見出し画像

20220330の考えない日記

暗闇で思ったより飛び出し手についた残り少ない歯磨き粉を、蜂蜜を掬うみたいに唇へ移して磨き始めた。いつもより辛く感じる口内に今日の出来事を書いておきたくなった。

一本の桜が農道の小道に生えている。その名もなき一本の桜を見にいく畑道の手前に、ごく小さな沼がある。数年前に訪れたときはおたまじゃくしがいたが、今日はロープみたいにうねった長い長い卵があった。今年はカエルより開花が早かったということのようだった。
ところが、相方はそれを信用せず、へし折った手近な枯れ枝で卵の付近を掻いた。すると汚濁した沼からカエルの卵の匂いが立ち上った。それはカエルの卵のある季節の水辺の香りかも知れなかったが、私は「あ、カエルの卵の匂いだ!」と叫んだ。

一時間くらい前に電話が鳴り、退去するもう一つの場所(休憩室ではなくて)の清掃が足りないという苦情の電話だった。
桜を見ている間、そのことが頭から離れずちっとも楽しめなかった。帰り道、乗馬場に寄り道して馬を眺めた。柵のある場内で白地に栗色と灰色の混ざった馬が一頭歩き回っていた。彼は繋がれておらず、こちらにも目を配りながら時には駆け、時にはゆったりと歩いていた。
この一年患っている皮膚病の痒みを忘れて私はその馬の足首の柔軟さに見惚れていた。先程の電話も何処かへ消えていた。

家へ戻り、清掃道具を積んで昨日退去が済んだはずの場所へ向かった。言われた場所をもう一度入念に清掃し鍵を返した。

知人に顔を見せてから車を小路へ向け、裏道から本通りへ再び戻って帰宅した。途中でドラッグストアに寄り、相方に約束していた50枚入りのジップロックと激オチくんの小袋を購入した。自分のためにはヨーグルトも買った。

家へ着き、夕食を済ませてからパソコンを開いた。皮膚病の影響で指紋認証が効かず、パスワードを入力した。一日を終える前に匙の上でぷるりと揺れる杏仁豆腐を食べ、歯を磨き、今日のことをここへ書いておこうと思った。相方と卵と馬が楽にしてくれたいくつかのことを。

fine 03302022

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?