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好きがてんこ盛り

梅雨の合間の真夏日だった土曜日、子どもを夫に預けてイベントに参加してきた。
まちなかから車で20分少々の、田畑が広がる静かな里山にある古民家で、梅仕事に勤しむというイベント。開催される場所といい、内容といい、案内を見た瞬間に素敵だなぁと一目惚れして申し込みし、楽しみにしていた。

イベント会場となった古民家に行くのは、今回が2回目。初めて行ったのは昨年の夏、小さな夏祭りが開催されるということで息子を連れて参加した。当時は息子の場所見知りが今よりだいぶ激しくて、知らない場所で知らないお兄ちゃんお姉ちゃんがたくさんいるのに気圧されたのか、まったく自分で動かずに抱っこ100%、どんな体験コーナーにも惹かれず、早々に帰りたいとぐずられたのだった。でも広い空と眩しい緑、森がすぐ近くにあってセミの大合唱が響くその場所を私は気に入って、また来たいなぁと密かに思っていた。今回は一人で羽を伸ばそう。

産直で仕入れた梅と瓶、塩、氷砂糖などなどそれなりに大荷物を抱えて入った古民家は、早くも夏の日差しが照り付ける外とは異なり少しひんやりとしている。すでに参加者のお子さんたちが元気に走り回っていて、子連れの方も多いようだ。薄暗い静かな玄関と広々とした畳の部屋、時が止まったような古民家の空気を肌で感じると、あぁいいなぁとそれだけでわくわくした。

梅仕事そのものは、結婚前から見様見真似でなんとなく毎年行っているけれど(そして妊娠前に漬けた梅酒が飲まれずに数年間寝かされている)、主催者のおばちゃんたちから作業のポイントやその謂れを聞きながらじっくりと梅と向き合うと、なんだか梅がすごくかわいく思えた。梅を洗った時、新鮮な梅たちが表面に小さな泡をつけながらキラキラと水をはじいていて、とても綺麗だった。

他の参加者やその子どもたちと一緒になってわいわい言いながら作業すると、楽しい度合いもぐんと上がる。皆のエネルギーみたいなものがたくさん入る気がして、作っている最中から「絶対これ美味しくなるだろうな。」と確信した。特に梅干しは去年何も知らずになんとなーく漬けたら案の定梅酢がうまく上がらずあちこちにカビが発生し、できたのかできなかったのかよくわからない仕上がりだったから、ちゃんと容器を消毒して、梅を洗って、お酒にくぐらせて殺菌して、塩をよくもみ込んで、しっかり密閉して、きっといい仕上がりだろう。
梅シロップには黒糖、はちみつなどを入れている方もいて、どの瓶もそれぞれに愛がたくさん詰まっていた。願わくば飲み比べしてみたいところである。

梅仕事を終えて、皆で素朴なランチを囲んだ。梅入りの炊き込みご飯と、冷やした出汁でさっぱりといただく梅入りそうめん。どちらも心がほっとほどけるような優しい味だった。子どもたちは途中で飽きたのか外で生き物探しなどを楽しんでいたけれど、息子がいたらきっとがっついて食器を離さなかっただろう。大人と同じ量を「ぜんぶたべたーいー!」と言う声が聞こえるようだった。そして参加者の方から5年ものの梅干しを差し入れしてもらった。周りについている数ミリ四方の美しい直方体は、梅の結晶だという。梅干しはねっとりと深い旨みが詰まっていて思わず目を見開いた。すごい。時間だけでなく、作り手の思いそのものが作り出したものをいただいた気がした。

こういう場所のこういうイベントに集まる人たちなので趣向も似ていて、子どもたちも自然の中でのびのび遊ばせたいよね、とか、こういう昔から伝わっている季節の手仕事を味わう生活いいよね、子供達にも受け継いでいきたいよね、とか、そういった話を心置きなくできたことも嬉しかった。
息子を連れてきたら、作業前の梅を食べたり、すぐ飽きて帰りたいコールを出したりするかもしれないけれど、皆さんと話していて、やっぱり来年は一緒に参加したいなと思った。

涼しいけれど暖かくて懐かしい古民家で、ゆったりじっくりと五感を研ぎ澄ませながら過ごした時間はとても幸せだった。満たされた気持ちで帰宅し、お留守番してくれた夫と息子に梅の瓶を見せると、息子は早速梅シロップの中身を美味しそうだと認識したらしく、みかんたべたーいーと言った。これは梅だよ。

食べ物に目敏いところは誰に似たんだか、息子はそれ以来台所に置かれている梅の瓶を、しゃがんでじっと見つめながらはやくたべたーいーとつぶやく(たまに開けようとする)。これ、一緒に作ったら待ち切れるだろうか。もっと暑くなったら食べようね、と毎日宥めることが容易に想像できる。

この夏の楽しみが増えた。私の愛に息子の愛も加わって、今日もきっと梅たちはおいしくおいしくなっていく。



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