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『婦系図』(泉鏡花)

*2022年6月朗読教室テキスト③アドバンスコース
*著者 泉鏡花

素顔に口紅で美しいから、その色に紛うけれども、可愛い音は、唇が鳴るのではない。お蔦は、皓歯(しらは)に酸漿(ほおずき)を含んでいる……

冒頭からほおずきが登場し「あっ」と思い出したのが、学生時代に観た鈴木清順の映画『陽炎座』でした。泉鏡花が原作で、水を張った黒塗りの樽に一面朱色のほおずきが何百個と浮かんできて、目の奥が痒くなるような気持ちの悪さ。この冒頭の一文が一瞬でその映像の記憶を思い出させ、歯で噛んだほおずきの音がどんなだかわからないなりに、ぷちゅっと潰れた実の不味さが内側から沸き起こってきました。

コロコロコロコロ、クウクウコロコロと声がする。唇の鳴るのに連れて。

『婦系図』自体も映画化されていると思うのですが、書かれた言葉を追うごとに映像が浮かんできます。神楽坂という固有の町の雰囲気であったり、泉鏡花の時代との時間の隔たりはあるけれど、これまで自分が目にした映像でもってイメージを補完していって、次々と脳裏に現れます。この感じはどこかで覚えがあるような・・・と考えてみると、昨年末にアドバンスで取り上げた『細雪』(谷崎潤一郎 作)がまさにそうでした。あちらは特に女性達の会話が妙で、関西弁のリズムにつられてスッと小説の世界へ入っていき、『婦系図』はほおずきの朱色や唇で鳴る音の周りに漂う色気のようなものが作品の中へ誘って行きます。明らかな何かを指し示さなくても、哀しさや鮮やかさや「お蔦」の眼差しなどをも想像させるほどです。朗読して初めてイメージされる艶やかさなどもきっと感じられることでしょう。

明治40年に「やまと新聞」に掲載された連載小説を、今回は時間の許す限り朗読してみたいと思います。6月のアドバンスコースは悲恋の美しい物語。作品名の意図するところも考えを巡らせてしまう『婦系図』です。

6月のスケジュール

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#婦系図 #泉鏡花 #陽炎座


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