6話:レゲエ接客

 5月28日・イギリスの祝日にあたるBank Holidayの月曜日。その晩、友人を家に招き、日本食をご馳走することになっていた。
「酒と味醂は、きっとスーパーで売ってるから大丈夫。まずは、モップと圧力鍋」
 と、Peckhamで一番大きい日用品店に向う。店内には、中東の菓子やカリブ系の米、調味料がぎゅうぎゅうにに詰め込まれた棚、そして、その反対側には、インテリア雑貨が雑然と並ぶ。異国を通り抜けるトンネルのような空間では、明るいレゲエがかかっていた。大きくなったり小さくなったりと、音量が安定していない。
 と、奥から”レゲエミュージック”と検索したら出てきそうなドレッドヘアのおじさんが、腰からスピーカーをぶら下げ、Hello!と客に話しかけている。裏打ちのリズムを体の一部に身に着ける接客スタイルに、ニヤけが止まらない。幸運なことに目当ての商品は、私の手の届かないところに置いてある。あの”レゲエおじさん”に話し掛けるチャンスがやってきた。
「すみません、あそこにある箱を取ってもらっていいですか」
 予想通りおじさんは、優しい。想像上のルーツレゲエの世界で包まれ、この世界に居たい!と購買意欲を高めてくる。結局”レゲエおじさん”に何度も助けてもらいながら、鍋にモップ、収納ボックスを購入した。
 
 次に、アフリカ系食料品店が並ぶPeckhamで、唯一の中国系スーパーマーケットに入る。
「酒、酒、、酒、、、味醂、、味醂、、、味醂、、、、、」
 文字を一つ一つチェックする私の動きに反して、BGMは、ハッピーハードコアが流れる。さらに、中国系スーパーマーケット特有のスパイスの匂いは、数日前までの生活をフラッシュバックさせ、全く集中できない。
「酒、酒、、酒、、、味醂、、味醂、、、味醂、、、、、はっ!」
 やっと見付けられた馴染みの調味料は、日本のパッケージとは異なり、見慣れない青いラベルをつけた小瓶に入っていた。たった数時間の買い物だったが、家へ帰る頃には、何も考えられないほど疲れてしまい、バスの中から日光浴をする人で溢れるPeckham Rye Parkをぼーっと見つめる。
 家に着くなり、友人に手伝ってもらいながら、焼き豚にそばなど夏の日本食8品作りあげた。しかし、一緒に旅行へも行ったことがあるにも関わらず、ヴェジタリアンの友人がいることを忘れてしまい、心底反省した。
 食事が終わった後は、おしゃべりではなく、ゲームをすることに。始めに、1人が部屋から退出し、その間に他のメンバーで、その人に何をやらせるか決め、その指示を、すべて拍手で誘導して行く。過去に”拍手”だけで、オンラインショッピングをさせた事があるらしい。そんな馬鹿な!と思ったが、いざやって見ると、拍手だけで、どんどん誘導できる。さらに、面白い。英語がわからない私もその時間を心から楽しめる。指示を決めるときは、やはりつーちゃんの力を借りなくては、理解できなかったが、テレビゲームでもなく、そこにいる人全員が楽しめるゲームの存在を知った。そして、そのゲームを選んでくれた友人に心から感謝した。

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