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ぴあサポマガジンvol.3「生成AIはレポートに有用か?」

 今月のぴあサポマガジンでは、現在急速に利用が進む、ChatGPTなどの生成AIをどのように活用すべきか、筆者の経験も踏まえて考えていきたいと思います。ただし、筆者は情報分野が専門ではなく、胸を張れるほど活用方法を知っているわけではありません。主に普段AIを使ってない東大生に向けて書かれたものであることをご承知おきください。
※情報は2023年6月17日現在のものです


東京大学における対応

 まずは東京大学が公式に出している生成AIに関する取り扱いを確認しておきましょう。2023年4月3日に太田邦史理事・副学長の名で出された「生成系AI(ChatGPT, BingAI, Bard, Midjourney, Stable Diffusion等)について」という文書は学内外で大きな反響がありました。ちょうどChatGPTが大きな話題となり始めていた時期で、生成AIは「パソコンやインターネット、スマートフォンの登場時と同等、あるいはそれ以上の社会的な影響があると思」う、とされています。この文書で着目すべきは、一部の大学では利用が全面的に禁止されていたにもかかわらず、「人類はこの数ヶ月でもうすでにルビコン川を渡ってしまったのかもしれない」として、東大では積極的な活用をしながら問題点を見出していく方針を示したことにありました。
 筆者もこの文書に大きな衝撃を受け、今まさに世界が変わりつつあるのだと認識するようになったことを覚えています。ルビコン川を渡る、というのは、かの有名なカエサルが「賽は投げられた」と叫んで川を渡ったことに由来するといわれており、重大な決断をする、という意味ですが、そうした表現も面白く感じます。

 その後、同年5月26日付で再び太田先生から「東京大学の学生の皆さんへ:AIツールの授業における利用について(ver. 1.0)」という文書が出されています。学生の授業での活用について方針が定められており、一律の禁止はされないものの、授業の特性に応じて担当教員の指示に従う必要があるとされています。また、授業課題で生成AIが出力したままのものを提出することは、不正行為になるとして認められていません。

 実際の授業の現場でも様々な反応があり、シラバスでChatGPTの利用に関して方針を定めているものや、毎回の講義テーマをChatGPT等に説明させている講義もあるようです。

生成AIの種類とその正確性

 それでは続いて筆者が利用している3つの生成 AIを少しづつ見ていきたいと思います。まずはOpenAI社のChatGPTです。アカウント登録は必要ですが、基本は無料で利用することができます。月額料金を払えば、より高性能なGPT-4(無料版はGPT-3.5)を利用できますが、筆者は無料版しか利用していません。
 それでは東京大学の所在地を尋ねてみましょう。

 なるほどなるほど、東大は荒川にもあったんですね……。住所については正確ですが、荒川にはキャンパスはありません。このように、ChatGPTの無料版は比較的誤った情報が多い印象です。他のAIでも同じですが、誤った情報をまるで真実であるかのように出力してくることには十分注意しなくてはなりません。

 続いてGoogleのBardです。筆者ははじめ「Bird」だと誤解していましたが、詩人を意味する「Bard」が正しい名称です。こちらはGoogleのアカウントがあれば利用できますが、執筆している6月17日時点で、ECCSアカウントでは利用できない状況です。
 それでは先ほどと同じ質問をしてみます。

 こちらでは必ずしも誤ってはいない情報が出てきました。中野キャンパス、というのは聞き慣れないですが、教育学部附属中等教育学校がある場所のことで、正しい情報です。確かにこれら4つのキャンパスは実在しますが、肝心の駒場キャンパスが抜けており、浅野キャンパス、白金台キャンパスを足してもいいところです。Bardでは他の回答も表示させることが特徴になっています。

 最後にMicrosoftのBing(新しいBing)です。こちらもアカウントは必要ですが、無料で利用することができます。マイクロソフトがGPT-4を検索用に改良したもので、かなり使い勝手がいい印象です。

 見事な情報が返ってきました。メインの本郷キャンパスだけでなく、他のキャンパスについても正しい情報が出力されています。画像では部分的にしか見えなくなっていますが、下の方に地図も出力されています。
 Bingの特徴は、引用元が記されていることです。今回の検索でもそうですが、引用された1〜3以外でも参考になる情報が「詳細情報」の欄に付けられており、尋ねた情報以上に知りたいことが知れるようにもなっています。また、ChatGPT(無料版)は最新の情報に弱いという問題がありますが、Bingは最新情報も答えることができ、その回答も「より創造的に」「よりバランスよく」「より厳密に」の3つから選ぶことができます(今回は「より厳密に」を使用しています。「より創造的に」では画像生成も可能です)。

※同じ質問をしても回答はその時々で変化します

レポートでどこまで使える?

