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有意義な〈座談会〉を企画するために必要なこと【『pluː vol.01』刊行記念リレー企画】

東大純愛同好会は、同人誌『pluː vol.01』の刊行を記念して、サークルメンバーによるブログリレーの企画を行っています。
本記事は、その1本目になります。
執筆者は、仲崎早凪(同人誌の担当箇所:制作協力、座談会の企画)です。


今回は、前掲の同人誌に収録されている

  • 《純愛》について語り合う「純愛バトル」

  • 美少女ゲーム『沙耶の唄』の座談会

  • 美少女ゲーム『車輪の国、向日葵の少女』の座談会

を実例として取り上げつつ、座談会という形式の企画を有意義な形で実現するためにどういう工夫が必要か、というノウハウを共有します。

主な対象読者は、これから座談会を企画しようと思っている評論系サークルの方や、座談会の記録を編集して文章的なコンテンツに昇華させたいと考えている方です。

〈座談会〉とは何か

座談会は、複数人が集まって何らかのテーマについて話し合うイベントです。そのテーマへの理解を深めたり、意見交換をしたりするのが目的です。

いろいろな形態がありますが、テーマの系統によって3つに大別できます。

  1. 思想・概念(=無形のテーマ)
    ある程度認知されていたり議論の対象になっていたりする普遍的な問題領域について語り合う。
     例:「セカイ系」、「百合」、「ジェンダー」

  2. 作家・作品(=有形のテーマ)
    対象の作家や作品を決めておき、作風や描写について語り合う。
     例:「手塚治虫」、「ジブリ作品」、『鬼滅の刃』

  3. 交流そのもの
    何らかの接点がある複数人が、関係性をより深めるために語り合う。
     例:企業の採用活動における座談会、サークルのオリエンテーション

座談会の準備

ここからは、東大純愛同好会が企画した実例をもとに、座談会の実施~文字起こし~編集までの一連の流れを解説していきます。

準備①:テーマを決める

とにかく、まずは「テーマ」を決めます。

東大純愛同好会の場合は、サークル自体に《純愛》という一大テーマがあり、座談会をやるにあたって「何らかの作品を足掛かりにして《純愛》への理解を深める」という大義がありました。

この場合、《純愛》そのものを座談会のテーマにしても良いのですが(→「思想・概念」のテーマ)、以前そのような形式でやったところ、かなり難航しました(※この時の様子は、弊サークル新刊『pluː vol.01』の序文に記述されています)。

どういうことかというと、《純愛》という概念があまりにも広範で、主観に依存する部分が多いのです。また、《純愛》について自然科学的なコンセンサスが得られている学説や統計もありません。結果的に、「自分が考えた最強の純愛観」のようなものを順番にプレゼンする流れになりやすく、しかもそれに対して建設的な意見交換がやりづらい、という状況に陥りました。

反省を踏まえて、「純愛ゲー」として評判が高い美少女ゲーム『沙耶の唄』を対象とした座談会を行いました(→「作家・作品」のテーマ)。うまく行ったので、同じく美少女ゲームの『車輪の国、向日葵の少女』を選び、それが実質的に3度目の座談会となります。

準備②:切り口を決める

テーマが決まったら、次に「切り口」を決めます。

注意するべきなのは、「テーマ」と「切り口」は別々の概念だということです。


▼『沙耶の唄』座談会の時は

  • テーマ:『沙耶の唄』

  • 切り口:世間でこの作品が『純愛ゲー』と言われている根拠はどういう要素なのか、それについて思うところはあるか

▼『車輪の国、向日葵の少女』座談会の時は

  • テーマ:『車輪の国、向日葵の少女』

  • 切り口:主人公と姉の関係性が家族愛に近い純愛なのではないか


なんとなく伝わったでしょうか?

