトウェアでドライブしていかなければなりません。

それを踏まえて考えると、日本はものづくり大国ではあるけどソフトウェアの開発については、技術的なキャッチアップも含めて遅れているなと感じますね。

あと、元々アメリカはホームセキュリティの一環としてスマートホームが始まったところがありますが、比較的大手の企業が2010年から参入しているんですね。そういった大手の企業に加えて、Amazon、Google、Appleなどの企業が展開することからメディア露出も多くなり、目にするタイミングが増えるということがあります。

青木:
日本でも2013〜2014年にタマホームなどの住宅大手企業がスマートホームに力を入れてきていた時期もありましたよね。芸能人をCMに起用したりしていて、それを見ていて日本でも市場が広がるかなと思っていたんですが、そうはなりませんでしたね。

鈴木:
先ほどあった「ソフトウェアの開発力」について、どういう点が要因と考えられますか?

青木:
純粋にメーカーやシステム開発企業のプレイヤーの数というのはありますよね。

セキュリティカメラとAIを用いてスマートホームのサービスを展開することはもちろん日本でもできますが、実際に開発している企業は圧倒的に少ないですね。

新貝:
アメリカではスタートアップが資金調達しやすいですよね。

IoTを開発しているアメリカの企業はハードウェアではなくソフトウェアの会社だと自分たちで認識しています。インターネットが母体としてあったら、その先にある手足を動かすブレーンとしてハードウェアを作ってるというイメージなんですね。そういった意識の差が開発やサービス展開に出ているのではないでしょうか。

◆共通規格「Matter」の登場によって何が変わるのか

青木:
新たに出るスマートホーム規格「Matter」は、今後浸透していくんでしょうか。

新貝:
すでにニュースなどでも取り上げられていますが、「Matter」はどの企業のデバイスでも共通して使える新しいスマートホームの標準化規格で、これまでと違い固有のアプリで操作せずとも、エコシステムを担うプレイヤーにとってシームレスにスマートホームを実現しやすくなっています。

予定通りなら2022年秋以降に3桁単位でプロダクトが出てくることになっていますね。「Matter」が搭載されているプロダクトにはBluetoothのように共通のロゴが記載されるようになります。

2022年秋に登場するスマートホーム共通規格「Matter」

以前にもスマートホームの規格を作ろうとする動きは何度かあったんですが、失敗に終わっています。ですが、今回の「Matter」はAmazon、Google、Appleを含んだ参画企業が多いことからかなり有望だといわれてます。現在も参画企業は増え続けていて先日のカンファレンスでは500社を超えたということでした。

青木:
これはZigBeeアライアンスが固めてきた仕様などがベースになっているんですよね。

新貝:
そうですね、彼らが積み上げてきたものをフルに活用する形になります。ただ置き換わるものではなくZigBeeアライアンス改めCSA(Connectivity Standards Alliance)のワーキンググループの1つとしての動きになります。どちらかというとコミュニケーションレイヤーのプロトコルですね。

ZigBeeとZ-Waveはスマートホームにおいて事実上広く普及している二大プロトコルです。かなり端折ってわかりやすく説明してみますが、仮にZigBeeのスマートロックの鍵を操作するコマンドが「開いて」「閉って」、Z-Waveのスマートロックの鍵を開けるコマンドが「オープン」「クローズ」だったとします。そうなると、英語と日本語のように、ZigBee語とZ-Wave語が異なっているため、物理的に同じ挙動をするものでもプロトコルが異なることで意思疎通が容易にできなかったんです。これが「Matter」になると鍵の操作は「ロック」「アンロック」に統一しようぜ、と取り決められるため、ソフトウェア開発者はMatter語だけ覚えれば良くなるため格段に開発が楽になっていきます。Matterを支持する企業が増えていることもあり、普及していくとメーカーも異なる言語を話す製品を開発しなくてよくなり、メーカーにとっての製品開発も楽になり、コストも下がりやすくなります。しいては、消費者にとってもわかりやすくなるメリットもあります。

「Matter」の参画企業500社のうち、2022年1月時点で日本の企業はX-HEMISTRYを含めた8社しかいないんですよね。特にmui Labさんは積極的に活動されていますが、ここがもっと増えてくるといいですよね。

