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男と女シリーズ

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〇〇な男と〇〇な女たちの世にも奇妙な物語
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2021年4月の記事一覧

【短編】マスクの女(2200字)

顔の上半分にしかファンデーションを塗らなくなってから、もうかれこれ1年が経つ。前代未聞の疫病が世界中に蔓延し感染防止のため、マスクなしでは外出できなくなったのだ。ファンデーションは減らなくなったが、その代替えとしてわたしの女としての何かが着実に減っているような気もするが、目をつぶっている。耳も塞ぎたいくらいだ。常にマスクをしているせいで、肌は荒れ放題。極度の乾燥状態で粉を吹いているくせに鼻の頭だけは油分が多い。逆に、いきなり明日からマスクがいらない世の中になったら困ってしまう

【短編】キノコを持つ男(2000字)

両手に抱えるほど大きくなったキノコを医者に見せた。 「ほら、こんなに大きくなっちゃったんです」 ヌメヌメとして照り輝くそれは、なめこに似ているが、形はヒラタケのように不規則に広がっている。それでいて頂点の方はマッシュルームのようにぷくりと盛り上がって、それが少し可愛らしかった。 見たところぬめりがかなり強そうだが、触る手に不思議とその感覚はない。大きさほどの重みも感じられなかった。 「あぁ、ずいぶん大きいみたいですね」 「そうなんです。2週間前はポケットに入っていたの

【短編】消耗する男【2900字】

カラカラカラカラカラカラカラカラ……。 ロールが勢いよく回転する音が聞こえる。 不二夫がトイレにこもると、その締めくくりには、決まってこんな音が続く。 カラカラカラカラカラカラカラカラ……。 春子はこの音を聞くたびに、イライラを募らせていた。 1度のトイレで一体何センチのトイレットペーパーを使うつもりなのだ。 不二夫がトイレから出ると、いつも空のロール芯が転がっている気がする。 もう少し、資源や家計のことを考える頭はないのか。いや、ようするにお前は馬鹿なのか。 春子は、