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『秋草』(島崎藤村)

【8月のアドバンスコース(オンライン)】

|朗読テキストを考える|

『秋草』(島崎藤村)

過日、わたしはもののはじに、ことしの夏のことを書き添えるつもりで、思わずいろいろなことを書き、親戚から送って貰った桃の葉で僅かに汗疹を凌いだこと、遅くまで戸も閉められない眠りがたい夜の多かったこと、覚えて置こうと思うこともかなり多いと書いて見た。この稀な大暑を忘れないため、流しつづけた熱い汗を縁側の前の秋草にでも寄せて、寝言なりと書きつけようと思う心持をもその時に引き出された。ことしのような年もめずらしい。わたしの住む町のあたりでは秋をも待たないで枯れて行った草も多い。
ー(本文より)ー

2010年、朗読の活動がそれまでより活発になり走り回っていた夏に、とんでもない暑さがやってきたことを覚えています。いわゆる「猛暑」が始まったのはこの年からなのではと、自分の中で刻まれてもいます。2010という区切りよさと、その夏の濃い出来事と、夏の終わりに「秋がこんなに待ち遠しいかったことはかつてない」と皆で話し合ったことなどを印象的に記憶しています。
そうして十数年が過ぎた今、あの夏は特別なものだったのではなく、始まりだったのだと気づきます。島崎藤村の随筆『秋草』では、その大暑を差して「ことしのような年もめずらしい」とあり、2010年にその暑さを「稀なもの」として捉えていた自分のことをふと思い出します。

島崎藤村は明治学院の一期生で、遠い先輩でもあります。『秋草』で描かれた草花への細やかな視点は、一念発起して庭仕事を始めた今年の自分とも重なり、親しみを覚えます。『夜明け前』を執筆中の1933年の稿なので、藤村60歳のころ、文中にもある通り9月12日の筆だそうです。


|8月のアドバンスコース|
 
 8月10日(水)20:00〜21:30 (夜) 
 8月19日(金)20:00〜21:30 (夜) 
 8月20日(土)20:00〜21:30 (夜) 

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