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受験エッセイ『付箋まみれの日々』 2.「文房具」




「受験生ともなれば、毎日使う文房具にこだわりを持って当然だろう」


高校に入学した当初は、そう思っていた。受験生にとって文房具とは、日々の勉学を支えてくれる相棒。自分の手に合った最高の文房具たちを厳選し、合格を手にするその日まで使い続ける。

そんなロマンを想像していた。

だが、実際はそんなロマンなど無かった。

入学当初こそ文房具にはこだわっていたが、その思いはメッキのようにペリペリと剥がれ、最終的には「使えればどれでもいい」という結論に至った。

きっかけは、高校1年の冬。入学前に選び抜いたこだわりの文房具たちが入った筆箱を、紛失したことである。   

帰り道、自転車で坂を下っている最中に「ガタン」と大きくカゴが揺れた。おそらくこの時、積んでいたバッグから筆箱が放出されたのだと思う。夜だったため、そのはっきりとした姿は確認できておらず、黒い影しか見えなかった。だが、あれは筆箱だったと確信している。だってあの帰り道を境に、私のバッグから筆箱が消えたのだから。

なんと阿呆なことか、私は自転車を降りて影の正体を探ることをしなかった。「ん? なんか落ちたか?」とは思ったのだが、気のせいという事にしてしまった。単純にめんどくさかったからだ。寒いし。

その筆箱は、あれから2年ほど経った今も見つかっていない。
 
あの筆箱には、愛着のある文房具たちと、おまけに部活の研究データが保存されたUSBも入っていた。それを大胆に紛失した。今思えばなかなか重大な過失を冒しているが、当時の私は一周まわって冷静だったと記憶している。

筆箱を失くして以来、「あ、どうせ文房具なんて失くすんだし、こだわっても意味ねぇや」と考えるようになった。

その考えは見事的中し、実際、私はすぐ文房具を失くした。

例えば、定規なんて常に失くしていた。買っては失くし、買っては失くしの繰り返し。

「もはや失くしてこそ定規」

そんな馬鹿げた哲学を感じさえしたが、最近部屋の掃除をしたら3本くらい出てきた。摩訶不思議である。

あと、私は「筆箱を家に忘れる」という失態を犯すこともあった。

文房具を持っていない高校生など、ハサミのない床屋と同じである。お前何のために学校来たんだ、と言われるのは当然。なんとしてでも文房具を確保しなければならない。

解決方法としてまず、友人に借りるという手があるが、一日中借りるのも申し訳ない。それに、せいぜい借りれてもシャープペンだけで、「ボールペンと蛍光ペンも貸してよ」なんて図々しい事は口が裂けても言えない。

その代わりに私がよくとった方法は、「駅のコンビニで買う」である。お金がもったいない気もするが、仕方がない。悪いのは私なのだ。

学校の購買で買うという手もある。実際、初めて筆箱を忘れたときは購買を頼った。しかし、「シャープペンを下さい」と言ってボールペンを渡されて以降、利用することはなくなった。入学したての大越少年に、トラウマが植え付けられた。

駅のコンビニは1種類のペンしか売っておらず、私は筆箱を忘れるたびに同じペンを買った。下の写真がそのペンである。クリップ部分は破壊してしまった。

どこにでもあるような面白味のないペンだが、案外こういうやつが一番書きやすかったりするから、文房具は奥が深い。こだわるのも馬鹿らしくなってくるというものだ。


消しゴムを失くすのは、もはや学校生活の定番と言える。無論、私もよく失くす。

しかし、消しゴムは他の文房具と比べて調達が楽だ。他の誰かが失くした汚い消しゴムが、教室のその辺の棚に放置してあるからである。1ヶ月放置して持ち主が現れないのなら、それはもうクラスの共有財産だ。有難く使わせてもらう。


受験が近づいてくると、文房具に対してふと意識することがある。
 

「そうか。受験当日も、これを使うのか……」


普段は雑に扱ってしまっている文房具でも、こう意識したら運命的なものを感じてしまう。人生最大の大勝負で使う道具。そう思うと、ペンを握る手が少しだけ手が震えたりする。

ただ、怖いのは私が「失くし魔」というしょうもないステータスを有していることである。「受験会場でカバンを開けたら筆箱が無い」なんて事態に出くわす可能性もあるわけで、そうなったら私は赤子のように泣くことしか出来ない。

なので私はあらかじめ、シャーペンと消しゴムのセットを3組購入してリュックの至る所に忍ばせておいた。「失くさないよう気をつける」なんて高度なことが出来る訳がない。ならば、失くした時のスペアを用意するのみ。情けない選択である。

結局、受験会場に筆箱を忘れるなんてトラブルは起こらなかった。私はそこまで滑稽な人間ではないということだ。

受験当日に使った文房具たち

振り返ると、私は文房具を失くしすぎている。いたく反省している。失くし癖は文房具にとどまらず、定期券、メガネ、あらゆるプリント……。

しかし、本当に大事な「受験票」のようなものは無くさないのだから、これはただ私の管理がなっていないというだけだ。こんな人間が一人暮らしで大学生活など送れるのだろうか。不安で仕方がない。
 
この文章を書いている今から、物を大切に扱うようにしよう。まずは、メガネをちゃんとメガネケースにしまうことからだ。  
 

(おまけ)
部屋の掃除をしたら、今まで消費してきたボールペンの束が出てきた。捨てるのが勿体なくてとっておいたのだが、これだから部屋が散らかるのだ。




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