財務を見るときはタテ、ヨコ、イト
「結局、うちの財務状態は良いのでしょうか、悪いのでしょうか?」
とある会社の財務諸表を拝見していたら、社長さんにこんなことを聞かれました。
財務状態が良いのか悪いのか。
その問いに答えるには、タテ、ヨコ、イトと見比べる必要がある……と、即興でなんだか巧いこと言った気がするので、こちらにも書いてみることにします。
タテと比べる
タテとは時系列。つまり、自社の過去と比べてみるということです。
たとえば、売上高が毎年10%ずつ増えていたら、会社が順調に成長していると考えられます。
たとえば、営業利益が毎年10%ずつ減っていたら、どこかで想定以上の費用が発生している可能性が疑われます。
直近3年分くらいの情報があれば、ある程度意味のある変動を読み取ることが可能です。
ヨコと比べる
ヨコとは他の会社。特にビジネスモデルが似通っていると考えられる同業他社と比べてみるということです。
その際は、会社の規模を捨象して比較できるように、絶対額ではなく比率を用いることが多いです。
たとえば、同業他社と比べて売上高営業利益率(営業利益÷売上高)の値が高ければ利益が出やすい企業体質になっていると考えられます。
たとえば、総資産回転率(売上高÷総資産)の値が低ければ無駄な資産を抱えている可能性が考えられます。
また、ヨコのタテを見る、つまり同業他社の業績推移と自社のそれを比べてみることも大切です。
イトと比べる
ここまで、タテ(自社の過去)、ヨコ(他社)と比べることの意味を書いてきましたが、実は最後のイトこそが一番大事だったりします。
イトとは意図。つまり戦略です。
「タテと比べた結果、営業利益が半減していることが分かった!」
それだけ見れば大変な事態ですが、たとえば将来に備えて大きな設備投資を行ったなら、営業利益が減るのは当たり前です。
「ヨコと比べた結果、わが社の売上高営業利益は極端に低いことが分かった!」
それだけ見れば儲からない会社となってしまいますが、薄利多売型のビジネスモデルを採用していたり、特に中小のオーナー企業で多いのは「税金取られるくらいなら従業員に還元する」と給与・賞与を厚くする方針を採っていいたら、利益が少ないのは当たり前です。
財務諸表の数字がどのような戦略に基づいて出てきたものか。
それは意図したものなのか。
それこそが、財務状態の良し悪しを判断する際の最も重要なポイントになります。
たとえばこんなケース
たとえば、オンラインで雑貨を販売している会社があるとします。
タテと比べると、売上高は順調に増えているものの、営業利益が増えていない。
つまり、売上以上にコストが増えていることが分かります。
ヨコと比べると、どうも競合他社より仕入原価、人件費、配送コストがそれぞれ5%ほど高いことが分かりました。
ここから
「販売価格が安すぎるか、仕入れ価格が高すぎるのではないか」
「店舗運営に人手がかかりすぎているのではないか」
「配送料は値下げ交渉の余地があるのではないか」
などの仮説が立てられます。
そして最後にイトと比べると、この会社はここ最近、売れ行きは良いものの単価の低い商品の取り扱いを増やしていて、それによって発送件数が大幅に増えていること、配送費用については昨年値上がりしていることなどが分かりました。
つまり、売上高UP、営業利益横ばいはある意味当然の結果であり、これを是とするならばこのまま続ければ良いし、改善したいのであれば
「単価の高い商品にシフトして発送件数を抑える」
「発送にかかる手間を減らして人件費を抑えるとともに、数が増えているので運送業者に値下げ交渉をする」
などの打ち手を考えていく必要があります。
タテ、ヨコ、イトと比べる
以上のように、財務状態の良し悪しを判断するには
タテ(自社の過去)、ヨコ(同業他社)、イト(戦略)
の三つと比べる必要がある、というお話でした。
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