「Matter」で現在標準化が進められているのは、照明機器や空調制御など8種類のデバイスタイプです。ただこれで終わりではなく、アライアンス内ではどんどん新しいタイプの策定も進められているので、今仕様策定されているものが世の中に出てくるとこれの倍くらいは出てくる予定ですし、その後も対応のデバイスタイプはどんどん増えていきます。

「Matter」を標準でサポートしている無線技術が2つありまして、1つはWi-Fi、もう1つはThreadというものです。ThreadはGoogleが買収したNestという会社が積極的に採用していたものなんですけど、HomePod MiniやApple TVの第5世代、Googleプロダクトなど、すでにThreadが搭載されているプロダクトも売られています。Amazonが販売しているEchoなどもThread+Matterにアップデート可能なものが多く売られています。つまり皆さんが現行ご家庭で使っている製品もMatterのVer1が正式リリースされたタイミングでソフトウェアップデートにより「Matter」対応プロダクトにアップグレードされるんです。

◆スマートホーム市場、今後の動き

鈴木:
既存のスマートホーム製品はどうなっていくんでしょうか?

新貝:
Matterはそこの作りも秀逸で、先ほどあげたZ-Waveの場合、全体を束ねるゲートウェイがあるんですね。このゲートウェイだけをMatter対応させることによって、Z-Wave語とMatter語の翻訳機として機能させることができるので、シームレスにMatterネットワークとZ-Waveネットワークをつなげることができるようになります。なので、これまでに出ているZ-Waveが搭載されているスマートホームプロダクトでもソフトウェアのアップデートによりMatterの文脈で使えるということなんです。これが過去の標準化と大きく違う点でもあります。

AmazonやGoogleは昨年と直近のカンファレンスでEcho製品群やNest製品群、Android OSをMatter対応させると話していますし、AppleについてもiOS16から正式対応させると発表があったのでMatterが広がっていくのは間違いないのではないでしょうか。

他に日本で展開している企業では、IKEAやPhilips HueがMatter対応を積極的に進めていて、IKEAは10月にMatter対応したゲートウェイを販売するという発表も出ているので、近いうちに日本でも発売されるんではないでしょうか。

Matterが正式に出てくるタイミングで各社が一気にMatter対応プロダクトを出してくるので、このタイミングはスマートホーム市場におけるゲームチェンジャー時期になるでしょうね。

鈴木:
そもそも何故Amazon、Google、Appleが手を組むということが実現できたんですか?

新貝:
本当の経緯はわからないんですが、今回のMatterの仕様はあのAppleも大きく貢献しているそうです。日本ではHomeKitはあまり流行っていませんがアメリカではそれなりに人気があり、例えばQRコードを読み込むだけでアクティベーションできるようになるというHomeKit方式がMatterでも採用されていたりします。

Appleはこれまで色々なメーカーにHomeKitに対応して欲しいと働きかけてきているんですが、メーカーからしたら大変なことですよね。自社メーカーのGoogle版作る、Apple版作るなどはやってられないので、プラットフォーム側からしても喧嘩してる場合じゃないよねと。それなら手を組んでやっていこうということですね。

ただ標準化によって競争力がなくなるわけではないんです。クラウドやアプリケーションなどのソフトウェア部分で差が出せるようになっているので、Apple、Amazon、Googleのようなエコシステムプレイヤーが競争できる余地が残されているのも特徴です。

青木:
ロボットでMatter対応した場合は、どんなアプリケーションが考えられますか?

新貝:
先ほどあげた標準化が進められているデバイスタイプの中にロボットはまだ入っていないんですが、Matterのアライアンスに参加すると「こういうデバイスタイプの標準化を進めましょう」という仕様策定ができるようになっているんですよ。

先週まさにカンファレンスに参加した際に、まさに新しいデバイスタイプを策定しませんか、という提案が出ていたんです。うちの国ではこんな機構のハードウェアが普及しているし、あの国でもこんな機構のハードウェアが普及している。現状の仕様ではサポートできないから、この標準化は必要だよねというプレゼンがなされていて、その場で参画企業が賛成票を投じ、新たな仕様を作っていく場面を目の当たりにしました。ですので、自社のプロダクトで考えているものがあればぜひ参加して提案した方がいいなと感じましたね。

鈴木:
今後スマートホーム市場で熱い分野はどこだと思いますか?

