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センサ×ロボットで挑戦する介護現場の安心・便利向上への取組

昨今、住宅型老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅が増加傾向にありますが、入居して数年が経過すると入居者も高齢化し、部屋の管理や生活に支障が生じることで、個別のケアが必要になってきます。特に、居室の温度モニタリング、服薬や水分摂取等の声掛け、食事の案内、室内換気や清掃支援など、限られたスタッフで細やかな管理や対応を求められる業務負荷は、心理的にも肉体的にも大きな割合を占めています。

こうした背景から、神奈川県の事業連携プロジェクトの創出を目的とした「BAK(ビジネスアクセラレータかながわ)」を活用し、ユカイ工学のコミュニケーションロボット「BOCCO emo(ボッコ エモ)」と、マクニカが有する空気質センシング技術 「AiryQonnect」を連携させることで、介護施設の入居者やスタッフに施設内の状況を通知し、業務環境を改善する実証実験を行うことになりました。

今回は、マクニカで新規事業創出に向けたアクセラレーションを担当する林氏、神奈川県でBAKなどオープンイノベーションを推進している上野氏、神奈川県の取り組みを強力に支援したeiiconの土谷氏をお迎えし、介護現場での空気質センサとロボットによる業務改善の可能性や、業務改善後の展開についてお話ししたセミナーのレポートをお届けします。

AiryQonnect:温湿度、CO2、TVOCガス、PM2.5など空気環境を計測できる空気質ソリューション

こんな方におすすめのセミナーレポートです
・BtoB、BtoCプロダクトを扱っている事業会社の経営者
・新規事業開発に携わっている企画、マーケティング、開発マネージャ
・介護施設向けサービス・プロダクトを企画・開発している企業

◆BAKにおける、マクニカ×ユカイ工学の取り組みとは

鈴木:
今回、マクニカ社と共に取り組ませていただいたプロジェクトは、ユカイ工学のコミュニケーションロボット「BOCCO emo」を空気質センシング技術 「AiryQonnect」を連携させることで、介護施設の入居者やスタッフに施設内の状況を通知して、業務環境を改善するというものでした。

取り組みをさせていただけたのは、神奈川県の事業連携プロジェクトの創出を目的とした「BAK(ビジネスアクセラレータかながわ)」で支援いただいたからです。

今回の募集事業はセンサとの組み合わせ、でしたが、デバイスやサービスが多数存在する中で、コミュニケーションロボットを採択いただいた理由はなんだったのでしょうか?

林:
BAKというプログラムを聞かせていただいた時に、最初に考えたのはマクニカ社が目指したい方向性において、どこに弱みがあるのかという点でした。

弊社はセンサや半導体であったり、「データを集める」という部分においては色々なものを持っていて、そこが強みだと感じています。そのデータを活用して何かサービスを提供する、問題を解決するというところをトライしているのですが、顧客との接点やユーザーへのアプローチが弱いところがありました。

そこで上野さん、土谷さんと相談させていただきながら一緒に取り組むのに最適な企業を探していました。その流れで2022年7月のタイミングで、ベンチャー企業8社から応募があり、そのうちの1社のユカイ工学に決めさせていただきました。

ユカイ工学に決めた1番の決め手はやはり「BOCCO emo」の可愛らしい見た目です。私、個人的にはこの頭から出てるぼんぼりが大好きで。

こういう可愛いって思えるデザインを作る力っていうのはなかなかないなっと感じたんですね。人の心に訴えかける力があるなと。一般的なスマホのアプリでも情報を伝えることはできますが、その情報を受け取った後に何か行動に移すかというと、なかなか難しいなというのを肌で感じています。しかしロボットが「空気が悪いからちょっと窓開けてほしいな」と言ったら、そのロボットのために何かしてあげようという行動変容を促す力があると感じました。この可愛らしい見た目がそれをより後押しするなと感じて、一緒に組ませていただいたというところになります。

土谷:
オープンイノベーションの取り組みにおいて、スタートアップやテクノロジー企業にありがちなのは「うちの技術はこんなことができます」というのを前面に押し出してくることなんですよね。ただユカイ工学は、今回マクニカ社が何をしたいのか、そのために自社で出来ることは何があるのかを何度も深掘りしながら最後の提案に進めていただいたなという印象があります。

こうした取り組みにおいて「自分たちがあれやりたい、これやりたい」というよりも一緒になって何ができる、何をしたいと提案してもらえるかというのは当たり前ですが、重要ですよね。

