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『山男の四月』(宮沢賢治)

*2023年4月朗読教室テキスト ビギナー
*著者 宮沢賢治

山男は仰向けになって、碧いああおい空をながめました。お日さまは赤と黄金でぶちぶちのやまなしのよう、かれくさのいいにおいがそこらを流れ、すぐうしろの山脈では、雪がこんこんと白い後光をだしているのでした。
(本文より)

『山男の四月』は、賢治の作品の中でも一風変わった物語です。主人公の山男が森から出て来て、上で書いた場面でぼんやり考え事などをしていますと、いつしか七つ森を出て町を歩いています。大きな荷物をしょった訛りのある中国人や漢方薬が出てくるかと思えば、騙されて飲んでしまった不思議な丸薬のせいで体がしゅるしゅると小さくなって紙箱になってしまう。外国人が登場するのというのも珍しければ、丸薬を飲んで変身するという設定も賢治の作品ではどうも見慣れない感じがします。
けれども、この導入の場面、上の記述ではやっぱりいつもの「現実と非現実の境目が曖昧になり、いつしか異世界へ入り込んでしまう」というシーンが見られることになります。結末を言ってしまうとこれらは夢なのですが、そこから先は摩訶不思議に振り切った、大胆な物語です。

童話集『注文の多い料理店』は、当初『童話 山男の四月』が書籍のタイトルで、詩集『春と修羅』と同時の四月刊行の予定でした。冒頭にくるはずだった山男の物語は「どんぐりと山猫」に取って代わり、「四月の枯れ草の中に寝転んだ山男の夢です。烏の北斗七星といっしょに、一つの小さなこゝろの種子を有(も)ちます。」という案内文を添えて、6番目の物語として収集されました。山男が移動したことによって書籍のタイトルが変わり、導入が変わったことは、賢治作品が広く知られるようになる後世に大きく影響したに違いありません。

4月のビギナーコースは『山男の四月』です。
ちょっと訛った中国人の話し方も面白がっていただけたら嬉しいです。

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