新貝:
アメリカの調査会社のデータで見ると、一番伸びているのはドアホン(スマートドアベル)、次にスマートロックですね。この2つはスマートホーム市場の中で見ると後発だったんですが、昨今伸びが加速しています。あとは、次いでネットワークカメラやスマート照明などが伸びていますね。

鈴木:
Amazonがringの販売を開始しましたが、アメリカでの展開はどうなんでしょうか?

新貝:
標準でringがついている住宅、というのが増えているようですね。

セキュリティとの相性がいいというのもあるんですが、そもそも日本と違うのはインターホンの普及の差ですね。日本のインターホンって日本独自の技術進化なんですよね。基本的に他国はチャイムのみだったこともあり、逆に「チャイム押したら映像付きでスマホで応答できる」というドアホンの分野に注目が集まってるということなんです。

AI搭載されたドアホンも増えてきているので、チャイムを鳴らさなくても、設定しておけば個人を認識するので子供が帰ってきたことをスマホに通知してくれたりします。不在時に誰がきたのかもわかりますし、遠隔でもカメラの映像を確認し、来訪者が問題ないと確認できたらドアを遠隔であけて置き配もしてもらえますし、知人や親戚であれば家に上がって待ってもらったりもできます。

鈴木:
そこの料金設定はどうなってるんでしょうか?

新貝:
単価を下げる努力をしている企業は多いですね。Amazonなんかはよくセールで投げ売りしているじゃないですか。あれはバラまくことで、インターネット上にAmazonの独自ネットワーク網(Sidewalk)を作っているんですよね。VPNではなくピアツーピアで構築していくことで、例えばですが、最終的には配達業者がどこにいるかがわかるようになっていくんだと思います。なので、業界ではAmazonはハードウェアの販売で儲ける気がないと言われています。Amazonは元々ECから派生して、AWSなど様々な分野に進出していますが、スマートホームを普及させることよって新たなインフラを構築している、ともいえます。

青木:
日本だと住宅設備は家電とライフスパンが違うから、なかなか標準で売りづらいという話を聞きますが、アメリカでは違うんですか?

新貝:
アメリカでスマートホームが新築の賃貸集合住宅に標準化される割合は2025年に40%になる、というのが2020年に出ていましたが、すでにもう40%くらいに到達しているんじゃないか、という勢いを感じます。

スマートホームを標準化することで他の住宅と差別化できるので賃料アップの実績が積み上がってきており、入れない理由がない、という感じになっています。電話機が黒電話から始まり、コードレスホン、スマホと買い換えサイクルが変化していますよね。ですので、今後は、今は思いもよらなかったものを新しいものに買い換えたくなる、という需要が出てくると思います。

鈴木:
スマートホーム市場で新しいプロダクトを出す際に、目指す世界観はどこにおけばいいと思いますか?

青木:
ただ便利なだけだと消費者にとってはメリットが弱いように感じますよね。

新貝:
アメリカでは「どうやって課題解決するか」に結びつけていくのがいいよねという方向になっていますね。アメリカの場合、当初はホームセキュリティの付加価値として位置づけられて受け入れられていきました。いま注目されて伸びているのは「住宅管理の効率化」ですかね。

実はコロナ禍において、集合住宅の無人内覧というのが非常に増えています。日本でも少数ですが始まってきていますよね。オンラインで内覧の予約をするとお客さんのスマホが鍵になって内覧する部屋に入れるので、仲介の営業担当者が同行せずとも非接触の状態でお客さんだけで内覧できます。内覧を終えて、仮に消し忘れがあった場合でも照明やエアコンも遠隔で操作できますし、鍵ももちろん戸締まりできます。まさにこれはDXですよね。昨年も2社、アメリカでこのスマートアパートメントの分野において上場しています。

青木:
そういうサービスとどんどん紐づいていくことで、実用性が明確になってきているんですね。

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