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お弁当の日

息子が通う保育園には、月に一度、お弁当の日がある。
毎月第三火曜日。給食室の職員さんたちが次月の献立を考える日なのだという。

この4月に保育園を転園した息子にとっては、今日が2回目。しかし、この2回だけでもまあいろんなことがあった。もちろん親の側に。

初めてのお弁当の日。夫は前日から泊まり込みの仕事で、朝の準備から出発まで全て1人でやり切らなければならない。いつもならプレッシャーを感じるところだが、その日はたまたま私が二つの病院をはしごして通院する予定で、午前中は仕事を休むことになっていた。病院の診察時刻は出勤時間よりは遅い。よし、一度子どもを送ってから家に戻って少し家事をして病院に行こう。

予想通りそんな作戦がうまくいくはずもなく、しかも外は大雨が降っていて、親子共に髪と服をしっとりさせながらなんとか保育園にたどり着いた。周りのお友達のお弁当は皆、それ専用の保冷バックに入っていて、撥水加工された巾着に入れただけの息子のお弁当はどこか遠慮がちに棚の上に座っているように見えた。そして、何か足りない。

周りのお友達のお弁当の横には、もれなく色とりどりの動物やキャラクターが描かれた水筒が置かれていて、遠足に行くかのようなわくわくとした空気を放っていた。そうか、今日は水筒が要ったらしい。どこかでお知らせされていたのかもしれないけれど、見覚えはない。でも多分書いてあったのだろう。いやそんなことを考えている暇はない。なぜならたった今、10時から開店するベビー用品店に行って息子の水筒を購入して箱から取り出してやたら丁寧に包んでくれているビニール袋を破って水筒として使える状態に組み立ててお茶を入れて名前シールを貼ってお弁当の時間に間に合うように届ける、というミッションが私に追加されたからだ。購入するところから始まるのがなんとも私らしい。これまでは、いつか息子の水筒を買わねばと思いながら、毎度大人の水筒のお茶をコップに入れて飲ませていた。なぜこういうツケは大体いつだって突然に回ってくるのだろう。先生、水筒いりますよね……「あ、いいですよ保育園で飲ませるので。次回からお願いしますね。」の言葉が返ってくるのを期待したのは0.5秒ほどで、「あ、はい。持ってこれますか?」と即座に答えた先生にはなんの悪気もない。私は保育園から病院①に向かう車の中で(もはやその間に一度家に帰ろうなんて考えていたのは遥か昔のことである)、病院②の診察までにやること、いるものを忙しなく頭に思い浮かべ、ミッションの成功をシミュレーションするしかなかった。

結局、病院①受診後家に戻り、名前シールとネームペンとペットボトルに入れた麦茶を持って、あってよかったうさぎのベビー用品店に足を運んだ。滞在時間2分ほどで息子が好きな新幹線柄の水筒をお金に糸目もつけず購入し、車の中で開封してお茶を入れて名前シールを貼って保育園に向かった。病院②の診察時間には10分ほど遅れてしまったけれど、概ね成功したはずだ。
私からみると水筒本体の製造費よりモチーフへの著作権料の方が高いんじゃないかというようなゴテゴテの新幹線柄の水筒を、今息子はいたく気に入ってお出かけのお供にしている。家でお茶を飲みたい時、水筒に入れてくれと要求するほどだ。まぁ、結果往来としよう。

そして昨日。2回目のお弁当の日。ベタベタにベタだが、その日の存在を忘れていた。実に、朝ごはんを食べながら夫が息子に「今日はお弁当の日だね〜」と話しかけるまでずっと。ようやく全てを思い出した時はすごく焦ったけれど、よくよく考えると
•息子が好きな炒り豆腐をたまたま昨日仕込んでおいた
•先週末の買い物でいちごを買っておいた
•誰が食べると決めず、自分の弁当を作るついでにゆで卵を用意しておいた

我ながら何というお膳立てなのだろう。私の心の知らないところで、どうやら今日がお弁当だとインプットされていたらしい。それくらいスムーズにお弁当作りを終えた。

キャラ弁をつくったり、かわいく野菜を飾り切りしたり、そんな余裕があればいいなと思うけれど、残念ながら叶うはずはなく、というか私がキャラ弁等々と縁遠い幼少期だったので、恐らく叶える気もない。それでも帰宅後、「おいしかった〜」の言葉を発しながらお弁当を出してくれるのはとても嬉しい。

そういえば、今日は少しタンパク質が多かったな。前回はおにぎりが多いと言われたな。慣れない幼児のお弁当作りは意外と奥が深い。でも、楽しい。昔々の私は運動会の日やその予備日に食べる母のお弁当が大好きだった。息子にとってのお弁当はどんな思い出になるだろう。そして、来月はどんなお弁当の日を迎えるのだろう。私も息子も好きなスナップエンドウはまだ手に入るだろうか。鮭を焼いて入れたら喜びそうだけれど、二口くらいで食べてしまいそうだな。よし、まずは来月のカレンダーにお弁当の日を記しておこう。

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