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心理的安全性を高めるリーダーシップとは?

この記事は、心理的安全性を高めるリーダーシップについて書くものである。インターネットで心理的安全性を高める方法を調べると「1on1をしましょう」「雑談をしましょう」といったことが書かれているが、これらは施策レベルの話である。

この記事ではそういった場面でリーダーが何を考え、どのように振る舞ったらいいかを紹介する。これが抜けていると、せっかく1on1や雑談をしても心理的安全性が高まらないかもしれないからだ。

心理的安全性の研究に基づいて書くと同時に、10年以上に渡る筆者のワークショップファシリテーターとしての経験も踏まえて書いているので、理論的にも実践的にも参考になると思う(なれば幸いです)。

そもそも、心理的安全性とは何か?

心理的安全性に対する誤解」の記事でも書いたが、心理的安全性という言葉は誤解されやすい。例えば、「仲の良い職場」が心理的安全性の高い職場だと考えている人もいる。しかし、心理的安全性はそのようなものではないし、そのような認識ではリーダーシップの発揮の仕方もずれてしまう。そこで、まずは心理的安全性の定義について確認したい。

心理的安全性研究の第一人者であるエイミー・エドモンドソン氏は、心理的安全性を次のように定義している。(なお、エドモンドソン氏は時と場所によって心理的安全性の説明の仕方を変えているが、当初のこの定義が最も誤解が少ないと思う。)

"A shared belief held by members of a team that the team is safe for interpersonal risk taking."
「このチームでは対人関係のリスクをとっても安心であるという、チームメンバーに共有された信念」

心理的安全性とは優しい場や仲の良い場ではなく、「対人関係のリスクをとれる場」という意味である。では、「対人関係のリスク」とはなんだろうか?次はそれを確認していく。(「なかなかリーダーシップの話に行かないなぁ」と思う人もいるかもしれませんが、ここの確認が後のためにとても大事なので、丁寧にいきましょう。)

対人関係のリスクとは?

エドモンドソン氏は、対人関係のリスクとして以下の4つをあげている。

「無知」だと思われるリスク
質問や相談をすると、「そんなことも知らないのか」と思われるかもしれない。

「無能」だと思われるリスク
失敗や間違いを認めると、「そんなこともできないのか」と思われるかもしれない。

「邪魔」だと思われるリスク
新しい意見を出すと、「議論の邪魔をしている」と思われるかもしれない。

「批判的」だと思われるリスク
懸念を表明すると、「批判をしている」と思われるかもしれない。

いずれも「リスク」と言うわりには大したことがないと思うかもしれない。実際、対人関係のリスクは火事などのように現実の危険(デンジャー)ではない。しかしこの程度のことができていないのが現実ではないだろうか。例えば職場においてはこんなことである。

  • 聞けばすぐに解決することを悩んでいる

  • 同僚に話せる内容と上司に話せる内容が違う

  • 懸念があっても、言葉を濁して終わる(結果、伝わらない)

これらはいずれも、情報共有や意思決定に影響を及ぼすものである。ひとつひとつは大したことではなくても、積み重なるとチームのパフォーマンスに大きな影響を与える。反対に、心理的安全性が高い(対人関係のリスクを恐れない)職場は次のようになる。

  • 必要なときにすぐ助けを求められる

  • 都合の悪いことでも上司に報告できる

  • 率直な意見交換が行われる

このようなチームはお互いから学習することができる。その結果、チームのパフォーマンスを向上させることができる。

【補足】心理的安全性の直接の効果は「学習できる」であり、パフォーマンスの向上はその次である。だから心理的安全性を高めてしばらくの間は学習が行われるだけで、パフォーマンスが向上するとは限らない。場合によっては、今まで話されていなかった内容が話されるため、チームに混乱が生まれパフォーマンスが低下する可能性もある。それを事前に覚悟しておくことはリーダーとして重要なことである。

エイミー・C・エドモンドソン「心理的安全性 対人関係構築の歴史、復興、未来」『看護管理 Vol.31 No.05 2021』p.374

心理的安全性を高めるリーダーシップとは?