上野:
オープンイノベーションのテーマによって、応募数は多い・少ないはありますが、やっぱり自社商品はこれで導入してください!これ使えばOKですよ、という切り口の提案が多いんです。でもそれだけじゃやっぱりなかなかうまくいかないことが多いんですよね。こういうシーンでこういう使い方ができますよと、相手と一緒に考えていく姿勢や、相手に寄り添って求めているものを実現しようとされる姿勢が、共創においては大事だなと改めて感じました。

鈴木:
皆様、ありがとうございます。BOCCO emoを始め、ユカイ工学の在り方をご評価いただけたこと、嬉しく思います。

こうしてマクニカと一緒に協業を始めることになりましたが、何故、介護業界を最初に挑戦する領域として選んだのでしょうか?

林:
BOCCO emoのシンプルさが、すごい強みだなと感じていました。色々ボタンがついているわけでもなく、導入しやすい。これなら高齢者も使いやすいのではと考えました。またマクニカの空気質センサは、その時すでに高齢者施設に導入していた、というのもありました。このセンサの情報と可愛いロボットを組み合わせることで新しい価値が提供できるんではないかと考え、介護業界を選んでいます。

鈴木:
それ以外の部分でも挑戦することは考えられましたか?

林:
そうですね、商業施設であったり図書館、学校であったりと検討しました。当時2022年8月はコロナウイルス感染症2019が猛威を振るっていたタイミングでもありました。その時にCO2濃度が話題になり、換気を促す傾向もあったので、そういう場所でも使えるだろうなと思いました。

ただ日本において高齢者の介護問題は大きな課題でもありますし、これまでに介護施設と色々コミュニケーションをとってきていて、空気の質はもちろん、匂いの問題なども伺っていたので、まずは介護業界からと決めました。

上野:
最初はご自宅で使ってもらうという話もあったかと思うのですが、それよりもまずは施設でというのは様々なコミュニケーションを施設側とすでにとっていたからというのもあり、すっと落ちる感じはありましたね。

鈴木:
介護施設向けにサービスを構築していくというのが決まった後、そもそもどこに課題があって、どんな価値が出せるか、実態はどうなのかを聞いて解像度を上げたいという話をしましたよね。

林:
センサとロボットを組み合わせる、ということは決まったものの、じゃあそれでなんの課題が解決できるのかというのは1番大事なところですしね。当時はコロナの感染拡大が大きかったこともあり、そちらに考えが引っ張られることも多かったです。ただ実際にそれが正しいかどうかはわからないなというところで有識者インタビューをさせていただきました。

上野:
神奈川県の関係団体や繋がりのある介護施設をピックアップして、プロジェクトの説明をして実証の前にまずはインタビューさせてほしいとお願いしたところ、かなり快く引き受けてくださいました。

◆介護施設のリアルな課題をヒアリングして洗い出し

林:
合計11社からお話を聞かせていただきました。最初想定していたコロナで発生している問題よりも、入居者がどんどん高齢化していくことに伴う課題が大きいということがわかりました。またサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)を中心にヒアリングを進めていくと、高齢者の住んでいる部屋が一般の住宅の個室にあたるので、住みづらい部屋になっているかもしれないけど、詳細が把握できていないし、状況が理解しづらいといった課題もあることがわかりました。

基本的に介護度の低い方が住まわれる施設ではスタッフの数も少ないといった実情もありました。本来なら高齢化が進むにつれ、別の介護施設に移る必要があるのですが、なかなか住み慣れた場所を出ていきたくないといった心情的な部分もあるようでした。

スタッフが少なく、なかなか個人の状況まで把握しきれない中で、コミュニケーションロボット「BOCCO emo」で服薬や水分補給の声かけなどに貢献していけないか、というのを目指すことに決めました。

鈴木:
サ高住という仕組みができてもう10年以上経ってるなかで、施設に入る時は元気だった方がだんだん歳をとっていけば、それなりにケアが必要になってくるとはいえ、スタッフさんの数が少ない。そこら辺のギャップを感じ取ることができたっていうのは、有識者インタビューの数を重ねていくことで見えてきて、すごくよかったなと思っています。

介護施設と一口にいっても色々ありますが、老人ホームではなくサ高住に向けてやっていこう、そのためにはどんなことをしたらいいか、という解像度が上がって進んでいきましたね。

林:
実証実験の狙いとしては、BOCCO emoで入居している方々に気づきを与えて、行動変容を促し、それによってスタッフの工数を削減する、というものになりました。

