
『ひのきとひなげし』(宮沢賢治)
「ああ つまらない つまらない。
一度女王(スター)にしてくれたら、
あたし死んでもいいんだけど」
「それはもちろんあたしもそうよ。」
だってスターにならなくたってどうせ明日は死ぬんだわ。」
「あら、いくらスターでなくっても、
あなたの位立派ならもうそれだけで沢山だわ。」
「うそうそ。とてもつまんない。そりゃあたし
いくらかあなたよりあたしの方がいいわねぇ。
わたしもやっぱりそう思ってよ」
(本文より、部分的に抜粋)
今回のお話の主人公は、野に咲くひなげしの花たちです。手元の絵本には朱色の花びらと黒いしべを持つ、小娘たちのように描かれています。各々美しさに自信を持ち(あるいは自信がなく)、上のような会話が繰り広げられます。
そんなひなげしたちの中でも女王(スター)と呼ばれるテクラ様(・・という名前がついているようです)がいらして、というくだりが始めにあって、蛙に化けた悪魔がひなげしたちに近寄り、「いい腕の美容院がいる」と嘘の話を囁かれます。ひなげしたちは沸き立ち、ぜひ自分たちの元にもその美容術の先生が来てくれるよう、蛙に依頼します。もちろん、そんな美容師はいないのですが。
美への要求はいつの時代も変わりなく、宮沢賢治のイメージからは程遠いのですが、登場人物がひなげし達と檜の大木、というところにちょっと微笑ましさを感じます。そして美容術を施そうと施そまいと、実は明日には枯れてしまう「命短し」であることは、物語の冒頭で自分たちが口にしています。
宮沢賢治コースを3年ほど続けて来て、今年はずいぶん風変わりなお話を扱うことが増えました。そしてそれをお腹を抱えて笑ってくださる受講者のみなさん(もちろん私も)がいらして、ますますみんなで宮沢賢治に嵌っていく。そうして、いわゆる「THE 宮沢賢治」をするっと通り抜け、なんだかイーハトーブを訪れているような気分になってきたのは、気のせいでしょうか。
11月のオンライン賢治コースは、「ひのきとひなげし」です。
ひなげしたちの、少し気取った
「あ、一寸(ちょっと)。お待ちくださいませ。
その美容術の先生は どこへでも出張なさいますかしら。」
を一緒に朗読してみませんか?
2023年11月のスケジュール
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