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『十力の金剛石』(宮沢賢治)

*2021年8月朗読教室テキスト① ビギナーコース
*著者 宮沢賢治

「ポッシャリ、ポッシャリ、ツイツイ、トン。
 はやしのなかにふる霧きりは、蟻のお手玉、三角帽子の、
 一寸法師のちいさなけまり」
 霧がトントンはね踊おどりました。
「ポッシャリ、ポッシャリ、ツイツイ、トン。
 はやしのなかにふる霧は、
 くぬぎのくろい実、柏の、かたい実のつめたいおちち」

『十力の金剛石』は、これまでに何度も朗読したことがある物語です。一番最初は2015年6月に、森岡書店さんで展示をされる U’U’(小駒眞弓さん。陶磁器でジュエリーや平面作品を作成されています)からの朗読会ご依頼がきっかけでした。Link : 2015.6.20「晶晶」展at森岡書店

朗読会を依頼されるとき、多くは「展示に似合う物語を選んでください」と選書も含めてお願いされることが多いのですが、小駒さんは最初からきっぱりと読む本をご指定くださいました。ご自身が陶磁器という素材を選び、ジュエリーを作るきっかけとなったのが、この『十力の金剛石』という一冊の本であるとのことでした。冒頭は本文からの一部ですが、U’U’さんの石の作品空間に身を置きながら、物語に散りばめられた美しい擬音語や聞き慣れない鉱石の名前など、雨雫のような言葉の音の響きに包まれるのは、賢治の物語の世界にすっぽり入ってしまったかのような無重力の心地がしました。

U’U’さんはその後2年に一度森岡書店で展示を開催され、その度に同じ本で朗読のご依頼を頂きました。同じ本を何度も、というのも他にないことですが、U’U’さんも私もみんなで二つづつ年をとり、家族が増え、取り巻く環境がゆるやかに変化していくのを『十力の金剛石』と並走しながら感じてきました。そして今年、2021年。またこの物語がやってきます。

展示詳細は今後WEBウツクシキにてお知らせいたしますが、8月のビギナーコースでは一足お先にこの『十力の金剛石』を朗読いたします。2015年に作成した台本もお目にかけつつ、言葉の「音」にこだわった時間をお楽しみください。

 朗読教室ウツクシキ  8月のスケジュールはこちら

*底本 『宮沢賢治全集5』株式会社筑摩書房
 1986年3月25日第1刷発行/2014年11月30日 第22刷発行
*文中の太字は本文より抜粋


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