実際に実証実験は2ヶ所の施設で行わせていただいたのですが、どちらの施設も数百人もの方が入居されていてイベントが頻繁に開かれており、様々なサービスを受けに来る方も多かったりと、コミュニケーションが多数発生している現場だなと感じました。この現場を限られたスタッフさんで運用されていたので、このスタッフさんの声掛け業務に貢献できればと思いお願いさせて頂きました。

鈴木:
ユカイ工学の視点では、BOCCO emoを個人で買ってくださるお客様がいるのはわかっていたのですが、それを施設側がお金を出して払うビジネスモデルが成立するのか、というところに注目していました。そのためには、ロボットを使う入居者だけではなくて、スタッフさん側にもいい影響がないとダメだよね、と、その部分も目的としては大きくあったかんじですね。

林:
実際に行ったサービス内容では、センサで湿度や温度、CO2濃度などの空気質を測り、湿度が高すぎたら「クーラーかけようよ」とか「新鮮な空気を入れようよ」とBOCCO emoが言うような連携をソリューションとして作りました。あと時間になったら「お薬忘れずに飲んでくださいね」とか「デイサービスに行く日だよ」とかを言う実証をしたところになります。

鈴木:
実証実験の結果、想定していた通りの効果が出た、というところではありました。あとやっぱり可愛いけど、みんながみんな受け入れられるわけではない、というのもわかりましたね。

林:
モニター属性と定量評価というところで、2施設から80歳以上の方10名にご協力いただきました。その中で積極的に活用されたというところが4割でした。残りの6割の方はロボット含めスマホなどに触り慣れてない方々だったんですね。電子部品は怖いとか、壊れたらどうなるんだとか。

ただ使ってくださった方々は本当にBOCCO emoのことが大好きになっていて、一緒に暮らすことで生活が幸せになった、という話をされる方もいました。好きになってくださる方の傾向としては女性が多かったり、日頃からLINEなどスマホやタブレットを使っている方でしたね。

実際の効果としては、運動やイベントなどの告知や声かけについてはすごく有効であったというのが伺えました。施設に入居しても結構部屋にこもりがちになる方というのはたくさんいらっしゃるそうです。そこにBOCCO emoが入ることによって、心が温かくなったり、声をかけられたのをきっかけにお茶会や運動に参加してもらえたという活動的になるという点ですごく有効でした。

鈴木:
このサービスはスタッフさんの工数削減を主としているので、体験いただく方も、普段スタッフさんが声がけをしているような方に試してもらったんですよね。

BOCCO emoが声かけする内容もスタッフさんが全部考えてくださったんですよね。その方にどんな声かけの仕方がいいか。ご高齢の方にどういう風な声をかけると本当に動いてくれるのか、というのを知見をもとに作ってくださって、熱量高くご協力いただいたこと、とてもありがたかったです。

林:
センサで取得した値を見ると、結構、CO2濃度が高くなってる傾向が見られたんですよね。1,000ppmを超えると頭痛がしたりなど危険なこともあります。今までは把握できてなかった、そういうリスクもあると把握できたというのはありますね。

鈴木:
CO2濃度を取得しての声かけっていうのは、難しかったですよね。
CO2濃度が高いと何がまずいのかというのが、そもそもわからない。割と何年もこれで過ごしているので生活習慣を変えるというのがすごく難しいんですよね。ずっと長いことロボットが一緒にいてくれたら聞いてくれるようになるんだと思うんですが、短い期間では難しかったので、次のステップで検討したいですね。

林:
今後活用したい領域としては、孤立化であったり認知機能の低下といったところで、話し相手としての活用に使えるんではないかと考えています。スタッフさんもそれぞれの入居者の好みや苦手なものを把握するのが難しかったりするので、そういったコミュニケーションの一部をロボットで担うことで文字としてのこるといいなというのを伺いました。

エンディングノートのような、家族にもなかなか言えないところをロボットがコミュニケーションとって、それが記録として残るといったこともできるといいのではという話もありました。

目指していたものの1つのスタッフの工数削減というところは、結果として難しいということにはなったのですが、一方で入居者の健康維持、健康的な生活への行動変容はできたということになります。

◆センサ×ロボットの今後の可能性と展開

土谷:
準備も含め、プロジェクトを進める中で出てきた想定外のことはたくさんあったと思うのですが、それがまた次のビジネスチャンスになる部分もあるんだろうなと思ったので、また機会があればディスカッションさせてもらえたらいいなと思いました。介護施設以外の可能性も広がるのではと思っています。

