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『茨海(ばらうみ)小学校』(宮沢賢治)

すると野原は、だんだん茨が少くなって、あのすずめのかたびらという、一尺ぐらいのけむりのような穂を出す草があるでしょう、あれがたいへん多くなったのです。私はどしどしその上をかけました。そしたらどう云うわけか俄かに私は棒か何かで足をすくわれたらしくどたっと草に倒たおれました。急いで起きあがって見ますと、私の足はその草のくしゃくしゃもつれた穂にからまっているのです。私はにが笑いをしながら起きあがって又走りました。又ばったりと倒れました。おかしいと思ってよく見ましたら、そのすずめのかたびらの穂は、ただくしゃくしゃにもつれているのじゃなくて、ちゃんと両方から門のように結んであるのです。(本文より)

『茨海小学校』を初めて読んだ時、妙な親しみを覚えました。
登場人物ならぬ、物語に登場する植物や動物や言い回しが、聞いたことのあるものが多いのです。
主人公が「さるとりいばら」にひっかかったり、狐の学校へ迷い込んだり、迷い込んだ学校で「午后の授業」(『銀河鉄道の夜』は、第1章が「一、午后の授業」というタイトルなのです)に案内されたり。ところどころ、他の童話で出てきたフレーズが登場していることに気づきます。

賢治の作品をテキストで取り上げるようになって1年くらい経った頃でしょうか。同じように「上方から光が差し込む」という表現が、賢治のいろんな作品で見られることに気づきました。時には雪原に降り注ぐ光、水の中に差し込む光と影、森であるなら木陰であったり、とにかく主人公たちがいる世界の頭上から光が差し込み、それが丁寧に美しい表現で書かれています。

のちに生前書籍を刊行することになった出版社の名前に「光原社」という名前を提案したことも、この「光が降り注ぐ」という表現が賢治の中で重要なものであることを表しているように思えます。『茨海小学校』ではなんと学校の屋根をとっぱらって、主人公も「狐の校長さん」も、会話の折々に白い雲や青く光る空を見上げたりします。それはさぞかし便利で、心地よい空間だろうなぁと思います。

5月の賢治コースnew!は、
『茨海小学校』
をご案内します。
今月から、新しくご案内する作品と、アーカイブから著名な作品とを二つご用意することにしました。(もうひとつは『セロ弾きのゴーシュ』です)
初めて教室にいらしてくださる方には、馴染みのある作品の方がよいかもしれない、と思います。

屋根のない校舎で空を見上げて朗読を。
Onlineにて、ご予約をお待ちしております。

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