では、心理的安全性を高めるにはどうしたらいいだろうか?エドモンドソン氏は当然その研究もしている。そして、心理的安全性を高めるにはリーダーシップが重要だと述べている。(ようやくリーダーシップの話になりました!)

心理的安全性の感じ方の違いには、マネジャーの行動が影響しており、これは、(個人が)ミスを認めたり、助けを求めたり、アイデアについて発言したりする対人リスクに関連した行動を起こした結果に対して、マネジャーが発するメッセージが異なることによって生じる。

エイミー・C・エドモンドソン「心理的安全性 対人関係構築の歴史、復興、未来」『看護管理 Vol.31 No.05 2021』p.373

「対人リスクに関連した行動を起こした結果に対して、マネジャーが発するメッセージが異なることによって生じる」とは、つまり次のようなことである。

  • 誰かがミスを報告したときに「なんでこんなことをしたんだ(心理的安全性を下げる)」と応えるか、「報告をありがとう(心理的安全性を上げる)」と応えるか

  • 誰かが初歩的な質問をしたときに「そんなことも知らないの?(心理的安全性を下げる)」と応えるか、「素朴な質問大事ですね(心理的安全性を上げる)」と応えるか

  • 誰かが懸念を表明したときに嫌そうな顔をする(心理的安全性を下げる)か、「違和感の表明をありがとう(心理的安全性を高める)」と応えるか

これらはいずれもシンプルな行動である。同時に、心理的安全性を下げたり上げたりすることも分かりやすい。

……が、実際に行うのはなかなか難しいものでもある。

なぜなら、対人関係のリスクを取った行動はリーダーにとって「不快なこと」とセットでやってくることが多いからである。

例えば、ミスが報告されること、忙しい中で初歩的な質問をされること、結論が出そうな会議で異なる意見が出ること。これらはリーダーにとっては「不快なこと」としてやってくる。

そしてそれに反応してしまうと、心理的安全性は下がっていく。だから心理的安全性を高めるには、短期的な「不快なこと」はスルーして、中長期的な「望ましい行為」に反応していく必要がある。これはある種の瞑想的なスキルで、トレーニングが必要なことである。

心理的安全性を高めるリーダーシップは特別なことではない。むしろ、多くの人にとって望ましい振る舞いとも言えるだろう。しかし、それにも関わらず心理的安全性の高い職場が少ないのは、実際にそれができる人は少ないからである。

どうしたら心理的安全性を高めるリーダーシップが発揮できるようになるか?

さて、そろそろまとめに入ろう。結論として、どうしたら心理的安全性を高めるリーダーシップが発揮できるようになるか、についてである。

まず大事なことは、この記事で書いたような心理的安全性を高めるリーダーシップの仕組みについて「知る」ことである。心理的安全性を高めるリーダーシップは「普通の反応」に反するものでもある。それを知っておかないと、「普通の反応」から抜け出すのはなかなか難しいだろう。

次は、心理的安全性を高めるリーダーシップの振る舞いを実際に「行う」ことである。とはいえ、いきなり完璧にできるものではないから、自分の普段の反応をふりかえりながら、少しずつ改善していけばいいだろう。

また、前提としてチームとして心理的安全性を高めていく「共通認識を持つ」ことも非常に大事である。それをせずにリーダーだけが行動を変えたとしてもなかなか伝わらないし、場合によっては「リーダーはどうしたんだろう……?」と逆に不安を与えてしまう可能性もある。

さらに言えば、リーダーは役割であるが、リーダーシップは行動である。だから、心理的安全性を高めるリーダーシップは誰もが発揮できることである。だから私は理想的には(そして現実的にも)、心理的安全性をつくるためには、チームメンバー全員が心理的安全性を高めるリーダーシップを発揮していくことが大事だと考えている。

このうち、リーダーシップの仕組みについて「知る」ことはリーダーひとりでもできることである。しかし、リーダーシップを実際に「行う」ことや、チームとして「共通認識を持つ」ことは、リーダーひとりで行うのはなかなか難しいだろう(長く孤独な戦いとなる可能性がある)。さらに、チームメンバー全員が心理的安全性を高めるリーダーシップを発揮していくことに関しては、外部からの助けを借りたほうが望ましい。

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