上野:
やっぱり我々も介護施設の業務経験がないので、施設の規模やステージや種類など様々な条件がある中で、どれくらい入居してから時間が経っているかによってニーズが違うというのがわかったところは大きなところだったと思いますし、そこにチャレンジされたのもすごくよかったですよね。

工数削減は大事なところではあると思うんですが、行政としても孤立対策というのは大事だと思っています。認知症対策のところで可能性が感じられたという点や、フレイルや心の健康も含めて可能性があると思っていて、そこはとても今後期待したいところです。

林:
今後、普及に向けた課題としては、まだまだ施設の方と仮説をぶつけて実装して…と繰り返しおこなっていかないといけないと感じています。より価値のあるものにするためにブラッシュアップする必要があるなと。あと、ロボットを初めて使ってもらうことを許容するというのは、アーリーアダプターの人ならできるけど、それ以外だと初めはなかなかとっつけない人がいるのは前提なんだなと思いました。そこに寄り添って、一緒に価値を作りながらサービスを広めていくという活動が必要だと思います。

上野:
介護施設向けのIoT関連の導入の補助金などを対象とするには、やはり導入したことで介護従事者の効率性がどう変わるのかというのが問われてきます。

一方で、ヘルスケアや心身の改善に繋がる上ではエビデンスが大切になります。エビデンスを集めていく支援も県が行っているので、そうした文脈で連携して実績を作っていくと信頼度が上がり、導入に繋がっていくのではないでしょうか。

土谷:
介護業界についてリテラシーの高い企業がもう1社パートナーとして入ってくると多分進め方が大きく変わるだろうなという感覚を持っておりまして。なので、介護業界に事業展開されている方、また今の取り組みで他の業界にも展開できる、その分野の知見をもっている企業に加わっていただけるとすごくいいんじゃないかなという風に感じていました。そしてそこはオープンイノベーションの専門支援企業として、今後も支援できればと思っています。

鈴木:
今回ご協力いただいた現場のようなところでしたり、可愛らしいロボットにちょっと共感を持っていただける方であれば、開拓を一緒にしていただければ嬉しいなと思っています。

スピーカー紹介

株式会社eiicon Enterprise事業本部 Incubation sales事業部
土谷 勇太郎
2004年、大手メーカーに入社後、M&Aコンサルティング会社に転職。2018年にM&Aプラットフォーム事業を手掛ける「株式会社ALIVAL」に共同創業メンバーとして立上に参画。同社の株式を売却後、オープンイノベーション・新規事業支援を行う株式会社eiiconにジョインし、大手企業のアクセラプログラムや新規事業創出プログラムの設計・運用に従事。

神奈川県 産業労働局 産業部 産業振興課 新産業振興グループ 副主幹
上野 哲也
2007年に神奈川県庁入庁後、地方分権、県立病院、環境農政・農林水産事務、ヘルスケアICTなどの施策を担当。
2020年度から産業振興課にてベンチャー支援事業に従事し、主に大企業とベンチャーのオープンイノベーション支援を担当。

株式会社マクニカ 新事業本部 インキュベーション室 室長
林 雅幸
大学卒業後、株式会社ワークスアプリケーションズならびに楽天株式会社にてデータマネジメント、AI開発プロジェクトの推進、新サービス開発、海外拠点立ち上げに従事。2020年より日本でNo1のシェアを持つ半導体ディストリビューター・株式会社マクニカにて新規事業創出に向けたアクセラレーション、社外とのオープンイノベーションの推進、AI事業開発に従事。2008年 イギリス Durham大学MBA修了。

ユカイ工学株式会社 COO
鈴木 裕一郎
外資系IT企業、コンサルティング会社を経て、SaaS型サービスを提供するスタートアップ企業に転じ、執行役員・COOとして成熟市場の法人営業、チームマネジメントを担当。2018年からユカイ工学へ参画し、BOCCOシリーズを中心とした法人営業を統括。根っからのBOCCOユーザー。


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企画・試作開発・量産、ソフトウェアからハードウェアまで担うユカイ工学とは

ユカイ工学は、「ロボティクスで、世界をユカイに。」を掲げ、様々な製品を開発・販売するロボティクスベンチャーです。自社製品の製造、販売ノウハウを元に、お客様のご要望に合わせて、ハードウェアの設計・製造、ソフトウェアやアプリ開発、センサーや部品の調達を迅速、柔軟に対応する体制を整えています。

新規事業開発や既存サービスの改修など、ユカイ工学のロボティクス技術やノウハウを活用しサポートいたします。
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