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あの時、君は3Dにしていたか?

3DSの3D機能を日常的に使っていた人がいただろうか。これは私の勝手な推測だが、そんな人間は全プレイヤーの1割にも満たなかったのではないか。少なくとも私の周りには日常的に3Dを楽しんでいる友人はいなかったし、もしそんな友人がいたら「物好きだなぁ」と思ってしまう。もちろん私も3D機能を日常的に使うことはなかった。

ここまでの話で「確かに!」となっていない方のために説明すると、ニンテンドー3DSという携帯ゲーム機が私の小学校時代に大流行した。私にとってはもはや「ゲーム」といったら「3DS」であり、暇さえあれば遊んでいた。「3DS」という名前からも分かるように、このゲーム機は上下2画面のうち上画面が3D表示に対応しているという浮世離れした機能を持っている。

上画面の右側に用意されたつまみを上にあげると、それまで2D表示だった上画面が急に3D表示に切り替わり、3D映画のようにゲームを楽しむことができる。しかも驚くのは、映画のような3Dグラスを必要としない点。あのいくら時代が進んでもダサい見た目が変わらない3Dグラスを装着する必要なく、裸眼のままで3D映像を楽しむことができるのだ。まるで社会のことを何もしらない子供が考えた「最強のゲーム機」のようだが、これが2011年に任天堂から発売され、何食わぬ顔で店頭に並んでいたのである。このテクノロジーの爆発具合に何の疑問も持たなかった私を含む当時の子供達はどこかぶっ飛んでいたとしか言い様がない。

そんな変態じみた性能を持つ「3DS」であったが、1つ大きな欠点があった。それは「3D表示にすると見づらい」という本末転倒な欠点である。

そう、3Dは見づらいのだ。見づらいというか、見続けていると目がとんでもなく疲れてしまう。その結果、子供達のほとんどが3D機能を使わずに遊ぶという状態に落ち着いてしまった。親に言われた訳でもなく、自発的にである。なんということであろうか。これではわざわざ「3DS」というダジャレじみた名前にした甲斐もないという話である。3DSの3D機能は、子供達に「眼精疲労」という概念を初めて植え付けた大発明となった。普段、布団に潜ってゲームをするような奴らが「目が疲れる」「こんなん見続けてたら目が悪くなる」と言って避けてしまうなんて、とんでもないことだ。

3DSが発売された当時は3Dブームのまっただ中。「いよいよSF映画の世界が現実に!」という人類の期待を一身に背負ってしまったのが「3D」であり、それは小さな携帯ゲーム機の上画面にも無理矢理ぶち込まれた。

「任天堂がDSの新型機を出す。上画面はまさかの3D!? 名前は3DS」

と朝のニュースで発表された当時は近未来感と「任天堂はとうとうおかしくなった」感が混ざり合った何とも言えない空気を醸し出しており、一緒に登下校していた上級生も

「俺は一旦いいかな」

と小学生とは思えない冷めたコメントを残す始末であった。

結局みんな3DSを手に入れることになるのだが、肝心の3D機能はあまり使わず、特にこれといって3Dの話題を出す人も居なかった。

私も3D機能を使わなかった人間だが、それでもたまに3Dを味わうことがあった。ゲームをプレイしていて、「そういえばこれって3Dになるんだよなぁ……」と思い出すのだ。それで、たまに画面の横のつまみを上げて3Dにし「おぉすごい」と思い、「目が疲れるなぁ」と思ってつまみを下げる。それで終わりである。ゲーム会社はわざわざ3D映像に対応できるようゲームを開発しているのに、実際にその3Dを楽しむのはほんの数秒であった。これではゲーム会社に顔向けできないという話だ。

3D機能は当時の最先端であったが、子供達の間ではいまいち普及しなかった。任天堂もそれを分かったようで、以降のゲーム機には3D機能など搭載していない。あまりに3D機能が使われないものだから、3DSから3D機能を排除した「2DS」というヤケクソじみたゲーム機を発売することもあった。DS特有の二つ折りすら排除したチープなゲーム機で、一周回って欲しいような気もする。

3DSの3D機能がいまいちウケなかった理由として、その見え方の「特殊さ」があったように思える。

3Dといえば誰しもが画面からサメやらミサイルやらが飛び出してくる「まさにこれが3D!」なイメージを思い浮かべるだろうが、3DSの3Dはひと味違う。

3DSは、「飛び出す」のではなく「へこむ」のだ。

手前に飛び出してくるというよりは、画面に奥行きが生まれて立体感が出るのだ。確かにこれも立派な「3D」であり、呑気な子供たちが任天堂へ文句をたれる権利などない。しかし、私を含む当時の子供達は「飛び出す3D」を期待していた。「へこむ3D」を有り難がるのなんて、ある程度老けた人間だけじゃないだろうか。事実、3DSの性能を紹介する当時のコロコロコミックなどでは画面から映像が飛び出す感じのイラストが多用されていた気がするし、3D表示に切り替えて画面がへこみまくったのを見た際は「あっ、そういう感じなんだ……」と思ってしまった。

以上の流れを踏まえるとなんだか3DSが「残念なゲーム機」であるかのような印象を与えてしまいそうだが、そんな事は全くない。3DSは大ヒットし、私の青春の1ページを彩ってくれた最高のゲーム機である。

ただ、どうせなら飛び出して欲しかったというだけである。



  
 
 


読んでくださりありがとうございました。
ささっ、こっちもチェックだねぇ!

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