グルテン戦争

家の近くに美味しいパン屋さんを見つけるという、ハートウォーミングなイベントがあって以来、バゲットを買ってきては、パン切り包丁の切れ味に惚れ惚れしている。

そんな私であるが、巷に言うグルテンフリーのことは、何故かヴィーガンみたいな極端なものというイメージを持っていた。しかし、調べてみるとちょっと違うようだった。グルテンとは小麦などに含まれる植物性タンパク質だ。粘りがあって腸壁に張り付き、水にも溶けにくいので人によっては消化に悪く、胃腸の調子が崩れることがあるよ、ということだ。

言われてみれば、私は胃腸があまり強くない。むしろ弱い方で、しばしばトイレに籠るし、胃腸の調子が悪いと、当たり前だけどちょっとしんどい。疲れのコントロールという意味で、胃腸を気遣う食事を取ることもある。これはもしかしてグルテンに一因があるのではないかと疑い始めた。

そこで私は試しにグルテンを抜いてみようと決意しかけたが、たまにはラーメンを貪ったり、週末くらい美味しいバゲットでアフタヌーンティーをしたりしたっていいじゃないかと思ったので、グルテンフリーではなく、グルテンリデュースな生活を目指すことにした。

ひとまず、コスパの観点から毎朝5枚切りの食パンでチーズトーストを焼いていたのをやめて、コスパの観点から納豆ご飯にすることにした。しかし毎日納豆ご飯を食べていると、私って臭うんじゃないかという疑念がだんだん捨てきれなくなってきたので、コスパの観点から卵かけご飯も食べようと思い始めた。

そんな矢先に毎年頼んでいた乾麺が届いた。素麺と蕎麦が一箱ずつ。グルテンである。グルテンリデュースを思い立ったのが注文後だったので仕方がない、こいつらはぼちぼち食べるしかない。

そう諦めていた頃に、以前から妻と言っていた、ラーメンのお取り寄せをしようという話になった。グルテンである。確かに夏になったら頼もうと言っていた。これは約束だし仕方ない、私も食べたいのでお取り寄せした。

週末に素麺を消化していたある日、妻がマクドナルドが食べたいと言い始めた。グルテンである。まだまだ、たまにはジャンキーな気分にもなるお年頃だ。喜んで付き合うことにした。

そんなことをしていたら、義父から高級素麺のお中元が届いた。グルテンである。毎年頼んでいたコスパのいい素麺と比べるととても美味しい、うまうまだ。いくらでも食べられる。

なんだか、そう簡単にグルテンの魔の手は私を逃してくれないようだ。よく考えればそれもそのはずかもしれない。太古の昔、狩猟採集をして伸び伸び暮らしていた人類は、小麦にそそのかされて世話をさせられ、農耕民という奴隷に仕立て上げられ、路傍の雑草だった小麦は世界中に広がり、今や地球で最も栄華を極めている存在かもしれないのだ。小麦に最高の環境を準備することに努めている、我ら奴隷人類がその手を逃れようなど、そう簡単に出来ることではない。私とグルテンとの戦いはこれからも続いていく、かもしれない。

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