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考えない日記:桃色の夜道で 04.01.2023

 紙にペンで殴り書きした人生の映画リストを友人が見せてくれた夜に、楽しかった余韻の寂しさを引き連れてゆっくりと一人ナメクジみたいに歩いていた。土曜の深夜を終わらせまいと粘る米兵で、横須賀のドブ板目貫通りは賑わいをみせていた。シャッターのおりた三笠商店街の先、駅下にある公衆便所へ寄り道した。右手の交番の中にピンクの服を着たおばちゃんが一人で座り、携帯電話を眺めていた。

 友達の書いた映画リストを眺めながら言葉をかわし、別の友人が裏にお薦めの一本を書き込むのを覗き込んだ夜は過ぎた。繁華街から離れる距離に乗じて街は急速に静けさを増していた。終電がないのだからもう少し、閉園するプールにいつまでも浸かり、ふやけた足の指に親近感を抱くような気分で街や誰かの気配と佇んでいたかった。

 交差点の横断歩道の向こうからベースをカタツムリみたいに背負った男が歩いてきた。疲れてやや前傾姿勢に背を丸め、オレンジを混色したチェックの厚手のシャツがベースと共に彼の外皮として背中に貼り付いていた。それは一眼でわかる友達だった。

 坂を登ったり下ったりしながら一緒に歩いて帰った。小雨が落ちていた。アスファルトの桜を街灯が照らしていた。川のようにうねうねと曲がる道。深夜が人気のない桃色の水面に引き寄せられていた。「ここがうちなんだ」と町工場らしき建物の前で酔った友達はいい、そこからは夜の続きを一人で歩いた。

fine  04.01.2023 『考えない日記』

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