「切り口」があいまいだと、大体次のような流れが起こります。

司会「えぇ……それでは皆さん…………何か意見がある人はいますか?」
(意見ありますかと言われて意見を言える人はまずいない)司会「では……まずは作品を見た感想から、1人ずつ共有お願いします」
(参加者がそれぞれバラバラな部分に注目した感想を言ってゆく)司会「感想ありがとうございました。えーと……ここからどういう風に進めましょうかね?」
(「さっきの感想に対する意見があるんですけど」と言う人が出てくる)全員「なるほど~そういう視点もあるんですね~」全員「…………」
(次の話題に進まなくなり、気まずい沈黙)

話が止まってしまうとおしまいです。盛り上がらないと、1つのテーマに対して多様な視点からバンバン意見が飛び交う理想の座談会にはならないのです。

特に、身内で座談会を行うと「まぁ、相手の価値観はなんとなく知ってるしどうにかなるだろう」という甘い考えで見切り発車をしがちなので気をつけてください。

最後に注意点として、切り口は「縛り」ではありませんので、当初想定していた切り口から逸脱する形で話が発展したとしても、無理に止める必要はありません。むしろ、流れに身を任せる方が良いです(もちろん、会の進行の妨げにならない範囲で)。

準備③:司会を決める

テーマと切り口が定まったら、そこから発展してゆくトークをハンドリングできそうな人物像が見えてくると思います。その人に司会を任せます。

例えば、オタク的な側面が強いテーマであれば、オタクの中でも特にコミュニケーション力が高くて、「好きなもの」と「嫌いなもの」どちらについても一歩引いて対話ができる人を選ぶのが無難です。

例えば、マイノリティに関わるセンシティブなテーマであれば、当事者との交流がある人や、教育・研究・仕事などでそのテーマに触れた経験が多い人を選ぶのが無難です。

これ以降の調整は、基本的に司会の人がやるのをおすすめします。

準備④:参加者を決める

既に長くなってしまいましたが…………ここが正念場で、一番のポイントです。

実は、座談会のクオリティを決めるのは「テーマ」でも「切り口」でもなく、「人」です。(人が集まって対話する会なので当然ではあるのですが……。)

第一に、「この人にこのテーマについて語ってほしい!」と思える人を名指しで招待するようにしましょう。重要な役割を果たすことが予想できる人物なら、その人のために日程の融通を利かせるなどの対応を行います。

ただ、現実的には名指しだけで完結するケースは少なく、概ね次の2パターンのうちどちらかになると思います。

  • 「〇〇の座談会をやります! 参加者募集!」という風に、参加者がある程度広く募集されている(あるいは、既に何人か集まっている)

  • 「〇〇の座談会やろうかなぁ……どう思う?」という風に、企画の種から始まっている(あるいは、「参加者どうしようか?」と宙ぶらりんになっている)

まず、前者のように、既に何人か決まっている場合。これは、もはやどうにもならないので、そのまま募集を続けて、当日は参加者のコミュニケーション力に期待するしかありません。

後者のように、宙ぶらりんになっている場合は、企画の発案者が(司会の人と連携しつつ)座組みの主導権を握りましょう。険悪な相手が同席しないようにするなど、人間関係の基本的な調整は当然必要ですが、それ以外にも座談会に特有のポイントがいくつかあります。

例えば、

  • 自分の嫌いな作品について普段から強めの思想をSNSに書いてる人
    →他の参加者の中にそういう態度を「地雷」と感じる人がいることを踏まえて、司会が制止する

  • 男友達のノリで露骨なギャグを言うクセがある人
    →女性参加者が不快に感じていないか司会が常に気を配る

  • 流れに乗ると喋るのが止まらなくなる人
    →「つまり、〇〇さんが言いたいのはこういうことですか?」と要約して、整理してあげる(これは喋ってる本人にとっても自然な流れで話題を続けやすくなるため「助かった」と感じることが多いようです)

(※ここで示したのは「オタクコミュニティによくありそうな例」であり、弊サークルのメンバーとは一切関係ありません。)

以上のような調整が難しそうだと感じるようであれば、参加予定の本人に相談したりして解決しておきます。座組みの時点でわだかまりを残してしまうと、当日になってから萎縮して発言ができなくなってしまう人が出てくるので、必ず事前に対応しておきましょう。

