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鷲子山上神社にて産まれた陰キャの怪物〜後編

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前回のあらすじィ!
片道3時間だと勘違いしていた道は5時間のミスだった!早朝に出る為セットしたカービィのアラームは虚しく儚く踊り続ける。
運転中に爆発四散した体を糊付けし、私は無事「鷲子山上神社」に到着できるのか!?

後編「鷲子山上神社にて産まれた陰キャの怪物」
はっじまっるよぉー!

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車を走らせて、しばらくの時間がたった。
高速道路は空いており、快適なドライブであった為、上機嫌な私の車内はライブ会場と化していた。

車内で熱唱していると目的地の近くまで来ていることをナビから告げられた。
どうやら山道を進んだ先に目的地があるようだ。

この先に山道につながる道があり、大通りからそちらの道へ入れば、あとは山道を道なりに行くだけで着くらしい。

私は心の中で感動していた。
完璧なタイミングだ、と。
なぜなら今車から流れ、歌い始めた曲は「Butter-Fly」
この曲はデジモンというアニメの主題歌であり、とにかく熱くなれる、熱血系の曲なのだ。
歌い始めた今はAメロ、ゴキゲンな蝶になった所だ(歌詞)

この調子で行けば、山道を登り始めるタイミングでおそらくサビが来る。最高だ。アクセルを山道を登る為に強めに踏み、無限大な夢(歌詞)の後を私は行くのだ。(山を登るだけ)
想像するだけで心が震える。

ついに、サビが近づいてきた所で山道にも近づいてきた。さぁ、いざ山道へ進まんとした所、視界の隅に青い作業着を着た男が立っていた。工事でもしているのか?と思いつつ、私は進もうと視界を進行方向へ戻した。曲は最高に熱いボルテージへの準備を着々と済ませている。さぁ、もうすぐサビだ!!!

「はい、止まって下さーい」

無慈悲な声が外から聞こえた。
ムゲンダイナッ!!まで歌ってしまった。
体を張った停止指示に思わず息を呑んだ。
進行方向に飛び出さないでくれ、轢いてしまう。
お陰でポケットモンスターソード&シールドのラスボスであるムゲンダイナをボールから出したみたいになってしまった。

停車し、心を落ち着かせていると青い作業着の男は窓をあけろと指示してきた。

なんだろう、「Butter-fly」は和田光司派じゃなくて木村カエラ派だったとかかな。すまない、当方デジモンが好きなんだ。

とにかく窓を開けてみる、木村カエラは私も好きだと言えば争いにはならないだろう。リアタイはできなかったが神奈川ローカルの番組でMCを務めていた頃の木村カエラが一番好きであることに変わりはない。私は敵ではない、味方だと言えばいいだけだ。

「☆♪%×・°:\|?」

しまった。
訛りが強いのか滑舌が悪いのか、よくわからない。
かろうじて聞き取れた単語を繋げると、

「お前さん初めてきたんか」

だと思う、多分。
私は、そうです。と答えた。

「ほーん……」

青い作業着の男はそれきり黙ってしまった。
バックミュージックで和田光司がもう2体目のムゲンダイナを虚しく熱唱している。
どうすればいいんだろうとこっちも黙っていると、男はさらに口を開いた。

「今、工事中でこの道通れないんだわ」

マジっすか、めっちゃ溜めて言うじゃん。
え、あ、そうなんですね。
じゃあ迂回路とかありますか?
と私は尋ねた。

ここまで来たんだ、せっかくならお参りだけでもさせてほしい。

男は考えながら、
「この先に出口あるから、そこから入ればええ」
と言った。

大丈夫だろうか、目線の先に見える入山の道路は明らかに車一台分の幅しかない。
だから、入口と出口で別れているのでは?ともう一人の私が囁く。ただ、陰キャにそこまで聞く余裕なんてない。

ソーナンス、ネッッッ!!!

と、アニメ版ポケモンのロケット団に加入した青いアイツと同じことしか言えなかった。

男は親切で、
「この先1キロくらい走ると、右側に出口がある。そこから入るといい。いいか?結構走るからな(要約)」
と話してくれた。

ありがとうございます!とお礼を言い、私は再度車を走らせた。

道を間違えると行けないのでカーナビで現在地から1キロくらいを計りながら進むとしよう。まぁ、あの口ぶりなら多めに見繕っても1キロから3キロ以内には出口があるはずだ。

そう思い、車を走らせたが3キロをすぎても出口は見つからなかった。見逃したか?最悪の事態を想像してしまう。

どこかでUターンをして、再度出口を探そうと思い、車を走らせ続けた。しかし、困ったことにUターンできそうな場所をことごとく通過してしまった。

このままでは辿り着けないと思いつつ、またしばらく走ったあたりで大きい看板が見えてきた。

鷲子山上神社<出口>

1.....キロ......??

