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二回目の名古屋と喫茶店

考えない日記:番外編Ⅱ

慌てて購入したアーモンドチョコの袋を握りしめ、落ちゆく夕日が頬を照らす新幹線に飛び乗った。
帰路はいつも不思議な気持ちだ。新しい風景を見てしまったために、もう前と同じ様にその街を眺めることはできない。
ここに昨日のことを少し書こうと思う。

2020/11/10
午後の便で新横浜を出発して二度目の名古屋へ降りた。伏見という場所にあるホテルへチェックインする為に名古屋駅前の大きな通りを渡る。そこから先は表よりも裏手の道や狭い道をなるべく選んだ。途中で立派に紅葉させた木々のある小さなお寺を見つけて休息した。

先程抜けた市場は柳橋と言っただろうか。その先の道を更に進み河を越えた辺りにホテルはあったはずだ。


無事に宿へ辿り着き荷物を置く。仕事の待ち合わせまでは時間があるので一旦街へ出る。特に行き先も決めずぶらぶら歩いていると前回も通った長者町繊維街に至った。今回はそこをぐんぐんと先へ進み、時折右方向へ折れながら更に奥へと歩いていく。愛らしいビルを見つけたりしながら気の向くままに足を進める。ルールは一つだけ、それは「名古屋駅へは向かわないこと」


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暫くすると大通り沿いに素敵な石柱のある橋があらわれた。堀になった部分へ木々が枝垂れ美しい緑の陰影を作っている。どうやら国税局か何かが近くにあるらしい。主税という地名も現れた。立派なお屋敷や白壁。この辺りはノリタケの陶磁器工場があった場所で、輸出向けの絵付けを行なっていたと公園の看板に書いてある。辺りは薄暗くなり始め、店の灯りが目立つようになってきた。高速の高架をくぐり南下していくと角にオニギリの販売窓口を設けたお米屋さんを見つけた。丁度小腹も空いていたので覗いてみる。ガラスにシールを何度も貼り直した跡や適度に経年劣化したショーウィンドウに惹かれてオニギリを購入した。焼きタラコ1、きゃらぶき1。

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この辺りは問屋さんが多いのか、小麦等の粉問屋さん、古い焙煎機を置いたコーヒー豆商らしき会社などが目に入った。そのまま道を進んでいくとボンボンという喫茶店の看板が見えた。ネットの情報では懐かしいケーキが豊富だとも載っているお店。外観も良いので入店してみる。

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レトロ喫茶

「CAKE BONBON」という看板に次々と人が吸い寄せられていく。店内はまさにレトロ喫茶、純喫茶を形にした様な内装だが、備品は名古屋的(?)と言って良いのかあらゆるものがミックスされ混沌としている。ガラスケースに収まった日本人形があり麻雀パイの壁掛けがあり、ヨーロッパの裸婦像がいる。
お客さんも同じように多種多様でサラリーマン、若いカップル、観光客、地元のおばちゃんらしき人まで各自が思い思いに過ごしている。これぞ喫茶店という感じだ。
メニューには情報の通り懐かしい雰囲気のケーキが沢山。そして安い!ショートケーキは二百円代。


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サバランとエスプレッソを注文する。
サバランはラム酒のシロップが三歳児のお風呂上がりみたいにびっしょびしょにかけられ、銀紙から溢れ出している。


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きびきびと働く従業員さん。ドラマのセットのように過剰にも思える装飾の店内。それらをぼんやりと眺めながら体をほぐす。たまらない喫茶時間がここにあった。


名古屋は道ゆけば喫茶店があり。値段も安くそれぞれ独特な雰囲気を出している。探し訪ねても良いし、バッタリと出会っても楽しい。ここは間違いなく喫茶天国だ。
ブームに乗って日本へやって来たヨーロッパのチョコレート屋さんは十年も経てば簡単に飽きられてしまうかも知れないが、名古屋の喫茶店はただひたすらに愛されるだろう。イタリア人がバルと呼ばれるコーヒースタンドとエスプレッソを百年に渡り溺愛しているように。


これを書いている帰路の新幹線は右手の窓に夕日を受けている。しばし手を休めiPadから顔を上げる。中央の通路を車内販売がゆっくりと進んでくる。背面テーブルに置かれたモバイルwi-fiを端へ寄せ、ホットコーヒーを注文した。


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