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古代ローマに学ぶ権限委譲の類型

先日、権限委譲についてお話をしていた際、平時と非常時では権限委譲のやり方が違うよねという話題が出たのですが

「あー、古代ローマでいうと執政官と独裁官の違いですね」

と言っても通用しなくて切なかったので、いい機会だからこちらで論じてみることにします。

古代ローマの統治システム

古代ローマの人々は、自分たちを

Senatus Populusque Romanus(ローマの元老院と市民)

と称していました。
貴族で構成される元老院と、一般市民である平民(彼らも民会と呼ばれる意思決定機関を構成していました)が国家の主権者であると考えられていたのです。

そして元老院と平民たちは執政官(consul)を選出し、政治と軍事の権限を委ねました。

執政官(平時の権限委譲)

執政官は政治と軍事の最高責任者であり、王に相当する強力な権限を持っていましたが

・任期は1年で、毎年選出される
・2名選出
・うち1名は必ず平民でなければならない
 (貴族は放っておいても選出されるので、平民枠が設けられました)
・護民官(平民の代表)が拒否権を行使する場合がある

という制約がありました。
これらは執政官に互いをけん制させることで、権力が一人の人間に集中し、暴走することを防ぐための措置でした。

しかしこのように権限を分散させることは、意思決定のスピードや大胆さとのトレードオフをもたらします。
そこで、国が大いに乱れて思い切った改革が必要になった時や、外敵に攻め込まれて国家存亡の危機にある時など、より迅速で果断な意思決定が求められる場合には、独裁官(dictator)を任命して対処を委ねたのです

独裁官(非常時の権限委譲)

独裁官は執政官、元老院などのあらゆる政府機関の上位に位置する役職で

・任期は半年で、非常時にのみ選出される
・1名選出
・護民官の拒否権は無効

という、文字通り政治を独裁する権限を与えられました。
一方で非常任であり、かつ任期は執政官の半分しかないことから、ローマの人々が独裁官というシステムを、一時的に用いる劇薬と考えていたことがうかがえます。

ここまでのまとめ

両者の特徴をまとめるとこんな感じです。

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選出プロセスの違い

また、選出のプロセスについても違いがあります。

執政官は選挙を経て選ばれるのですが、そこには

「俺たちの親分を執政官にしよう」
「あいつには借りがあるから、今回はあいつを応援してやろう」

という個人的な思惑や政治的な駆け引きが入り込む余地がありますし

「まだ実力不足かもしれないが、役が人を育てるというし、彼にやらせてみよう」

なんてのもあったはずです。

一方、独裁官は執政官が指名します。
そして指名するにあたっては目の前に具体的な難局が待ち構えているので、とにかくそれを乗り切る能力を持っていることが要件です。
つまり、徹底的な能力重視。個人的な好悪や駆け引きが入り込む余地はありません。

平時と非常時の権限委譲

以上をまとめると

平時の権限委譲は執政官モデル。
既存のルール内で、ある程度の制限をかけた上での権限委譲。
成果だけでなく、人間関係や育成といった要素も勘案した人選になる。

非常時の権限委譲は独裁官モデル。
ある程度ルールを無視して、非常に強力な権限を委ねられる。
求められるのはとにかく成果。眼前にある課題を解決できる能力の持ち主が選ばれる。

これが

「あー、古代ローマでいうと執政官と独裁官の違いですね」

の意図となります。

おわりに

こちらのノートを書きながらあらためて古代ローマの政治システムを見直していたんですが、ほんとにうまくバランスが取れているんですよね。
なにせ数百年に渡って発展を続け、最終的に世界の西半分を征服した組織のシステムです。

企業における組織作りにも、絶対参考になると思います。

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