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『茶わんの湯』(寺田寅彦)

*2023年1月朗読教室テキスト アドバンスコース
*著者 寺田寅彦

宮城県鳴子温泉に初めて伺った時のこと。季節は真冬で写真のように雪深く、独特の湿り気と乾燥とが混じり合った鳴子の街はとにかく気温が低く、「初めまして」のご挨拶も吐く息の白さに紛れてしまうほどでした。
囲炉裏の火が炊かれた日本家屋に着いてすぐ、さとのわ(現 光種)の鈴木美樹さんが熱いお茶を入れてくださいました。その瞬間に、湯飲み茶わんからもくもくもくもくーっと、ドライアイスみたいな勢いで湯気が立ち上りました。その景色にしばらく呆然とし、いつまでもくるくると揺れている湯気を眺めてしまいました。
2年目も、3年目も、鳴子へ冬に訪れるたび、忘れていた湯気の景色に見入ってしまいます。それをみて美樹さんが「また圭子さんが湯気を眺めてる(笑)」と面白そうに言ってくださるのも恒例となり、茶碗から立ち上る湯気は自分たちだけのささやかな楽しい記憶として持つようになりました。

そして先月、神宮前の「ギャラリー砂扇&TOMOS」さんで開催された『形の記憶 | 足立涼子展』にて朗読をすることになり、その折展示に関連したテキストとして足立さんから提示されたのが『茶碗の湯』という寺田寅彦の随筆でした。寺田寅彦なので内容は物理に関する事柄ではあるものの、物理に明るくない私でも読んでいてその情景が自然と浮かんでくるような、あたたかい文章です。「これがまた見ているとなかなか面白いものです」というなんでもない箇所なのですが、あの「湯気」というものを、私以外にも面白がって見ている人がいるんだなぁ(しかも寺田寅彦が)と、妙な親近感が湧いてしまいました。

1月のアドバンスコース、そして実は対面教室でもこの『茶碗の湯』(寺田寅彦)を読みたいと思います。形を捉えられるような捉えられないような、考えてみれば不思議な形態である「湯気」を、年の初めに言葉で追ってみませんか。

*2023年アドバンスコース スケジュール
*2023年対面教室 お知らせ

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#朗読 #朗読教室 #ウツクシキ

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