京都大学 (2022) 国語 第一問 問一

 もはや存在を忘れられてしまう程に、更新が空いてしまいました…。新年度が始まるまでのわずかな空き時間を活かし、今年も京都大学の現代文についてお話できればと思います。

 Twitterでもつぶやきましたが…今年度の京都大学 現代文は、かなり混沌としていたなぁという印象です。特に、問一と相対した時は従来の傾向との違いに少し驚きました。それでは、早速読み解いていきたいと思います。

1) 「設問の要求」の分析

  今回は、「どういうこと」問題です。そのため、求められていることは「傍線部の具体的な言い換え」です。したがって、最初に用いるべき作戦は「傍線部の分析」と考えられます。

 そしてこの「具体的な言い換え」は、京大現代文の潮流にしたがい、次の傍線部までを基に行うことを目標とします。

2) 「傍線部、およびこれを含む一文」の分析

 まずは、傍線部の構造を分析します。構造は、「どっちが伝統だか … A) 」という疑問に対して、「わからない …B) 」というマイナスの情報が付与されている、というものです。これらを「目を引く語」に設定し、具体化を行います。なお「目を引く語」の定義については、「京都大学 (2021) 第一問 問二」の解説記事をご覧ください。

A) ”どっちが伝統だか”

 一つ目は、指示語である”どっちが”です。そして、指示語は無条件に指示対象を具体化しておくのが良いです。答案に含めるかどうかは議論が必要ですが…内容理解には必ず役立ちます。

 さて、このどっちがの指示対象についてですが、等位である二つの語のペアと予想できます。この「ペアの発見」を目的として傍線部(1)前を読み返すと、「コーリン、タンニュー、トーハク」・「ダ・ヴィンチ…ミケランジェロ」の二群が見つかります。ただ、このような具体度の高い情報は、答案の材料として使いにくいです…。そこで、これら二群の抽象化を試みます。前者の「コーリン...」群は全て日本人の画家の名前、後者の「ダ・ヴィンチ…」群は全て西洋の画家の名前です。したがって、これらの群はそれぞれ「日本の画家(芸術)」・「西洋の画家(芸術)」と抽象化できます。

 そしてこれら二群は、対比関係にあると予想されます。なぜなら、「日本の画家」群については(日本の若者が)新薬と勘ちがい(-)と説明されている一方、「西洋の画家」群には(日本の若者が)ご存知(+)という説明が付されているからです。…A)-ⅰ

 さらに、「対比」の具体化の際は、何に基づいて比べられているかという「対比の軸」の具体化が必要です。それは、1段落および傍線部(1)の内容から「"若い世代"にとっての、"古典芸術"」だとわかります。…A)-ⅱ

ここで一旦、情報の整理のためにも答案のパーツを作成します。

答案のパーツ A)

【今日の若い世代】にとっての【古典芸術】は、 …A)-ⅱ

【日本の芸術】ではなく(-)、【西洋の芸術】である(+)。 …A)-ⅰ


B) ”わからない”

 傍線部(1)わからない(-)について、その対象を足す必要があります(∵ 文法的欠落要素)。それは、答案のパーツ A)の内容が中心となります。したがって、答案のパーツ A)内から、わからないにつながる「マイナスの要素」を見つけなければなりません。

 そして、この「答案のパーツ A)内のマイナス要素の具体化」が、この設問の最大の難所と感じます。

§ 答案のパーツ A)のマイナスの具体化

答案のパーツ A)の内容は、

「今の若い世代(日本人)」が、「日本の芸術(家)」を知らず、「西洋の芸術(家)」を知っている。

というものでした。

 では、これのどこにマイナス要素があるのか? それは、「若い日本人」が自身と同じ「日本の芸術」を知らずに「西洋の芸術」だけ知っている、という点にあります。なぜなら、この点は傍線部(1)内でわからないの対象となっている”伝統”という語の辞書的意味に相反するからです。

 さらに、この相反する状態を凝縮した「マイナスの単語」があると、答案がグッと締まります。僕は、この日本人が、"伝統"として日本の芸術を知らずに、西洋の芸術だけ知っているという要素を、「逆転」という語で締めました。 …B)

3) 〈答案の枠組み〉の作成

  B)の議論を参照し、答案のパーツ A)をもう一段階大きな枠組みへと更新します。

答案の枠組み

 答案のパーツ A)という逆転が生じている(B)、ということ。


 ここで答案を作成したところ、内海の答案は字数が不十分になりました…。そこで、さらに具体化可能な情報の探索を試みました。着目したのは、A)-ⅱ内の今日の若い世代です。この人物の情報に、逆転(B"と関連するものはないか探しました。

 すると、傍線部(1)内”これからの世代(≒ ”今日の若い世代”)にうけつがれる伝統”に目を引かれました。この内容から、”今日の若い世代”は”伝統”をうけつぐべき存在として捉えられていると分かります。そこで、答案の枠組み内のA)-ⅱに…

伝統の継承を期待されている今日の若い世代 …A)-ⅱ-1

という情報を付け足しました。


4)内海の答案

 以上の議論を基に作成した答案が以下の通りです。


伝統の継承を期待される今日の若い世代が …A)-ⅱ-1

古典芸術としての価値を…A)-ⅱ

日本の芸術ではなく西洋の芸術にしか見出していないという …A)-ⅰ

逆転が生じているということ。 …B)      (72字)


以上です。

 個人的に、今年度の京大 現代文は、この大問一の問一が最も難しかったと感じました。そのため、やや冗長な解説になったことを反省しております…。ただ、どこかで何方かのお役に立てることを祈っております。

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