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初めて見たYouTuber

私は、幼少期からインターネットに触れてきたZ世代である。「デジタルネイティブ」という必殺技のような言い方もあるが、これだとなにか特別な技能を持っている人間だと思われそうで身の丈に合わない。


「きみ、デジタルネイティブなんでしょ? ならプログラミングぐらいできるよね?」


と言われても、残念ながら何も出来ない。日本人全員が寿司を握れるわけではないのと同様、デジタルネイティブ全員がプログラムを組めるわけではないのである。そういった勘違いを未然に防ぐべく、私は「デジタルネイティブ」ではなく「Z世代」という呼び方を使いつづけたい。


さて。このnoteでは、そんなZ世代の端くれである私の幼少期を振り返っていこうと思う。「そんなの読んで何の得になるのか」と言われればそれまでなのだが、「Z世代の若者が幼少期のネットやゲームの体験を思い出として振り返る」という文章は現時点であまり見受けられず、ひょっとしたら歴史的に価値のある資料になるのではという雰囲気もあるので、希望は捨てずにいこうと思う。


さぁ、突貫工事ではあるが、このエッセイの社会的価値は確立できた。あとは自由気ままに振り返っていくだけなので、肩の力が抜ける心地である。読者の方もふくらはぎあたりをボリボリ掻きながら、リラックスして読んでいただきたい。

  


 

Z世代にとって、「YouTuber」の存在は大きい。かつての「ドリフ」と同じように、Z世代の子供時代、「YouTuber」は娯楽の大黒柱であった。YouTuberを「たまにテレビに出てる素人」と蔑んでいる人達が一定数いるが、素人に見えるのはYouTuberの主戦場がYouTubeであるのだから当たり前だ。適材適所があるというだけの話で、例えばドリフターズだってサーカスに出たら素人であろう。……と思ったが、彼らはヒゲダンスで既にサーカスっぽいことをやっていた。前言撤回。ドリフは強すぎていけない。安易に名前を出したことに後悔している。


YouTubeを家のパソコンで見れるようになってからすぐ、YouTuberという存在に出会った。しかし当時は「YouTuber」という呼び方は存在しておらず、まだ呼称を持たない存在がエネルギーをバチバチ鳴らしている感じだった。若くて、面白くて、まさに時代の先駆者といったオーラで、私は動作の遅いパソコンの画面に釘付けになった。結果、目が悪くなった。

初めて見た「YouTuber」の動画は、今でも鮮明に覚えている。確か小学2年生くらいの頃だ。


タイトルは、「メントスコーラな風呂を作って入ってみた!?」

 
いかにもYouTuberらしい動画に出会ったといえる。メントスコーラがまだ「使い古されたネタ」でなく、「世界のビックリ現象」的な威厳を保っていた時代である。


調べてみると、まだ動画は存在した。

 


投稿者は「okailove」さん。ちなみに当時の私は読み方が分からず、「日本人なんだから日本語の名前にすればいいのに」と悪態をつく無礼者だった。「Love」の存在に気づくには若すぎたのだ。この動画の再生数は620万回という驚異的数字である。コメント欄を見ると、「元祖YouTuber」という称号がいたるところで見受けられる。私と同じように、彼らもかつてこの動画に出会い、忘れ、そして思い出し、帰ってきたのだろう。ネット上ではこれを「同志」という寒い言い方で呼ぶ。


この動画はYouTubeの関連動画にポンっと現れ、私は何気なくクリックしたのだと思う。黄ばんだマウスでダブルクリックして、読み込みのクルクルが終わると突然、


「どうも、okailoveです! 今回はですねぇ、炭酸嫌いな俺が、メントスコーラな風呂を作って入ってみた」


衝撃的だった。「頼んだわけでもないのに、どうしてそんなことをするのだろう」と不思議でならなかった。その後okailove氏は、メントスをミキサーにかけ、くす玉に入れる。まだ「メントスコーラ」も知らなかった私は、彼が毒薬を調合するマッドサイエンティストのように見えた。しかし、彼の佇まいを見る限り、どう考えてもマッドサイエンティストではない。黒のTシャツに、生活感溢れる部屋の様子。その辺の道を歩いていそうな、優しそうな兄ちゃんである。Tシャツには「ESTEEM」とプリントされており、さっき調べてみたところ、意味は「尊重」であった。どうしてマッドサイエンティストなことがあろうか。


その辺にいそうな兄ちゃんが、何やら変なことをしている。このテレビとは違ったスリル溢れる面白さは、間違いなく、現在まで衰えることの知らない「YouTuber」の魅力のエッセンスであったのだと思う。


私はこの動画にすっかり魅了され、okailove氏が他に投稿していた動画も見た。「口にわさびを入れたまま無表情でジェットコースターに乗ってみた!?」「人に声をかけてお尻100発をおもいっきり蹴られてみた!」の2本は鮮明に覚えている。

 

 

 
 
まだ見たことがない方は、ぜひ見て欲しい。誰に頼まれた訳でもなく身体を張って苦しんでいる、馬鹿馬鹿しさの頂点である。特にジェットコースターの動画なんて、後半のどこを切りとっても面白い。ブレブレの画面の中で「うわああぁ」と叫ぶokailove氏の口内に、微かにワサビの黄緑色が見えるのだ。とても真似できる芸当ではないし、そもそも真似をしたいとも思えない。


私はこの面白い人を周りに広めたい衝動にかられたが、どう紹介すれば良いか分からなかった。「ネットの面白い人」としか言い様がなく、自分の語彙力の低さを恨んだ。そしてこういう動画の面白さは大抵、言葉では表現できないものなのだ。例え親に「男の人がコーラでお風呂をする動画でね!」と興奮気味に語ったとて、「どうしてそんな勿体ないことするの」と言われておしまいである。私は何も答えることができず、

「確かに、どうしてそんな勿体ないことするのだろう……」

と難題に頭を悩ませるのだ。コーラは飲み物であり、風呂に入れて「良い香りをしててね、居心地、すごい良いです」と言うためのものではないのだ。しかもタイトルにある通りokailove氏は「炭酸嫌い」であり、コーラが好きなわけでもない。彼は本当に何がしたいのだろうか。


言葉で上手く説明できない面白さ。親に伝わらない面白さ。これが、私が初めて出会った「YouTuber」の印象であった。


月日は流れ、世の中には様々なYouTuberが現れて職業として認められるようになった。okailove氏は動画投稿を止め、YouTubeへの最後の投稿は8年も前のことである。ちなみに動画の内容は「家のポストに男性器の形をした飴が届けられていた」というものであった。彼が今も元気に過ごしていることを祈るばかりである。


 


読んでくださりありがとうございました。


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