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『雪渡り』(宮沢賢治)

*2021年12月朗読教室テキスト①ビギナー/③番外編
*著者 宮沢賢治

雪がすっかり凍って大理石よりも堅くなり、空も冷たい滑らかな青い石の板で出来ているらしいのです。
「堅雪かんこ、しみ雪しんこ。」
 お日様がまっ白に燃えて百合の匂いを撒きちらし又雪をぎらぎら照らしました。

『雪渡り』はこれまで何度か朗読したことのある物語ですが、2017年3月に宮城県鳴子で行った小さな朗読会の場面が印象深く残っています。3月といえど道路の脇は雪の壁ができ、日が差したと思ったらすぐに吹雪いてきて窓の外は真っ白に、「雪がすっかり凍って大理石よりも堅くなり」、普段は盛り上がったり窪んだりしているであろう地平が雪で真っ平らになっていました。日頃は目にしない雪景色に圧倒される中、さとのわの鈴木美樹(光種)さんにお招きいただき、囲炉裏を囲んで、火がパチパチとはぜる音があちこちに飛び回る朗読した『雪渡り』は、まるで本の中にみんなで入り込んだようでもありました。

本の中に入ると言っても、それはちょっとやそっとのことでは感じることのできない感覚です。雪景色だけでなく、都会よりも湿り気のある冷たさと熱いお茶からもくもくと立ち上る真っ白な湯気とがあたりを満たして、そうして「堅雪かんこ、しみ雪しんこ」という自分の声がその湯気の中に溶けていきました。雪渡りとは、普段凹凸のある地平を雪が水平にならすことを意味するのだそうですが、雪を含んだ空気が、「雪渡り」というタイトルの通り現実と物語の境界を平らにならして、容易に行き来できるようにしているとも思えるのでした。
 
物語がその声と言葉によって、聴く人を別の場所へ連れて行くことは朗読の目的とするところと言えるかも知れません。都会で朗読を行うときは古い建物や路地の力などを借りることが多いのですが、雪と湯気とが溢れる鳴子では境界線が容易に曖昧になっていて、気が付いた時にはもうその中にいたことに驚かずにいられませんでした。

12月のビギナー・番外編は、『雪渡り』を朗読します。
年の瀬が近づき慌ただしくなってきたこの時期に、雪の世界で四郎とかんこが狐の幻燈会へ誘われていったように、現実世界からちょっと足をはみ出して白い世界へ行ってみませんか?堅雪かんこ、しみ雪しんこ、透明な氷柱もキシリキシリと鳴る足音も、冬を感じるのには申し分ない音となるでしょう。

12月のスケジュール

*文中の太字は本文より抜粋

#雪渡り #宮沢賢治  
#朗読 #朗読教室

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