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暗渠の人びと

わたしが住んでいるマンションは暗渠の道に面していて、細いながらもけっこう人通りが多い。
うちより南側に住んでいるひとたちは、ここを通って北上し、駅や商店街や学校に行く。

小学校に行く通り道にもなっていて、朝と、それから昼と夕方の中間ごろにランドセルを背負った子どもたちが通っていく。うちの猫がその様子を出窓に乗ってじっと眺めている。
彼らは朝は一人か、せいぜい二人で登校するから、ほぼ無言で静かに歩いて通っていくのだけど、帰りは5〜6人以上でわーわー騒いだり走ったりしている。
目ざとい子がうちの猫を見つけて、身じろぎもしないからぬいぐるみなのか本物なのかでみんなで騒いでいることもある。
それから、下校のときでも一人で下を向いて歩いている子がときどきいる。一人なのはぜんぜんいいけど、うなだれているのが気になる。大きなお世話だけど。

オペラ歌手ばりの歌唱力で歌いながら自転車でさーっと通過していく女のひともこの暗渠の常連だ。
きっと暗渠を抜けたら歌はやめるんだろう。それで、駅の向こうのスーパーで買い物して、また歌いながら帰ってくる。

赤ちゃんが泣きながら通っていくと(もちろんおとなと一緒に)、猫は出窓に飛び乗って、心配そうにか、興味深そうにか、泣き声が聞こえなくなるまでその行く末を眺めている。

先だって徹夜をしたのだけど、真夜中になってもいろんなひとが暗渠を通っていた。
イヤホンで大音量の音楽を聞きながら歌っているんだろうか、ものすごく大声でものすごく調子っぱずれで歌いながら通り過ぎていく若い男の子。
なにを話しているのかわからないけど、ラブラブな雰囲気だけは伝わってくるカップルが歩いているかと思えば、女の子が泣いていて男の子がなだめながら通り過ぎていくカップルもいる。
アジア系の女の子たちが楽しそうに話しながらぶらぶら歩いていき、まくしたてるように電話で話している英語圏のひとらしい男性は早足で通り過ぎていく。

年に数回しか見かけないけど、フェンスの下をくぐって出窓の下に外猫がやってくることもある。「お友達が来たよ」とうちの猫に声をかけても知らんぷりしているので、同類にはあまり興味がないみたいだ。
そうだった。うちの猫は子猫のころに一度もらわれたのに、そのお宅の先住猫がストレスで下痢になってしまうくらい傍若無人に振る舞ったんで、出戻ってきたんだった。

今朝出窓を開けたら、「お友達」の落とし物が芳しい香りを放っていた。

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