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索引デザインの裏話【『pluː vol.01』刊行記念リレー企画】

東大純愛同好会は、同人誌『pluː vol.01』の刊行を記念して、サークルメンバーによるブログリレーの企画を行っています。
本記事は、その7本目になります。
執筆者は、仲崎早凪(同人誌の担当箇所:制作協力、座談会の企画)です。


弊サークル・東大純愛同好会は、来たるコミックマーケット101で新刊『pluː vol.01』を頒布します。

今回は、ブログリレー企画の一環で、私(仲崎早凪)がデザイン担当としての裏話を書きたいと思います。

私は今まで小説や漫画などはデザインしたことがあったのですが、雑誌(合同誌)のような複雑な形式は初体験だったので、InDesignのチャレンジとして楽しかったですし、読み応えのある本が作れたと感じています。

本に〈索引〉を入れたい

今回の我々の新刊では、論説が多数収録されるということだったので、巻末に索引を入れようという話になりました。

まず、本の企画趣旨にあわせて索引のコンセプトを考えます。本のジャンルにもよりますが、基本的に世の中の本の索引は、〈事項索引〉だけ、または〈事項索引〉と〈人名・作品名索引〉の2つに分けられています。それに加えて、たとえば地理学の書籍で地名が多い場合は〈地名索引〉だけ別途作る、というような判断をします。

制作手順としては、最初に共有のスプレッドシートを作り、そこに部員同士で協力して良さげなキーワードを挙げていきます。この段階で、簡単なカテゴリ分けをして、本文中の出現ページの一覧をざっくりまとめておきます。

カテゴリ分けは、前述した〈事項索引〉〈人名・作品名索引〉などのコンセプトに応じて分類します。そして、〈事項索引〉に相当する単語については、より細分化された分類をしておくと、カテゴリごとの採用単語の数を見てバランス調整ができるので便利です。


InDesignに詳しい方は、「専用の索引機能があるのになんでスプレッドシートを作るんだ、二度手間になって無駄じゃないか」と思うかもしれません。実際、今回の我々の新刊でもInDesignの索引機能はちゃんと使っています。ではなぜわざわざリストを作っておくかというと、InDesignの索引機能は操作性が極めて悪く、InDesign上での大幅な編集操作は地獄だからです。

第一に、索引は1人で作るよりも大人数で単語を提案した方が色々な視点を取り入れやすく、読者目線で使いやすいものになります。ただ、採用基準がバラバラになりすぎると本末転倒なので、最終的には「索引担当」の人が編集責任を負います。この時、索引担当の人は、単語だけ見て採用可否を判断するのは難しいため、「出現ページ」が判断材料として必要です。もしもその最終判断をInDesignの索引機能を使う段階で行うとなると、索引担当の人が1人で出現ページを調査することになるので、大変な作業になります。このあたりの事情を踏まえると、スプレッドシートの段階で大人数で協力して出現ページをまとめておいた方が圧倒的に楽になります。


まとめが終わったら、InDesignの索引機能を使って索引項目を設定していきます。(https://helpx.adobe.com/jp/indesign/using/creating-index.html

オススメのやり方としては、まずはInDesignの【すべて追加】の機能を使い、全文中の出現位置を一括で登録してしまいます。そうすると、話の都合上で出てきただけの一般名詞など、索引として無価値な用例が多く登録された状態になるはずです。そこから、1つ1つ目で確認して、不要なページ参照をどんどん削っていきます。

なぜ、スプレッドシート段階でわざわざ出現ページをリストアップしたのに、ここでもまた洗い直すのかというと…………大人数で作業する場合、人によって「無価値な用例かどうか」の判断基準が違い、そのままではちぐはぐなリストになってしまっている可能性があるからです。なので、ここでも索引担当の人が編集責任を負い、自分の価値観でしっかり確認していきます。

登録単語を増やしていくのと並行して、その単語の表記ゆれに相当する単語についても、1つの索引項目にまとまるように登録を重ねていきます。(正規表現を理解していると検索機能で表記ゆれを簡単に洗い出せるので便利です)

また、「⇒〇〇を参照」のような別の単語への誘導項目を作りたい場合は、InDesignの機能にそういうのがあるのでヘルプを見つつ進めていきます。

すべての単語の処理が終わったら、連続したページを1つのページ参照にまとめる作業を行います。

▼例
まとめる前:20, 41, 42, 43, 44, 46
まとめた後:20, 41-43, 44, 46

ここで、安直に数字だけ見てまとめてしまうと不自然な索引になるので注意が必要です。同じセクションかつページが連続する場合だけまとめるのが自然だと思います。この例のケースでは、43ページと44ページが別々の記事です。また、仮に出現ページが1~2ページくらい飛んでいたとしても、該当記事のテーマがずっとそのキーワードに関連しているなら、ページ参照を分割せずまとめた方が索引としてはむしろ扱いやすくなることもあるかもしれません。


索引作りは、基本的にはものすごく骨が折れる地道な作業です。大変ですが、そのぶん達成感はあります。

論説だけでなく「小説」にも索引を入れる試み

最後に少し、書籍における〈索引〉とは何なのかおさらいしておきます。

一般的な本では、索引というのは通常「論説」「教科書的な解説文」を対象として組まれるものです。ただ、本書では論説だけでなく「小説」にも索引が充てられています。事情を知らずに索引を引いた方は驚かれるかもしれませんが、これは意図的にそうしています。

具体例を挙げると、たとえば〈家族愛〉というキーワードがあります。

一般的な本で索引から〈家族愛〉を引く時、期待するのは「家族愛とは愛の形態の中でもこういう性質があって~」という、説明的な論説文でしょう。しかし、今回の本では「小説」の中に次のような描写があります。

「結局それはボクがボクのために他人への愛を利用してボクへの愛を隠してるだけ。そこで気づいたんだよ。なにもかもは自己愛でしかないって。恋愛だって友愛だって親愛だって家族愛だって自分が満たされるためのものでしかない。そんな愛で、自分のための心地よさを作り出そうとしてるだけ。自分を愛するために踏み台にしているだけ。絶望したよ」

  ――『グッドバイ・ガール』(著:ナツガナ、『pluː vol.01』収録)

〈家族愛〉について検討したくなった時に、このようなキャラクターのリアルなセリフが目の前に現れるのは、一種独特の新鮮な体験です。論説的な主張とはまた違う、生々しさを伴った体験がここにあります。

そんなわけで、本書の索引は少し変わったことに挑戦しています。

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