準備⑤:資料の読破に必要な規模感を把握する

例えばテーマが何らかのゲーム作品なら、「1プレイ3ルートで計30時間」などのプレイ体験記がネットで見つかるので、それを踏まえて「何日で準備できますか?」という質問を全員にします。

紙の資料についても同様です。

準備⑥:開催日時を決める

資料の規模感をもとに、開催日時を決めます。これは飲み会やオフ会の調整と同じです。

資料の読破については、人によっては連絡しないと放置する人もいるので、手遅れになる前に「どこまで読みましたか?」と聞いてあげるのが望ましいです(そういうタイプの人は、往々にして自分が怠惰であることを自覚しているので、定期的に進捗を確認するとむしろ喜ばれることがあります)。

準備⑦:司会以外の役職を決める

座談会には、司会の他に重要な役職がいくつかあります。

  • レジュメ担当(仕事発生:前日まで)

  • 録画&録音担当(仕事発生:当日)

  • 文字起こし担当(仕事発生:後日)

  • 編集担当(仕事発生:後日)

  • 校正担当(仕事発生:後日)

人によっては、当日までに資料を読むので精一杯だとか、技術的な知識がないなどの理由で担当できない役職があります。根気よく協力者を探しましょう。

準備⑧:レジュメを作る

レジュメは「切り口」が見えなくなってしまった時や、議題が一旦収束した時に流れを作り直す役割を果たします。箇条書きがベースの簡素な体裁で大丈夫ですが、完全にレジュメ無しにしてしまうと大変だと思います。

内容は、一般的な読書会や勉強会などで期待されているものと大体同じです。資料の要約を作り、論点になりそうな箇所をリストアップしておきます。また、当日の進行に不安があればざっくりとしたタイムテーブルを作るのもおすすめです。(「〇〇についての議論 20分」とか。)

レジュメ担当の人は、他の参加者よりも早い段階で資料を読み終えておきます(そうしないとレジュメを作る時間が足りなくなります)。

座談会当日

準備の段階でほぼやることが終わっているので、あとは場の流れに任せるだけです。注意するべきは一部の役職です。

▼司会
会の進行を取り仕切り、必要に応じてコミュニケーションを調整しましょう。

▼録画&録音担当
一番最初に忘れずにやります。これを失敗すると記事にできませんので気をつけましょう。

編集作業

▼文字起こし担当
録画データをもらってひたすらキーボードを打ちます。最近はAIを利用した自動文字起こしアプリがあるので必要であれば利用しましょう。文字起こしの段階では、原則として会話内容に手を入れず、「ありのまま」に近い状態で文字を起こすのがコツです(なぜなら、ここで頭を使ってしまうと原稿が一向に上がらないからです)。

▼編集担当
完了した文字起こし原稿を貰って、記事としての体裁を整えます。この段階で、必要であれば会話の順序を大幅に入れ替えたうえで章立てを行います。結果的に、ほとんどの分量をこのフェーズで削減することになります。

▼校正担当
編集が終わった原稿を校正し、推敲します。この段階で、口語特有の冗長な表現(語尾、口グセ、言い直しなど)をすべて取り去ります。また、誰かの長すぎる発言が残っている場合は、本人の同意を取った上で要約します。更に、テンポが悪い箇所には「なるほど」や「ふむふむ。〇〇さんはどう思いますか?」のように思想的な意味の無いキャッチボール的な文章を挿入します。色々いじりすぎて会話がよく分からなくなってしまった場合は、録画データを確認したうえで文面を直します。

※加工するのを良しとせず、口語調に近い文体を残す編集方針もあると思います。

おわり

ここまでうまく行っていれば、最終的に仕上がった記事としても面白く、なおかつ参加者の記憶としても良い体験だったなと思える座談会が開催できているはずです。

是非、色々な人と色々なテーマの座談会にチャレンジしてみてください。

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