 ということで筆者は使い勝手が良く、情報が正確なBingを愛用しています。どのように使っているか、一例をご紹介できればと思います。
 筆者は現在のところ、主にプログラミングの授業で利用しています。毎週出される「〜というプログラムを作成せよ」という課題に対し、まず自分の頭で考えるようにして、それでもわからない時に、Bingに「〜というプログラムを作成してください」と入力したり、「このプログラム(自分が作成したもの)はなぜ動かないのですか?」と聞いたりしています。
 問題となるのは、Bingの正確性です。例えば、外部のファイルの段落数を数えたい場合で、段落数を仮に改行記号でカウントしている場合には、タイトルの前後やファイル末尾をどう扱うかでズレが生じる可能性があります。また、Bingが正確すぎるゆえに、授業でまだ扱われていないプログラムが出力される場合があります。この場合は「〜は使わないでください」という指示を加えています。Bingに求めているものを出させるためには、指示の仕方も工夫しなければなりません。
 また、ちょっとした調べごとにも利用しています。先ほどの授業の例では、忘れてしまったメソッド(プログラム内で「.」をつけて呼び出す操作)の使い方について尋ねています。他にも「デレク・ハートフィールド(村上春樹『風の歌を聴け』に登場する架空の人物)という人物について教えてください」といった検索をしたりしています。

 一般のレポートについては筆者はまだ利用したことがなく、未知の領域です。特に文学系のレポートではそのまま課題を入力して文章を出力させても、引用を参考に自らの力で考察をする、という観点で不十分な回答になってしまうでしょう。例えば基礎的なワード・概念の説明を得る、参考文献の候補をリストアップさせる、文献の要約を出力させる、箇条書きを文章化する、文章を読みやすいものにする、文字数を調整させる、といった利用が考えられるでしょうか。このあたりはさらなる知見が溜まっていくことを期待したいと思います。
 ただし、あくまで利用には注意が必要です。先の東大の方針にあったように、授業課題に出力そのままを利用することはできませんし、担当教員が禁止している場合には使用できません。制限の範囲内で活用することが重要です。

おわりに

 生成AIの進歩は目覚ましく、日常生活を大きく変えてきました。そうした社会の波にどう立ち向かっていくのか、大学という場所でも問われていると言えるでしょう。単に楽する、ということでなく、生成AIを用いれば、これまで以上に良質な成果を上げられるかもしれません。この記事が皆さんの学業、ひいてはもっと広い社会の文脈で、少しでもプラスの影響を与えられたら幸いです。
 ちなみに、本文ではAIは使ってませんよ……!

【参考書籍・WEBサイト】
OpenAI、ChatGPT〈https://openai.com/blog/chatgpt〉。
Google、Bard〈https://bard.google.com/〉。
Microsoft Bing〈https://www.bing.com/?scope=web&setmkt=ja-JP〉。
東京大学「施設等所在地」〈https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/about/campus-guide/list.html〉。
東京大学授業カタログ2023年度版〈https://catalog.he.u-tokyo.ac.jp〉。
Microsoft「新しい Bing が OpenAI の GPT-4 上で稼働」2023年3月15日〈https://news.microsoft.com/ja-jp/2023/03/15/230315-confirmed-the-new-bing-runs-on-openais-gpt-4/〉。
utelecon「生成系AI(ChatGPT, BingAI, Bard, Midjourney, Stable Diffusion等)について」2023年4月3日〈https://utelecon.adm.u-tokyo.ac.jp/docs/20230403-generative-ai〉。
utelecon「東京大学の学生の皆さんへ:AIツールの授業における利用について(ver. 1.0)」2023年5月26日〈https://utelecon.adm.u-tokyo.ac.jp/docs/ai-tools-in-classes-students〉。
※いずれも確認は2023年6月17日。

【筆者紹介】
文学部4年生。ソリティア(クロンダイク)の遊び方がわからない。

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