俳優がインプロを学ぶ理由はきっと「演技力」のためではなくて
僕はこれまで俳優向けのインプロワークショップを何度も行ってきた。その中で分かってきたのは、俳優がインプロ(即興演劇)を学ぶ理由はいわゆる「演技力」のためではない、ということだ。
先月、僕は若手女優たちによるオンライン・インプロ番組『アドリブ・ロワイアル』の指導と演出をしていた。出演者のほとんどは事務所所属の子たちだったが、本当に若く、演技経験の無い子も多かった(しかしとても素直でいい子たちだった)。
だから彼女たちにはインプロの原理(恐れを取り除くこと)についても演技(テクニカルなこと)についても少しずつ教えていった。そしてその中で思ったのは、若い俳優は演技力を伸ばすことよりも、まずは自分が持っている可能性や良さを引き出すことが大事、ということだった。
稽古や本番を通して、僕が彼女たちの演技力を向上させられたかというと、その自信はない。しかし、彼女たちがより自分らしく輝くことができるようになった、という点については自信をもって言える。そしてその姿はとても美しいものに思われた。
若いということは、それだけ可能性が開かれていることである。だからまずはその可能性を見てみることが大事だと思う。演技の技術を身につけるのはその後で構わない。
反対に、もしベテランの俳優がインプロをやる理由があるとしたら、それはきっと壁に当たった時だろう。ベテランであれば、演技についてはそれこそ僕よりも身につけているはずだ。しかし、そのやり方ではどこか突き抜けることができなかったり、もっと根本的な問題として演じることが楽しめなくなったとしたら、一度インプロの世界に足を踏み入れているとみるといいだろう。インプロを学ぶことは、あなたが既に持っている価値観(そして同時に壁)を壊すきっかけになるはずだ。
『BLUE GIANT』という漫画がある。ジャズを題材にしていて、「即興する」ことの面白さや難しさを丁寧に描いている漫画だ。(インプロに関する漫画は『プレイフル』があるのでこちらもよろしく。)
この漫画の中に印象的な場面がある。それは主人公の師匠が、主人公に対して「下手くそだけど、お前は咲いている」と告げる場面だ。
インプロを学ぶことは、あなたの土に栄養を与えて、その花を咲かせるようなものである。その花をどのようにアレンジしていくかは、後で考えたらいいことだ。
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