ここで男の発言を見直してみよう。
「この先1キロくらい走ると、右側に出口がある。そこから入るといい。いいか?結構走るからな(要約)」

おわかりいただけただろうか。
真に気をつけるべき言葉を。

「いいか?結構走るからな」

大事なのはこちらだったのだ。
私は愚かにも目先の数字に囚われ、安易に飛びついたのだ。社畜の悲しき習性、数字こそ根拠たり得ると考えるその浅ましさこそ現代人の見直すべき点なのではなかろうか。真に大事なのは、文脈の把握ということを先程の男は教えてくれたのだ。

そんなわけないだろ、1キロ判定ガバガバすぎますわよ!!!!!

キレ散らかしながらも頭はクールに無事山道出口へ到着した。

/6/
山道は予想通り車1台分のスペースしかなかった。
先ほど勇気を出せなかった自分に対しての抗議を頭の中でぶつけながら山道を進んだ。

山道は所々に端に寄れるスペースがあるがまばらだった。運転の技術がなければ対向車が来た瞬間に詰む。

ここからは、祈りしかない。
神社に来たんだ。
祈らなくてどうする。

私は運転しながら、まだ見ぬフクロウ様へ祈る。
対向車が来ませんように、来ませんように。

来た。

しかもワゴン車。
わぁ、でっかい。

素で声が漏れた。
心はすっかりトトロを初めて見たさつきと同じだ。

お互いの睨み合いが続いた。
なぜなら私の直近の端に寄れるスペースは500メートルほど後ろにあったからだ。
あまりにも遠い。
私と対向車の間には寄れるスペースはなかった。

しかし睨み合いが3分ほど続いた為、こちらが折れた。仕方ない、きっとあちらは1キロほど後ろの寄せれるスペースをきっと通過したんだと思い慎重にバックで500メートル程下がった。

この時ばかりは教習所にて最優秀賞をもらい卒業した自分に感謝した。山道で外れたら即死、その細い道路をバックで戻り切ったのだ。

こんなに頑張ったのだ、どれほど感謝してくれるのだろうと思い通過する対向車の運転席を覗くと、

おば様が明らかに舌打ちをしていた。

こんなに表情がわかることあるんだという驚きと、スローモーションで私の視界を釘付けにしたおば様、様々な感情が渦巻いた。
結果、私はちいかわになった。
涙目で、わ、ワァっしか言えない白いクマと成り果てた。

ちいかわは車を先程の睨み合いの現場まで進め、鬼に進化した。

少し後ろに寄れるスペースあるじゃねぇか!!!!!ざけんな!!!F***(自主規制)!!!

神聖な場で言っていい言葉ではなかった。
最初こそそんなハプニングがあったが、他の車は譲り合いの精神をもった健全な人間だった為、鬼から人へと禰󠄀豆子もニッコリ、無事人間へと戻った私は無事に鷲子山上神社駐車場に到着したのだった。

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まず神社に到着し、歩き出した私は巨大なフクロウと鳥居に跪くことになる。階段があり、その先に巨大なフクロウがこちらを見下ろしていた。

カメラを構えているときは羞恥心を捨てようと決心している私は膝をつき撮影をさせていただいた。

森の中にある本神社は神聖という言葉を絵に描いたような神社だった。多くの緑に囲まれたその場所は完全なる山の中にポツンと建っていると言っても過言ではない。

どこから回ればいいのか分からなかった為、まずは目の前の階段を登り鳥居をくぐりフクロウ様を見上げる。

金色のフクロウ様を見ているとそこかしらに解説が載っている。フクロウ様は不苦労ということのようだ。そして願いなどはフクロウ様が運んでくれるらしい。

なにそれエモォ……と厄介オタクの呟きが漏れる。

そこかしらでまた写真を撮り、ホクホクしながら階段を降りようとしたとき、事件は起こった。

/8/

お婆様と介助しているおば様が階段を上がってきた。
私は階段を降りるのは彼女達が登りきってからだなと思い、階段を降りようとする足を止めて後ろに下がった。

位置関係をはっきりさせよう。
この先の話には必要なものだ。
今私の目の前には降りる為の階段が見えている。
そして私の背後、高さが何メートルかは分からないが高い位置にフクロウ様がいらっしゃる。
つまり、位置関係は下り階段、私、フクロウ様となる。

話を戻そう。
お婆様が登り切ると、お婆様は口を開いた。
「清水チエです。」(仮名)

