『恋愛の微醺』(林芙美子)
*2021年10月朗読教室テキスト②アドバンス
*著者 林芙美子
深尾(須磨子)さんの詩に、むさぼりて 吸へどもかなし 苦さのみ 舌にのこりて 吸へどもかなし、ばらの花びら、こんなのがある。どんな新しいと云う形式の恋愛でも、吸へどもかなし 苦さのみで、結局、魂の上に跡をとどめるものは苦さのみじゃないだろうか。
自分が纏う衣服に悩んでいます。若くもなく、けれども年を老いすぎてもおらず、宙ぶらりんな今の自分が着るものというのがすごく難しく、特に制限はないはずなのについ「年齢にふさわしいか」という定規を持ち出してきて詰まらない選択をしてしまいます。それでいて「らしさが漂うものがあったほうがいいな」などとさらに難しいハードルを立てては頭を抱えています。林芙美子の随筆『恋愛の微醺』は、そんなことを考えていた頃に出会いました。
教室で恋愛もののテキストを取り上げるときは、うっかり自身の恋愛観や恋愛経験を計られてしまうような気恥ずかしさがあるのですが、『恋愛の微醺』では林芙美子のシニカルな物言いがあり、「老けた女」の視点があって、恋愛の甘さよりも苦さのようなものを追っていくためか、平静でいられる気がします。それでいて若い寡婦の恋心については「可憐」だと言うのも心地よく、ほろ酔いのような語らいが今の自分にはしっくりきます。そしてそれを心地よいと感じている自分は、着るものも、立ち居振る舞いも、ここでいう「微醺」の加減をずっと追い求めている気がします。
昨年あたりから、黒い衣服に併せて色の美しいストールや柄ものを少しづつ添え足しています。それがメインになるのではなく、ほんの少しの色味を添えるだけの小さな冒険です。これが年を重ねていけば堂々と主役になっていくのかもしれませんが、今は危なくない程度に匂わせるだけ、それが自分にはウキウキと楽しいのです。
10月のアドバンスコースは『恋愛の微醺』(林芙美子)です。秋の夜長に個々の微醺について語りあってみませんか。
*底本 『林芙美子随筆集』株式会社岩波書店
2003年2月14日第1刷発行/2003年3月5日第2刷発行
*文中の太字は本文より抜粋
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