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『トーキョーサバイバー』編集後記

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東京のホームレスと大学生が出会い、人類学者が描いた『トーキョーサバイバー』。小社「うつつ堂」の初刊行本でもあります。 編集者としてこのnoteマガジンでは、本書の内容にもちょこっ…
運営しているクリエイター

#出版社

#9 人生は靴なり

中国でホームレスに「一番大事なものは何か?」と尋ねたら、「お金だ」と答える人が多いだろう…

#8 遺伝子

引っ越ししたい。 一人暮らしを始めて、これまでに12回引っ越ししている。できれば半年ごとく…

#6 寝る

塩塚モエカの細かな振幅のビブラートが身体に染みる。青葉市子の声は、深くて碧くてどこまでも…

#5 99%

知らなくていい話、だと思う。ホームレスのことなんて。芸能人のスキャンダルと同じくらい、自…

#3 チンチロリン

2017年、真夏の新宿西口カリヨン橋下。僕はしばらく立ったまま、足元に座るハシモトさんとくだ…

#2 手触り

手触りのない体験、経験が過剰に消費されるようになって20年くらい経つ。それが当たり前の世の…

#1 月の気分

母方の祖父母の家は、実家の団地よりも南にある。あの夜、じいちゃん家に向かう車中にはヘンテコなメロディにのった九九のテープがかかっていたから、小学2年生のころだと思う。東の空に、低く、満月がかかっていた。僕は助手席の後ろで窓に張りつき、オレンジ色に浮かぶ月を見ていた。 通学路の細道を横切って、見知った酒屋の前を通り過ぎる。隣の学区に入る。補助輪なしの自転車でようやくたどり着いたプラモデル屋がある通りに出る。車は南に向かって走っている。でも、どれだけ進んでも、月は同じところに浮