視線は私とフクロウ様の間をご覧になっていた。
ど、どっちに言っているんだ……?
ま、まぁ!フクロウ様だな、そうに決まっている。
1秒の脳内会議で瞬時に回答を導き出した。
陰キャの天才が生まれた瞬間だった。
でも保険のため、一応笑っといた。
引き攣った笑顔を作り始めると、隣にいるおば様も口を開いた。

「母はね、今年90になったんですよ」

どうしたもんかね、これは確実に当方の目を見ている。でも本当にそうか?視線のエイムが合わなかっただけの説はないだろうか。いや、ない。バッチリ目が合っている。
ならば、こちらはへぇお元気ですね。と返すしかあるまい。私という陰キャはまだ社会性までは失っていない、と思っている。ならば勇気を出して応えよう。君たちの言葉に。

私がへ、まで言おうとした瞬間お婆様が視覚に入った。お婆様は先程見ていた私とフクロウ様の間ではなく、明らかにフクロウ様を見ていた。

どうすればいい?脳内会議がすごい速度で行われる。脳内の小人達は短い時間で最速の議論を続けた結果、結論が出ずについに文明的な言葉を捨て、原始的な暴力での解決を図ろうとしている。残された時間は少ない、今この時間も無言の空間が場を支配している。

そして、限界を迎えた私の口から、ある怪物が生まれたのだった。

へぇ!?ア、ィえェと…

場は凍りついた。
マイペースなお婆様、気まずそうなおば様、頭がピヨって言語機能が失われた怪物。
地獄のような空間が期せずに完成した。
お婆様の心はフクロウ様にあり、おば様はこいつ急に何言ってんだという顔だ。
居た堪れなくなった悲しき怪物は脱力し、御朱印をいただく為受付へ歩を進めるのだった。

すれ違う時、悲しそうなものを見る目でおば様の視線が痛かった気がするけど、気のせいだと信じたい。

その後の神社堪能の旅は非常に素晴らしいものだった。
本来御朱印はお参りをした後にいただくことが正しいらしいが、受付時間を過ぎては元も子もないので先に頂いてしまった。

神社の敷地は思ったよりも3倍は広かった。
私が最初に行った駐車場付近より、御朱印受付のさらに先にもお参りする場所があった。
そこにはフクロウ様石像を洗えるスポットがあり、他にも絵馬等があった。
絵馬の近くにはフクロウ様のお陰で宝くじが当たりましたなんて紙も書いてあって、少し俗っぽいなと思いクスっとできるポイントもあった。

本神社はそもそも茨城県と栃木県の境目にある。
境目を中心に分けた階段があり、それを登り切ると立派な千年杉を見ることができる。
太すぎる幹に、見上げると首が痛くなるほどの高さの立派な杉に感嘆の声を思わず漏らしてしまった。

千年杉を通過すると室町時代に作られたとされる大黒様が祀られているスポットを見ることができる。
室町時代レベルの昔になるとなんで現存できてんだと不思議で仕方ない。原材料多分木じゃないの?なんで腐らないんだろう。

その先にはお稲荷様がいらっしゃる祠?があった。
すごく狐感があって格好良かった、耳がピンってしてたし。

そこからさらに下階段を降ると、本当にたくさんのフクロウ様の像に出会える。
人間の願い全て対応してまっせと言わんばかりの多種多様なフクロウ様がいるから是非行ってもらいたい。

え?そんなこと言って対応できない願いもあるだろうって?
甘い、最後にはとうとうなんでも願いを叶えてくれるフクロウ様がいる。
守備範囲が広すぎる、SteamのPCゲーも是非見習ってほしい。
大人の争いはやめて平和に生きたいものだ。

とまぁ、文で表現するには限界がある素晴らしい神社だった。
是非一度足を運んでみてはいかがだろうか。
私は少なくともめちゃめちゃ楽しかった。
あ、そうそう湧水を汲めるスポットもある。
ペットボトルなんて持ってなかったから私は汲めなくて血涙を流したが、みんなは持って行くと幸せになれると思う。

さて、以上で鷲子山上神社のレポートは終わりだ。
大分日が経ってからの執筆だったにも関わらずここまで鮮明に覚えていられるのはそれほど良かったからだろう。
あとは純粋にカメラで撮った動画と写真のおかげだ。
私が読み返して良かったなぁと振り返るが目的の記事のつもりで書いたが、休日小旅行の行き先に迷った方は行ってみてはいかがだろうか。
過酷に対する報酬としては非常に私は良かったと感じられる神社だったよ。
帰るかぁと車に乗った瞬間、雨が降ってきたのでなんかフクロウ様がいい感じに雨を止めていてくれたのかなと思って嬉しい気分で帰りました。


おしまい。

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