『マグノリアの木』(宮沢賢治)
*2022年6月朗読教室テキスト①ビギナーコース
*著者 宮沢賢治
「ほんとうにここは平らですね。」諒安はうしろの方のうつくしい黄金の草の高原を見ながら云いました。その人は笑いました。
「ええ、平らです、けれどもここの平らかさはけわしさに対する平らさです。ほんとうの平らさではありません。」
(『マグノリアの木』本文より一部抜粋)
霧がじめじめと降る中を、主人公の諒安が歩いていきます。足元はぐずぐずと濡れそぼり、元よりゴツゴツとした巌の道なりで歩きづらくもあります。いつになっても夜はこず、ただただ、ひどい刻みのある道をひとり渡っていきます。そうこうするうちに、霧の中から声が聞こえてきます。その声は誰かであり、諒安自身でもあるようです。内なる他者を、他者なる内の存在を感じる一説です。
思い惑う時、人はよく一つの穴に入り込んでしまう傾向があるように思います。そこでは上方向からしか光が届かず、そしてそれは手が届かないことが多いものです。もしその時に、諒安と同じくこのような景色を歩く姿をイメージすることができれば、惑いを穴ととらえず、動的なものへと変えてくれるかもしれません。あらゆる方向への広がりと、時間の流れもそこに加わり、惑いを客観視する自分が現れてくるでしょう。それを「悟り」と称するのは少し大げさなようにも感じますが、「ささやかな悟り」とでも名付けてあげれば、なんだか気持ちが楽になるでしょうか。
6月のビギナーコースは宮沢賢治の『マグノリアの木』です。諒安がたどった険しい巌山と、たどり着いた平坦な道をご一緒して、惑う心の在り方について、別の景色を眺めてみませんか。
6月のスケジュール
#朗読 #朗読教室 #ウツクシキ
#宮沢賢治 #マグノリアの木
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?