「新国誠一の《具体詩》 詩と美術のあいだに」と、大阪で観るアート[2009・1]

1月×日

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展覧会ではないが、数少ないデザ友のウチコガさんのお誘いで、目黒のグルーヴィジョンズの事務所で開かれる「グルビのフリマ2」に行く。ぼくのグルビ歴は東京初進出のROCKETでの展覧会から。集めたGRVナンバーは数知れず。あまりに好きだったので、当時勤めていた会社で進行していたTHE BOOMの10周年記念企画のデザイナーにグルビを推薦。ディレクターに同行して憧れの伊藤さんとの面会を果たすという職権濫用っぷり(もちろんGRV0892の名刺はいまも大切に持っているし、『No Control』ほか4枚のグルビデザインのCDがあとに残された)。そんな時代ももはやノスタルジーの彼方である。この日は結局、当時の事務所の棚でも光っていたDIGITALOGUEのティッシュボックス(GRV2000パッケージの元ネタ)とoasisのロゴをパクった「oaiso」コースターセットの2点をゲット。

1月×日
新年初の展覧会はなんと大阪で。去年娘が生まれる前日がCDの入稿日だった大阪在住のロックバンドが、地元で行うツアーファイナルを、特別に旅費付で観させてもらうことになった。会場に早めに着いたので、ちょっと抜け出して近くにあるdddギャラリーで開催中の「ヘルベチカ展」へ。去年から今年にかけてヘルベチカ書体の回顧展がいくつか開かれているが、これは間もなく出版される「Helvetica Forever」という本の関連企画らしい。ヘルベチカの制作過程のノートや、ヘルベチカを使った世界各国のデザインの展示など。大阪のdddは銀座のggg(どちらも大日本印刷系列)に比べて狭く、展示もコンパクトで物足りなさを感じつつ、とにかく最近のASKULのパッケージが何よりも強く印象に残った。

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そのあと電車で中之島に行き、今回の大阪行きの(ライブをのぞく)最大の目的だった、国立国際美術館「新国誠一の《具体詩》 詩と美術のあいだに」へ。新国誠一は、コンクリート・ポエトリー/具体詩と呼ばれるジャンルで革新的な作品を残した詩人である。彼の名前を知ったのは、たしか2002年頃、名古屋のコロンブックスで、やはりこのジャンルの第一人者として有名な北園克衛の展覧会が開かれたとき、会場で買ったコンクリート・ポエトリーの作品集「anthology of concretism」に載っていたのを見たのがきっかけだった。リンク先でも見ることができるが、リミックスやカットアップにも似た手法で、日本語・漢字の全く新しい側面を切り取った作品に衝撃を受けた。前衛的なのにその芯に確実にポエジーが宿っているところにも強くひかれた。代表作の詩集『0音』をずっと探していたが、このたび『0音』を含むこれまでの仕事の集大成となる待望の作品集/カタログが発売されるのにともない、大阪で回顧展が開かれることになった。詩集として本として見るのもむろん良いが、こうやって大きく引きのばされた作品一点一点とギャラリー的空間でまっすぐ向かい合うのが、新国誠一の詩にはとてもふさわしく思えた。もちろん作品集『新国誠一 works 1952-1977』も購入。

すぐ近くのgraf media gmにも久し振りに寄った。前回訪れたのはKiiiiiiiとOnnaCodomoのライブのとき(田名網敬一関連のイベント)。この日は佐々木愛「GOLDEN」という展示の期間中だった。昨年ここで展示をしたKiiiiiiiの大きな缶バッジが売られていたので、すかさず購入(しかし十日後くらいにいきなり紛失……くやしいっ)。

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大阪公演が波瀾万丈のうちに終了し、きょうは一部のCD購入者を対象にしたスペシャルミニライブの日。雨降りだったが、ほんの少しだけ時間が取れたのをいいことに、電車で心斎橋へ移動し十数年ぶりにアセンスに行った。アセンスギャラリーでは、ナディッフでも見た昭和40年会の展示をやっていた。冷静に比較すれば、やはり東京の展示の方がばかばかしさの面では上だったし、昭和40年会という団体には合っているように感じられた。大阪で、というか、東京以外の地方でアートを好きで居続けるのは、きっと特別なことに違いない。東京に比べたらギャラリーの絶対数も広さ・環境も不足しているだろうし、受け手の側もアンテナを高く鋭く伸ばす努力が必要になる。だから地方が劣っているとかそういう話ではなく、逆にその土地ならではの独自の文化が育つことにつながるかもしれない……というようなことを帰りの電車の中でつらつらと考えた。

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松屋銀座で玲子のおばあちゃんが吊し雛の展示会をやっているというので朝から観に行った。色鮮やかな毬と、それぞれに由来がある動物や野菜やいろんな物がひとつひとつ手縫いで作られ、糸で吊されているものもあり、単品で盆に載せられるものもあり。ゆるキャラにも通じる可愛さもあって面白い。玲子のお母さんから娘の誕生祝いに、と単品のひな細工いろいろとお盆のセットを戴いた。有り難い。生後初めてのひな祭りにぜひ飾ろう。

せっかくの銀座なので、まずはRING CUBEというギャラリーで開催中の、森山大道写真展「銀座/DIGITAL」へ向かう。場所は、銀座の交差点の一角にある三愛ビルの上。実はここ、少し前までは喫茶店だったところで、打ち合わせによく利用していた。銀座のど真ん中にしてはリーズナブルな値段ながら、円筒型の壁の周囲にしつえられたテーブルの窓から、交差点を行き交う人々を神の視点で見下ろすことができる見事な眺望が売りだった。いまはリコーが丸ごと買い取ってカメラのショールーム&ギャラリーとして使われている……というわけだが、ギャラリーのためとはいえ絶好の眺望だった窓をほとんどカーテンで隠してしまうのは勿体なさすぎる。展示は森山さんが初めてリコーのデジタルカメラで撮り下ろした銀座の街並みということだったが、喫茶店の懐かしさが募るばかりでほとんど印象に残らず申し訳ない。

松坂屋のMUJIで少し買い物してから、新橋・クリエイションギャラリーG8の「仲條服部八丁目心中」へ。服部一成のミニマリズムと仲條正義の大胆さの対決が面白かった。どっちも勝ち。

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ひと山超えた記念に朝から三茶に行く。生活工房ギャラリーの「世田谷でみかけた書体」。書体デザイナー竹下直幸さんのフィールドワーク「街でみかけた書体」の世田谷ヴァージョン。ぼくなんかはどちらかというとカッコいい書体・自分の好きな書体を選り好んで使う傾向があるが、世の中では至る所でたくさんの書体がそれぞれの用途に合わせて(ときには微妙なミスマッチもはらみつつ)使われている、ということがよくわかる展示だった。書体に対する垣根を取り外さなくては、とちょっぴり反省。

次に青山に向かい、RAT HOLE GALLERYの森山大道写真展「北海道」を観た。1978年に北海道に3か月滞在して撮影した未発表写真からのセレクト。これは森山さんの真骨頂としかいいようがない。ユトレヒトのセレクトショップNow IDEAにも立ち寄ったが、この日は展示が休みだった。
 
――2010秋以降の展覧会ツイートを、こちらのハッシュタグ #gbiyori に残しています。

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